それは俺の肉なんだが……!?
斜面を駆け降りていくと、途中でドヴァンを見つけた。
パロルと真正面から相対し、油断なく盾と槍を構えている。
パロルは既に何発かもらっているようで、その身体には何箇所か穴が穿たれ、血が地面に滴っている。
パロルは鼻息荒く地面を蹴ると、ドヴァンに向かいその牙を突き出し突進した。
ドヴァンは脚を開き盾をパロルに向け半身になる。盾を前に出すと槍の石突を地面に落とし、斜めに槍を構え、パロルの眼に槍先を向ける。
衝突。
ドヴァンは盾を引きながら身をそらす。槍先が盾の影から現れる。槍先が目に突き刺さると手を離し、パロル自身の突進の力で槍は地面と眼窩にめり込んだ。
パロルはくぐもった声をあげ、痛みに暴れるが、それも続かずやがて倒れた。
「お疲れ様ドヴァン」
「うおっ。ククルス! 見てたのか」
「仕留め終わったからグラスボードへ向かってたんだ。運べないからさ」
「ああ、なるほどね。そう言えば僕ら運べないね」
「ドヴァンはそのまま見張ってなよ。今から行って乗ってくるから」
「了解」
グラスボードへ向かいまた駆け出した。
ほどなく到着。
魔力を注ぐ。難なく中を浮き、木々の間が広いところを縫ってドヴァンの元へと急いだ。
ドヴァンの所へ着くと、ドヴァンは土魔法でパロルの下の地面ごと持ち上げてグラスボードに転がした。
そのまま今度は俺のパロルが待つ場所へ。
すると。
なんと。
今まさに俺の凍らせたパロルを足で掴み飛び立とうとする、ふとときな鳥が居るではないか。
「ふざけんな!!俺の肉だぞ!!!置いてけ!!!肉置いてけぇえええ!!!」
鳥は飛び立つ。
グングン高度を上げていく。
「ドヴァン、先に帰ってろ!!!!」
「ちょっとククルス!」
俺はドヴァンの声も聞かず俺のグラスボードに魔力を注ぎ飛び立つ。
取り敢えずあの鳥は喰えようが食えまいが殺す。
俺の肉を奪うなんざ許せん。
鑑定だ。鑑定しよう。別にあれは修行の対象じゃない。徹底的に弱点を突いて肉の恨みを思い知らせてやる。
名称・・・・・ルフ
種族・・・・・魔獣
状態・・・・・良好
説明
風の魔力が高い土地の高地に生息する鳥が魔獣かした、巨大な猛禽の魔獣。
空を飛び、獲物を強襲し、その力強い爪で鷲掴みにするのが主な攻撃手段。
風の魔力を操り風に干渉する能力を持つ。
高い空戦能力を持つ反面、翼を破壊されると何も出来なくなる。
最低討伐推奨冒険者ランクD。
その夕日色の羽は美しく強靭、防具の内張りなどにも使われる。
血は滋養が高く魔法薬の材料として有名。食用として味が良く価値が高い。
なんだ、旨いのか。なら俄然やる気が出るな!!
俺は胸の契約紋章に手を当て魔力を流す。頼れる相棒を呼ぶのだ。
「ヨトゥーン!!!ウェイクアップ!!!」
「別に寝ておりませんよ主様」
「うぉう!半透明のヨトゥン初めて見たわ!!」
「主様が急にお呼びになったので、身体を置いてきたのです。それで?どうなされましたか?」
「あの鳥が俺の修行の成果を奪った。おまけにあの鳥も美味そうだから狩る」
「なるほど」
「ヨトゥンにはグラスボードど俺の無重力化と高度の調整を頼みたい。グラスボードの能力だけだと奴のいる高度に届かないんだ。頼む」
「かしこまりました。久しぶりの主様からの願いです。張り切って行きましょう」
「おっしゃあ!!点火じゃあ!!!」
グラスボードの魔法擬似酸素ジェットで加速する!!
魔法で無重力状態のグラスボードは舵が利きづらくヨトゥンのサポート無しでは真っ直ぐに飛べないだろう。頼んだ以上を何も言わずサポートするヨトゥンさんマジ有能。
ぐぉ!!あいつこっちに風圧飛ばしてきやがる!!
しかし、重さの無くなったグラスボードと俺は悪魔的な加速でルフに迫る。
「お前!!!血の栄養が高いんだってなぁ!!!窒息鳥にしてパロル共々美味しくくってやるよぉお!!!」
ルフを追い越した俺は背中に回した剣を紐ごと取り、グラスボードの後部の魔法陣を切り、前部の酸素ジェットに火をつけ、迫るルフの首に紐をかける。
グルグルと剣を回すとルフの首を締め付けるが、力が足りない!!!
思考を切り替える。首を折ればいい。グラスボードを首の上に配置して足をしっかり固定し、斥力の闇魔法陣を最大出力で発動!!!
ルフは首を動かし抵抗する!!何度かグラスボードがズレそうになるが根性で耐える!!
つーか痛い!!足と手にめっちゃ食い込む!!!うぉおおー肉ぅー!!!
