肉は腐りかけが美味いと言ったもんだが。
誤字脱字みたら感想へ!
肉は腐りかけが美味いと聞いたことは無いだろうか?
これはある意味間違いで、ある意味正しい。と俺は思う。
我らがお肉様は、食べる時死んでいるのが当たり前だ。
しかし、実際には身体の全てが死んでいる訳ではない。
生前のお肉様は身体に必要な要素であるアミノ酸を捻出するために酵素を持っている。
しかし、死後身体の機能が停止しアミノ酸が必要では無くなっても、酵素は生き続けタンパク質を分解し、アミノ酸を産み続ける。
アミノ酸とは一言で言うと「旨み成分」であり、美味しさのバロメーターの針を進める大きな一因である。
出汁の素だ。
なんか薄いなと思って入れるとまぁまぁ美味い、食える!! ってなる魔法の粉の原料。
特に我らが日本は出汁に煩いし、出汁をとにかく取る、入れる。
と、まぁ。
これが腐りかけが美味いって言う言葉の正体だと俺は思う。実際には腐ってないけど。断じて腐ってはない。
さて、そうなると何故腐りかけは美味いが間違いでもあるか。
それは匂いである。
当然の如く、アミノ酸を作り出す酵素だけが働いている訳ではない。
お肉様を熟成させるお部屋は、他の菌や他の酵素を抑えるため冷ややかな物が前世では主流だった。
それくらい気を使うものだ。匂いは味さえ変えてしまえる要素なのだから。
聞いたことは無いだろうか? かき氷のシロップの話を。かき氷のシロップは実は味は同じで、付いているフレーバーだけが違うというものだ。実際そういうシロップがあったと聞いている。
そう、だから腐りかけは美味いというのはとてもじゃないが全肯定は出来ない。
例えば内臓類は新鮮な方が匂い的な意味では食べやすく、時間が経つと人によっては味はたいして変わらなくとも受け付けないなんて事も多々ある。
決して新鮮なものだけが美味いのではない。
そして熟成されると美味しさを損なう部分もある。
難しい問題だ。
そう言えば前世では「熟成肉」が流行ってた気がするが、あれはどうなのだろうか。
だって店頭に並ぶお肉様達は既に熟成の洗礼を受けたものばかりだ。
スーパーやお肉屋さんに並ぶお肉様こそ「熟成肉」であり、あれは「過熟成肉」と表記した方が誤解が生まれないと思うんだが……
さて、そうなるとルフである。
え?パロル?
あれはまだ放置だ。食料庫に吊るして自然解凍&熟成中である。
さて、ルフ。
こいつは鳥だ。
前世、地球では三種の神肉である牛、豚、鶏というのがポピュラーであった。
値段は言わずもがな牛、豚、鶏が高い順である。
しかし、同じ体積の肉のうま味成分の量で比べると鶏、豚、牛と高い順で値段と大きさが正反対なのだ。
これを鑑みると、魔獣であるとはいえ同じ鳥類。ましてや窒息鳥にしてあるので少し匂いはキツイ可能性がある。
長く熟成させるのも面白いかもしれないが、今回は大事をとって秋の寒空お外で一泊の熟成で済ませよう。
旨みが増えるのも速いはずだしね。
大狩猟祭りがあった日が終わり次の朝。
二日酔いのグロッキーな人間もいるが、家族総出でルフの羽を毟っている。
母ちゃんだけ横で毟った羽をチョキチョキと羽毛だけにしていき袋に詰めている。
どうやら布団にするつもりらしい。
さて、ここで俺の持つ「食材断定」スキルである。
転生特典で選んだ三つのうちの一つだ。
このスキル。食材だと所持者が思った時点で発動する、ゲーム的に言うとパッシブスキルである。
このスキル、「本スキルを所持する者の料理の知識と技術に比例して、本スキル所持者に現時点で一番美味しく食べられるであろう調理の仕方を本能に訴える」というイロモノなスキルである。
しかし、俺の目的は獲物を美味しく食べる事である。
しかも、殺す前から涎が出るような食い物脳な俺。このスキルを使えば獲物を狩る段階で最適な屠殺が出来るのでは無いかと考えた。伊達に猪解体中に死んだ訳ではない。まぁ、死んだのは俺の意思じゃないけどね。
昨日のルフとの戦闘でもグラスボードで加速中にギンギンと絞め殺せと脳内に響いていたのだ。
ドヴァンのパロルを解体中してる時でさえ「まだ食うな!置け!」と脳内に響いていたくらいだ。
という訳で俺にとっては便利なスキルである。
このスキルの声を聞き、解体、調理をしていこう。
さて、羽をむしり終わった。母ちゃんはホクホク顔で「お布団〜♪」と歌っている。
さぁ解体だ。
