ひいばあちゃんと聖剣適合……ってよくわからないんだが?
突如襲来したひいばあちゃん。
現在我が家の居間で優雅にお茶を飲みながらじいちゃんや父ちゃんと談笑している。
ぎるじいはリリーおばあちゃんに頭が上がらない様子で、顔色が悪い。
なぜ突然リリーおばあちゃんが現れたかと言うとこうだ。
リリーおばあちゃんは聖剣教会のお偉いさんらしく、いつものように教会で仕事をしていた。
すると突如教会が管理している闇属性の聖剣が輝きだし、これは何事かと慌ててシスターがリリーおばあちゃんに報告。
リリーおばあちゃんが聖剣の前に到着すると、聖剣から声が発せられた。
曰く、君のひ孫さんが転生者で聖剣の適合者だからレクチャーしに行って、と。
リリーおばあちゃんはひ孫の俺の存在を知らなかったため、一番近くにいる息子のぎるじいの元へ確認しに魔大陸に向う。
するとぎるじいは居なかった。事情を聞きに元パーティメンバーの城塞の開発を担う研究者に話を聞きに行くと
「孫が産まれたと言って冒険者を辞め、草原へ向かった」
と言われ、憤慨。
普段は使用を制限している闇魔法「ゲート」でぎるじいの背後へ移動、強襲。
今に至る。
これを聞いて色々と質問した。
まあ聖剣適合者とか不穏な事言ってたし。
聖剣教会とは、かつて召喚された勇者が身につけていた物を、神が力を注ぎ武器にした「聖剣」を管理している教会だ。
この聖剣教会はいずれ再び来るであろう厄災に向けて聖剣を管理し、適合者を探す事を目的として作られた組織らしい。
聖剣は七本。
闇属性の聖剣。これは魔大陸の近くに住む魔族の元に召喚された「魔族の勇者」が持っていた。
命属性の聖剣。これは竜達の孤島群に召喚された「竜の勇者」。
風属性の聖剣。これは我らが黄金の草原に召喚された「草原の勇者」。
土属性の聖剣。これはドワーフ連峰に召喚された「土人の勇者」。
水属性の聖剣。これはエルフの大森林に召喚された「森人の勇者」。
火属性の聖剣。これは人族の大大陸に召喚された「人の勇者」。
そして、属性の無い力の聖剣。これは魔大陸に召喚された「獣人の勇者」。
聖剣の適合者が見つかっても厄災が起こると確定した訳ではなく、勇者召喚以来未だ厄災は起こってないとか。
ちなみにこの「厄災」だが、魔物の氾濫らしい。
原因は魔力の暴走。
勇者が各地で魔物と戦い、魔物を魔大陸へ追い詰め滅ぼして、南極である魔大陸と北極である極光の氷原の魔力を意図的に軽い暴走状態にしてガス抜きをする事で厄災を止めたのだとか。
ちなみに普段狩ってるのは魔獣。これは魔力で変異又は進化した元は獣だったもの。
勇者が倒した魔物は暴走した魔力が形をなした物らしい。
そんでこの魔物。
倒しても純粋な魔力に戻り霧散するらしく、倒してもお肉にならない。
俺的には災厄なんざ起こると面倒なだけだな。
そんで聖剣適合者らしい俺だが、現在適合者の居ない聖剣である闇属性、風属性、土属性、力の聖剣のある場所を全て回らないといけないらしい。
無論、幼い俺は成人(15歳)してからですがね。
リリーおばあちゃんによると「見た目が剣じゃない」ものばっかりだとか。
災厄の後に組織を興した「人の勇者」と「獣人の勇者」が剣っぽい見た目の「聖剣」だったから聖剣教会になったとか。
そんでもって聖剣教会はもう一つ大きな役割をしている。
職業の決定だ。
これは5歳になった子供の全てに対して行うものである。
なんでも、自我が芽生え、魂が安定してくるのが5歳らしいのだ。
かつて、職業が無い時代があったらしいのだが、厄災の時に魔力が乱れ魔物が現れてから魔物に身体を乗っ取られることがあったとか。
その時、魂が身体から離れてしまい、身体から魔物を追い出しても本人の魂は戻ることなく廃人のような状態になった人が多かったらしい。
それを阻止するべく魂を身体と繋ぐために編み出されたのが「職業システム」なのだとか。