グギリと鈍い音がしてルフの首は折れた。
「ヨトゥン!!!この鳥の足を上にして俺ら纏めて無重力にしろ!!!」
「かしこまりました」
ふわりとルフは浮く。窒息させたせいかパロルを強く爪で握っている。このままでも落ちる事は無いだろう。
あー疲れた。
無重力で風に流されながら徐々に高度が落ちる。
あー運べるかなこれ。
そのまま木にルフの足を引っ掛け、血を全身に巡らせ熟成する。
ヨトゥンに頼んでアサヒさんとぎるじいを呼んでもらい、運んでもらうことにした。
暫くすると見覚えのある金の瞳の黒竜がぎるじいを乗せて飛んできた。
「はっはっは!!流石俺の孫!!!大狩猟祭りで一番の獲物だな!!」
「ククルス君怪我はない?」
「大丈夫です。ヨトゥンと協力したんで、空飛んで首折って無傷です。あ、運ぶ時は頭を下にしてください」
「? なにか意味があるの?」
「美味しくなります」
「はっはっは!!美味しくなるって!!!はっはっは!!!」
「よく解らないけど分かったわ。じゃあついでに乗っちゃって。そのまま会場まで行くわ」
「あ、この鳥は家の前の木に吊り下げてください。一晩置きたいんで」
「何がククルス君をそこまでさせるのかしら……」
この後ドヴァンと合流してパロルだけ会場に運んだ。
ぎるじいはパロルを倒した話を聞いて、切り口を見たあと褒めてくれた。
ドヴァンも褒められてた。
ぎるじいならルフをどう倒すか聞いたら剣を投げるって言いやがった。
アサヒさんも何も言わなかったからマジでやるんだろう。そして普通に当てて倒すだろうな。
会場に着くともう皆解体して食い始めてた。
俺のパロルは氷漬けなので後日処理する事になった。
父ちゃんはルフの件を聞いて本気で悔しそうにしてた。
ドヴァンのパロルをどうするか聞いたら俺の好きにしていいとため息混じりに言われたので、これから解体しようと思う。
まず、頭を下にして吊り下げて首を落とす。内臓を傷つけないように腹を裂き、水魔法で丁寧に洗う。肝臓は槍を食らっていたので廃棄。腸を体から剥がし、内股の部分と肛門近辺を一緒にごっそり落とす。落としたら腸は切り離し、水魔法で内容物を押し出す。終わったら切り開いて丹念に掃除。無駄な脂もカット。後は一口大にカットして、香草といっしよに鍋にイン。煮だったらお湯をすてまた煮る。何回か繰り返した後、水気を切って、塩を振り香草と漬け込む。
さて、皮だ。面倒なので脂ごと少し粗めに剥いでいく。皮から油を浅い鉄鍋に落とし、結構な量になったのでそのまま揚げ物用に熱する。
毛皮は戦利品なのでドヴァンに進呈。
吊るした肉から足を切り落とす。後ろ足のモモを筋に沿って外し、厚めに切って塩と香辛料かける。馴染んだら、さっきの鉄鍋から鉄板に油を落とし、片面を強火で一気に焼き上げる。片面が焼けたら、火の遠いところでもう片面にじっくり火を通す。
「あいよドヴァン。パロルのモモのステーキだ」
「うん。風の神よ囁きに感謝します。うわあ。凄いよククルス!! 汁が溢れる!! それに柔らかい!!」
「おう。でも明日はもっと美味くなるぞ」
「そうなの!?」
「おう。ホントは冷たいところで一週間位置くと美味い」
「じゃあ残りはとって置くよ!」
「そうだなぁ。ホントは肝臓焼きたかったんだが、傷ついてたし。今日美味いのは……やっぱりモツ煮るか。せめてトマトがありゃあトリッパとか出来たんだが」
「あれ食べれるの? 」
「おう? まぁ好き好きだけど俺は好きだぞ? 軽く焼いて食ってみるか?」
「……食べてみる」
鉄板の油を拭き取り、塩と香草でつけてた白モツを鉄板に上げる。
ペパという香辛料の種を潰してまぶす。これは名前もそのまま胡椒だ。白胡椒に近い。
手慰みにカオイモをフライドポテトにして出す。
ついでにパンをちぎり粗めのパン粉にしてさっきのモモの余りを揚げる。卵が無いから水と小麦粉で代用。
「どうだ?モツうまい?」
「飲むタイミングが解らないけど味は好きだな」
「おおそうか。ほれ、カオイモと揚げ物も食え。そろそろ俺も食う」
揚げたモモは確かにうまいが物足りない。完成形を知ってしまっているせいだろうか。それともソースが無いからだろうか。
モツは塩ダレの味が薄いって感じだ。どうもしっくり来ない。
やっぱり然るべき熟成と然るべき調理が必要だな。
なんてもそもそ食べてると皆が歌い出した。
風の神の囁きに感謝する少年の狩りと恋の歌だった。
俺もパロルに感謝して肉にかぶりついた。
窒息鳥
鴨などを窒息されることで体に血を回し旨みを高める屠殺方法。
滋味が高まる。ただ、固体を選ばないとクセが強くなったりする。
フレンチとかジビエで見かける事が多い。 良く噛んで食べましょう。。
本来鳥自体寄生虫などで生食はオススメできないが、窒息鳥の場合全身に血が回っているため生だと細菌感染等のリスクが更に高い。
どうしても生で食べたいなら自己責任で特攻するか、ちょっとお高めの無菌飼育の鳥を扱ってるお店をすすめる。