地獄の前のひと時って感じだが
突如襲来した父方の爺さんギルバルトことぎるじいは、草原の民の家が小さくて狭い思いをするのは嫌だと、外にテントを張り当分過ごす心算のようだ。
今は、母方のじいちゃんジーンが建てようとしている別邸計画に混ざって家を建てる様な話し声が居間の方から聞こえる。
そう、俺は今自分の部屋にいる。
ヨトゥンを俺の膝に座らせ、竜人のアサヒさんの膝に座り両手でガッチリロックされている。
頭上には柔らかい物が二つのしかかり、時折片手で頬を撫でられたり指でつつかれたり。もう片方の手は俺のお腹にまわされているのだが、優しい手つきな反面、まるでそこにあるのが当たり前かのように動かない。手でグッと押してみたのだが地面に深く埋まった岩を押しているかのような不動感。感触は柔らかいのに……動かねぇ……
「はぁ〜。いいわ。いい。癒されるわ〜」
「飛んでて疲れたの?」
「それもそうだけど、魔大陸で冒険者をしてるととっても気を張るの。街の中でもね。だからこんなにゆっくりするのは久しぶりなのよ」
「アサヒさんは魔大陸に戻るの?」
「うーん。そうねぇ。もうちょっとゆっくりしたら孤島に帰ると思うわ。ククルス君を見てたら子供が欲しくなっちゃった。いい相手居ないかしら」
「アサヒさんは美人だからきっと見つかるよ」
「きゃ〜。ありがとう〜。はぁー、ククルス君を持ち帰りたいわ。ずっと抱いてたい……」
「そ、そろそろ友達の所に行かないと! 約束してたんだけどぎるじいが来たから遅くなっちゃったし……」
「あら!私が乗せてってあげましょうか?」
「……ドラゴンなんか見たら……ドヴァン気絶しちゃうよ……」
「え?」
「いや、俺これでも飛べるし結構はやいんだ!だから大丈夫!」
「そう?また後でね?」
俺はグラスボードに飛び乗って家を後にした。
つきました。現在ドボル家玄関前。
「ドヴァーン!!来たよー!!」
「遅かったねククルス。何かあったの?」
「いやー、家を出ようと思ったらちょうど旅から帰ってきたもう片方の爺さんに捕まっちゃって」
「そうなんだ。とりあえず川に行こう。今日は魚獲る約束だよ」
「おう」
近くの川。実は来るの初めて。
「ドヴァン、どうやって魚獲るの?」
「え?手でだけど」
「ふ〜ん。ドヴァン、魔法でやってみなよ。この前の岩を地面から出すやつで魚を囲うんだ」
「ええ〜。逃げられちゃうよ!」
「早く飛び出るイメージすれば行けるよ」
「うーん。とりあえずやってみる。えーと魔法陣を作って……川の底に……」
「おー結構魚いるなー。食えるやつかな?」
「今だ!!」
バッシャーン!!
ボダッ!!ビチビチッ!!