食材断定スキルの声に従い迷いなく解体していたが、如何せん相手がデカイ。
あらかた解体し終わったのは昼過ぎだ。
今我が家の食料庫は鳥肉で溢れんばかり。
同時作業で煮込んでいる鳥ガラスープからはいい匂いが立ちのぼっている。
デカ過ぎて鍋三つ使ってるけどね。おまけに鳥ガラに付いてる肉だけでスープの具は大丈夫ってくらいだもん。
さー昼飯にしよう。そうしよう。
さて、「ルフのガラスープ」
見た目は澄んだオレンジ色をしております。
もともと持ってる色素なのか?羽も綺麗な夕日色だったし。
もしくは血が巡っているから赤味がでたのかな。
具は取り出して削いだガラの肉と、普通に茹でたチンゲン菜風の野菜「風菜」。
匂いは嗅いだことのない匂い。でも不思議と食欲をそそる。
おまけに超特急で作った「ルフの胸肉の竜田揚げ」。
片栗粉はカオイモから作っておりました。
こちらは狐色通り越して赤いです。味付けは塩と酒と柑橘モロの汁で漬け込みました。見た目は辛そうだけど材料的には辛くないはず。
ではいただきます。
「おいしわぁ〜。スープおかわりしましょう」
「はっはっは!!酒が進むな!!!流石俺の孫!!!」
「ルフってこんな美味しかったかしら?」
「王宮とかで出そうなスープだね。草原で食べた中では一番美味しいよククルス。」
「はぐっ!はぐっ!!ズズッズズズ……」
上から母ちゃん、ぎるじい、アサヒさんに、じいちゃん、父ちゃんである。
スープはあっさり。骨から出た旨みが染み渡り、後味にほんの少し血の香りが抜けるがイヤではない。むしろ次の一口を誘う。ガラだけの出汁のスープとは思えない完成度。
竜田揚げは外サクリ中ぶわっである。
柑橘と酒で柔らかくなっており、またその両方の香りがルフのものと混ざり、爽やかで油ものだと思えないほどだ。肉は繊維を噛み切る度に赤い肉汁を吹き出し旨みを舌にこれでもかと伝える。ルフ自体のイメージがなかったためか、食べた今になって食材断定スキルが「油をとって香油に使え」と囁いた。
驚いた事にルフの血は熱すると凝固せず、肉に溶け込み肉汁と共に襲ってくる。
ファンタジーな血だ。訳がわからんが旨い。
テーブルに残された物はひとつとして無かった。
スープも三つ鍋にあったのに、小さい草原の民の身体のどこに入るのかという程飲んだせいか、今や鍋一つだ。
ヨトゥンですら仰向けで天井を眺めて腹をさすっている。
ダメだ。うまかった。食い過ぎた。動けない……
夕食はかなり遅くなった。
食料庫から出したルフのモモ肉を焼く。下味は軽い塩のみ。
皮目から焼いていると、オレンジ色の油が出てくる。
更にひっくり返して焼くと、赤色の肉汁と油の混ざった液がでる。
水分が飛んでしまう前にササッと鍋に移し、酒と塩、モロの絞り汁にペパの実を軽く叩いて入れる。そして頭を落とす際に出たルフの血と、少し余ったガラをぎるじいに頼み、叩いて絞った血と髄液の混合液をまわしながら鍋に注ぐ。沸騰させず混ぜながらゆっくり水分を飛ばす。浮いてきたカスやアク、油などはこまめにとった。
焼けたモモ肉の上から赤い血のソースをかけ、付け合せに小さなカオイモの丸揚げをコロンと数個。
「ルフのモモ肉のステーキ、オリジナル血のソース」完成!!
スープは昼のを温め直した。
「こりゃあまた酒が進むな!はっはっは!!」
「お肉自体は脂の多いところだけどあっさりしてるね。ソースが濃厚だけと酸味があって凄く美味しい」
「……ククルス君を婿にとろうかしら……」
「あなた、ルフ狩れる? 私ククルスにもっと料理教えてもらうわ。」
「頑張る。超頑張る。俺も修行混ざる」
上からぎるじい、じいちゃん、アサヒさん、母ちゃん、父ちゃんである。
アサヒさんの言葉は聞こえなかった。いいね?
さて、俺も食おう。
肉は赤味が強くて火の通り具合が判らないためしっかり焼いたのに柔らかく、未だに肉汁を損なっていない。
肉の味はあっさり。そこに柑橘由来の酸味と酒の甘味、血の香りと旨みが濃厚なソースが絡む。旨い。
肉の油が適度にソースを弾く。皮は赤みの強い狐色でパリパリだ。
そしてソースと肉汁を吸ったカオイモがまた旨い。
パンが進む進む。
当分ルフ料理は続くだろう。秋の実りは短く、厳しい冬がやってくる。
次のメニューを考えながら俺はルフの肉を飲み込んだ。
ぎるじいにコテンパンにされた分は旨いもの食えたはず。
そして忘れてた食材断定スキルが登場。