本人の未来への希望を聞き届け、その力を魂と身体を繋ぐのに扱う事で魂が離れる事を防ぐのが目的なのだが、嬉しい副産物としてその職業に見合った能力も経験により解放されるようになるとか。
ただ、職業は一人につき二つまでと定められており、それ以上魂と身体を繋ぐと身体が死んだ後も動く生きた屍になるらしい。怖え。
なので、普通は5歳の時にひとつだけ職業を決め、成人した後にもう一度教会へ行くのが普通らしい。
これは、人生のやり直しもかねて残すのが常識とか。
俺はもう料理人と暗殺者って決めてるけどね。
「だからね、ククルス坊や、縮めてクク坊だね。成人してたらまずは私の居る鬼ヶ島へ来なさいな。闇属性の聖剣があるし、力の聖剣のある魔大陸も近い。鬼ヶ島を拠点にして冒険者ランクを上げて魔大陸に行くといい。風の聖剣は草原の学び舎に有るから直ぐに確認出来るし、クク坊は土属性がないだろう? 多分、土の聖剣はクク坊には適合しない。あれは聖剣なんて名前だが槌だしね。それに鬼ヶ島なら私が闇属性の魔法をみっちり教えてやれる」
「今は教えてくれないの?」
「私はこれでもそこそこ偉くてねぇ。仕事が有るから帰らなきゃ行けないんだ。まったく……年寄りを働かせるなってんだ、ひ孫と碌に遊べもしない。もう直ぐまた1人生まれるんだろう? その頃にまた来るから、そん時はひとつだけ教えてあげるよ」
「もう帰っちゃうの?」
「……な、な〜に、今日くらいは泊まって行くさね。今迄どう過ごしたかとか前世のお話を婆に聞かせておくれ。それに馬鹿息子も叱らなきゃいけないしね」
「ホントに仕事大丈夫?」
「……まー若いの達にもいい経験になるさね。さ、お友達と一緒にお話を聞かせておくれ。クク坊は料理が作れるんだって?」
「うん。リリーおばあちゃんにもご馳走するよ」
夕食を気合を入れて振舞った。
ルフとパロルをふんだんに使い、鍋やら唐揚げやら豪華目に。
リリーおばあちゃんは「絶対に鬼ヶ島に来るんだよ! 来るまでに拠点用意して待ってるから! 厨房はいいのを用意するよ!」と俺の飯は気に入ったようだ。
今日は俺の部屋で寝るらしく、母ちゃん謹製のルフの羽根布団で二人並んでゴロンと寝転んだ。
「クク坊のひいおじいちゃんはね、クク坊みたいに食いしん坊でね。色んな所を旅した最後に鬼ヶ島に来て、私と出会ったんだ。ギルバルトが産まれた時にね、ひいおじいちゃんは人族の大大陸で産まれたから、息子にあんな争いと貧困がはびこる所は味わわせたくないって、黄金の草原に引っ越してね。ギルバルトはあんな図体だから草原だと居心地か悪かったのかね。成人したら直ぐに飛び出しちまって」
「ひいおじいちゃんは俺と似てるかもね」
「そうさね。クク坊はあの人に似ているよ。前世で孤児だったんだろう?」
「うん。前世も食いしん坊だったから、孤児院の食べ物だけじゃ物足りなくて、山に入って山菜を取ったり、川で魚を釣ったりしてた」
「あの人の子供時代もそうだったような事を言っていたよ。そうだ、鬼ヶ島にあの人の手帳が残っているよ。事細かに旅で食べた物が書いてあったよ。クク坊の役に立つならあの人も喜ぶさね」
「それは……たのし……み……」
「ふふ。ガデム……きっと……この子はあんたの手帳の続きを……楽しそうに書いてくだろう……あんたの夢の続きをね」
朝目が覚めるとリリーおばあちゃんはもう居なかった。
簡単な書き置きと、聖剣教会の七本の剣を飾った首飾りを残して。
『私は仕事が有るから先にいくよ。クク坊、その首飾りをして学び舎へ行くといい。風の聖剣を抜けるか試すために必要だからね。次は新しいひ孫が産まれているだろう秋頃くるよ。ひいおじいちゃんに似たイイ男になるんだよ?
リリー・マルレーン』
ぎるじいが晴れやかな顔をして修行を催促している。
まー、釘をリリーおばあちゃんにありったけ刺されただろうから前みたいにはならないだろう。
ドヴァンももう直ぐ来るだろうし、いっちょやりますか。
修行で男ぶりも上げなきゃね。