「うえっ!」
「冷たい!」
「ドヴァン魚飛んで来たぞ」
「ち、ちゃんと囲いの中にもいるよう……」
「とりあえず食べれそうなのだけとろう」
「僕そのうち上がった奴でいいや。結構大きいし」
「じゃあ俺選んで来るよ、ドヴァン火をつけておいて」
「え!ここで食べる気なのククルス!?」
「もちろん。ちゃんと鞄に塩も入ってるぞ」
「うわぁ……」
「とにかく、火を頼むな。俺火属性無いからドヴァンが頼りだ」
「はーい」
さーてお魚っお魚〜と。
お、二匹居るな。
鑑定鑑定ー。
名称・・・・・登竜魚
種族・・・・・魔獣
状態・・・・・妊娠・気絶
説明
龍のような見た目をした魚の魔獣。
本来の生息地は川の上流だが、産卵のために下流へ向かう途中で魔法により気絶。
春先から夏にかけて産まれた稚魚は川を登り上流をめざす。
細長く骨が多いためあまり食用されないが、身は淡白でとても美味。
その身に魔力を宿し水中ではそこそこの強さを誇るが、草原の民には普通の魚だと思われている。卵は食用可能。
名称・・・・・コケカイウオ
種族・・・・・淡水魚
状態・・・・・良好
説明
鱗の間に苔を飼う淡水魚。
苔を食べに来る小魚を狙う水中の策士。
水底に居て餌が近づくまで動かない。
苔の仮根が体に侵入しており、鼻につく青臭さで食用には向かない。
苔はコケカイウオが作った酸素を吸収しており、産卵の終わったコケカイウオは段々と苔に浸食されいずれ苔玉になる。
この二つじゃ登竜魚一択だな。
「ドヴァン、捕まえたから魔法解いていいよー」
「はいはーい。」
てきぱきと棒に魚をぶっ刺し、塩を塗り込み遠目に火で炙る。骨が多いみたいだから水分をかなり飛ばすつもりだ。そんで骨ごと食う。鱗はその辺の手頃な石で剥がした。
ドヴァンの方の魚は鑑定したら、ロックドゥゼラというらしい。
見た目はでかいイワナ。食用として親しまれてるとか。
パチパチと木が火に当てられて弾ける音がする。
「あのさ、ドヴァン」
「なに?」
「今日爺さんが旅から帰ってきて遅れたろ?」
「そうだったね」
「実はなその爺さん凄腕の冒険者らしくてさ、魔大陸から帰ってきたんだって」
「魔大陸!!すごいね!!」
「うん。それでな、明日から修行をつけてもらう事になったんだ。だから一緒に勉強するのはおしまいだ」
「え!? もう勉強教えてくれないの?」
「あのなドヴァン。実はもう勉強三年分くらい終わってるんだ」
「ええ!?」
「だからここで勉強やめても飛び級は確実だ」
「うわぁ。気付かなかったぁ。でも学び舎に入るまで一年もあるよ」
「復習くらいはできるだろ」
「じゃあもうあんまり遊べないのかぁ」
「そうだなぁ。爺さんも厳しいって言ってたし」
「……ねぇククルス。魔大陸にも美味しい野菜はあるよね」
「わかんないけど、今日もらった干し肉は超美味かったぞ。だから、野菜もうまいかもなぁ。野菜の魔獣とかいたりしてな」
「そっかぁ。よし!」
「ん?どした?」
「ククルス!!僕も一緒に修行する!!」
「ええ?」
「家の畑を世界一の畑にするんだ!!だからククルスも手伝って!」
「世界一の畑かぁ。なら世界一うまい野菜が食えるか?」
「ククルスのほっぺたがとろけて地面に落ちる位の野菜を作って見せるよ!」
「そっか。約束だぞ」
「うん。約束」
「厳しいみたいだぞ」
「それは怖いけど、それでもやるよ」
「じゃあ魚食べたら爺さんのとこに行くか」
「あ、僕のもう焼けてる」
「美味そうだな。一口くれ」
「えぇ〜。魚とったの僕の魔法だよ」
「いーじゃんか!」
「ダメだよ〜。」
登竜魚は普通に美味かった。皮パリッと身はサクッと、骨もポリポリ。ただ、小骨が喉に刺さって取るのに苦労した。卵は味があまりしない。プチプチとした食感は楽しめた。
ドヴァンとグラスボードに乗って家に向かうとぎるじいはテントを張ってる最中だった。
「ぎるじい〜」
「おう!どした?そこの茶髪の坊主はなんだ?」
「こいつ、友達のドヴァン。魔大陸に行きたいっていうから連れてきた。俺と一緒に弟子にしてほしい」
「ドヴァンです!よろしくお願いします!!」
「……師匠って呼んでみろ」
「「師匠!お願いします!」」
「いいぞ!明日の朝からな!!……やっぱいいなぁ……ミルディンは扱いてるうちに何も言わなくなったからなぁ……」
「?」
「な、なんでもないぞ!それよりククルス!その板なんだ?」
「これ?グラスボード。じいちゃんと作ったんだ。空飛びたくて」
「面白そうだな! 俺の分も作ってくれ! 素材はテントの中にあるやつ何でも使っていいぞ!!」
「じゃーさ、ドヴァンの分も作っていい? ドヴァンの家は少し遠いから」
「おう。ゴチャゴチャしてるから質問があったらアサヒに聞いてくれ」
テントの中はRPGの後半に出てくるような素材ばっかりだった。
その中にあったのがこちら。
名称・・・・・アダマンタイト
種別・・・・・魔導金属類
品質・・・・・高品質
説明
軽く、粘り強く、硬い。
防具に扱われる金属では最高峰。
魔大陸で稀に発見される魔導金属。気の遠くなるほど長い間地中から溢れる魔力にさらされた鋼が変質したもの。
魔力をよく通し、微量だが魔力を蓄える。
魔力をどれだけ通しても壊れる事はない。
ただし、魔力を通せる上限は高いが限られている。
過剰魔力は蓄えられる上限を超えた後霧散する。
はい。これで装備作ったら魔王倒せそうだよね。
あれだよね。最後の街に売ってる、店売の最高装備の素材だよね。
……これを期に俺とぎるじいとドヴァンのグラスボードを作っちまおう。
今まで使ってたやつは父ちゃんに払い下げだ。
そういえば。
「ぎるじい。ぎるじいの属性は?」
「ん?なんだ?」
「いや、グラスボード作るのに魔石使うから。ぎるじいの属性によって魔石どうこう変わるから」
「おう。俺は闇属性だけだぞ! 闇属性だぞ? 珍しいだろ?」
「あー。ぎるじい、俺の闇属性はぎるじいから遺伝したんだね……」
「なに!? そうか!! やっぱり俺の孫だな!! 修行が終わったら死んだ婆さんとこに報告だな!!」
「ぎるじいの嫁?」
「おう。胸は無かったがこう、笑ってる顔をずっと見ていたくなるような女だった。自慢の嫁だ。後で絵描きが描いた絵を見せてやる。美人だぞ!」
「へぇー」
さて、手早く作成だ。
今回お呼びしたのはこの方。
「ヨトゥン親方〜」
「主様は大体一回はこういうのを挟みますね」
「いいじゃん。楽しいし」
ちなみにヨトゥン親方、前回じいちゃんの魔石の利用方法を見て盗んだらしい。
一家に一匹いて欲しい精霊、ヨトゥン親方である。
という訳でグラスボード作成。
俺のは前方と後方に火の転換型魔石と火の魔法陣を新たにプラスして酸素ジェット的なスピードアップタイプに。指向性を持たせるために魔法陣に囲いを設置。ついでにいつもヨトゥンに任せてる風よけの魔法陣と、ヨトゥンのための座れる出っ張りもプラス。
ぎるじいは体重が重くアダマンタイトの性能をかなり食うので闇魔法陣を増設の風の転換型魔石と貯蔵型魔石に風魔法陣増設。それでも従来型より基本性能全部高い。アダマンタイトェ……
ドヴァンは「家の手伝いにも使いたい」との事で、底の面だけをアダマンタイトにして、流石に木の方が軽いので他を木で組み、荷馬車サイズの広い物を用意。ええ子や……
闇の転換型と貯蔵型、風の転換型と貯蔵型、各魔法陣マシマシで。
総積載量は1t程。ただしドヴァン自体の魔力の量的な問題で積載量は300kg。
乗ってなくても手を当てて使えるように、横にも魔石を配置した親切設計。
かなりのスピードでヨトゥン親方が仕上げ、夕食前に試乗しようとしたところ
「増えてるわ!!」
との声が響き、アサヒさんの両脇にドヴァン共々仲良く抱えられ連行。
ドヴァンは夕食を家で食べていくはめになった。
職業製はもう少ししてから。
ドヴァン君は修羅の道を歩み始めた。
そしてドヴァン君の髪の色がいま判明(忘れてた。)