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氏族会議とジジイ襲来なんだが

 さて、ドヴァン君と集会所へと戻ると父ちゃんだけが待っていた。


「おーい、会議始めるってよー」

「はーい。行こうドヴァン」

「うん」

「お、なんだ?友だちになったか?」

「うん」



 集会所の中に入ると三人の氏族長達は既に椅子に座りテーブルの上に資料を広げて話し合っていた。


「お帰りククルス」

「ただいま」

「さて、発案者の孫が戻って来たから詳しく話を進めよう。

 今回、アーヴィング家が主導でグラスボードの生産を北部で始めようと思っている。ボード自体は基本軽い木製の板に鉄を被せた物だが、これはドワーフ連峰に発注しようと思っている。制御には闇属性の魔石が必要不可欠だ、これはエルバ家を通じて商人から買う。生産は北部と中央部の間に大きめの工房を急ピッチで建てる事を検討している。紋章刻印の使える人材を北部と中央部で賄いたい、ドズル、ミラー、質問は?」

「見たところ魔石は転換型のようだけど、あたしは転換型だけ買い付ければいいのかい?」

「いや、この紙を見てくれ。あくまでも今日乗ってもらったのは試作品だ。売りに出す本採用品は紙に描いてる通り補助として貯蔵型を埋め込む予定だ。風の貯蔵型はこの辺でも取れるからいいだろう」

「物運ぶのには使えねーのか?自分らの農作業とかにも使いてーんだが」

「あー。先に出来るだけ子供達に板状のを回したいんだ。ほら、北部と南部は学び舎まで遠いだろう?ついこの間まで病の風が吹いてたから馬に乗れる子が少ないだろうしね。それが終わり次第運搬に適した物も製作する予定だ。ただ積載量は余り高くならないだろう。それこそ鉄じゃなく精霊樹や精霊銀が必要になる。そういうグレードの高いのは受注生産だね。他には?」

「もちろん他大陸にも売り込むんだろう?あたしはそっちが本命さね」

「技術の流出を考えると、最初はこの大陸だけでいきたいけどね。闇属性の魔石も安いうちに買い叩いてこの大陸の需要が落ち着いてからがいいと思うけど」

「いいじゃないか。商人どもに見せるだけ見せて、買わせずに後からがっぽりだねぇ」



 各々意見を出し合い時間が経つ。

 昼頃になって話も落ち着いてきた。


「さて、大体話すことは話したと思うけど。何かあるかな?」

「あたしはないねぇ。儲け話を聞けて満足さ」

「自分もないな。畑仕事が楽になるなら万々歳だ。」

「じいちゃん。俺からあるよ」

「なんだいククルス?」

「お祭りがひとつだけじゃ面白くないでしょ?だからグラスボードが行き渡ったら皆で競争するんだ!!一番風に近づいた人を決める「風神祭り」なんてどうかな?」


 ミラーさんの目が妖しく光る。


「面白いじゃないかい。ジーン、北部は土地が余ってるだろう?出資はあたしがするからやんなさいな」

「おや?ミラーがお金を出すなんてどういう風の吹き回しだい?」

「前から草原には娯楽が無いと思っていたんだ。それにこれなら外からもその「風神祭り」とやらを観に人が来るようになるさ。あたしは風の血統じゃないが囁いてるんだよ、風が、これは儲かるってね」

「面白そうだな!自分も農作業の息抜きにいいと思うぞ!」

「まー検討してみるよ。まずはグラスボードありきだしね」


 集会所で各々昼食をとった後、氏族会議は解散となった。



「今度遊びに行くよドヴァン」

「うん。まってるね。ククルス。またね!」

「またね!」


 なんて遊びに行く約束もした。



 帰り道


「ククルス、風神祭りなんて家では話して無かったじゃないか」

「急に思いついたんだ。それにじいちゃん、そういうお祭りが根付くとグラスボードはもっと売れるしもっと進化するよ。競技用とかの速いグラスボードを自分から注文したりする人も出てくるはずさ」

「なるほど」

「それにね、じいちゃん。草原の民がみんな旅に出ていくのはきっと面白い何かを求めて草原を出ると思うんだ。だったら草原自体を面白くしたらここに残る草原の民も増えて、草原も豊かになって行くと思うよ」

「そうかそうか。それじゃあ風神祭りやってみようか。しかしククルスはやっぱり氏族長に向いてるね。やる気は出たかい?」

「絶対やだ!父ちゃん!早く弟か妹作って!」

「お、おう。まー、期待しないで待ってろ」

「期待してるから!」












 さて、ドヴァンとよく遊ぶようになった。

 二人でグラスボードに乗ったり、畑のお手伝いしたり、拾った木の棒でチャンバラしたり。

 そんでドヴァンの勉強を俺が見ている。俺が飛び級する気だと話すと「ククルスと一緒に学び舎で勉強する!」と意気込んだのだ。

 この子は図鑑を読み込むような子だけあって頭はとてもいい。

 初めての事は怖がる傾向だが、一度やった事はほとんど忘れない。

 調子に乗って二次関数とか俺のわかる範囲の化学や生物なんか教えたからたぶん草原有数の秀才になってる。

 魔法は紋章刻印を覚えたいようなので、魔法陣とか一緒にヨトゥン先生から教わってる。

 ドヴァンは土と風、それから火の魔力を持っている。

 一度契約精霊を見せてもらったが、中位精霊の土竜だった。

 今はヨトゥン博士開発の精霊ボディに入ってドヴァンと仲良く遊んでる。

 ヨトゥン博士曰く、彼の成長に合わせて上位精霊になるのは時間の問題だとのこと。


 そうそう!ドボルさん家の畑でジャガイモみたいなのを見つけた!

 芋のデコボコが顔みたいに見える気味の悪いその名もカオイモ。

 味はまんまジャガイモ。でもサツマイモみたいに繊維質。ククルス印のバターでふかし芋したり、パロルのラードで揚げてポテチ作ったりしてオヤツにしている。

 草原ではこれをお酒にして、果物の汁と割って飲むのだとか。








 そんなこんなで今日もドボル家へ向かうため家のドアを開けた。


 そこには筋骨隆々な巨人と、その後ろで金色の瞳を爛々と輝かす黒いドラゴンが立っていた。

 俺はドアを閉めて目を擦り、もう一度ドアを開けた。

 そこには俺の顔を覗き込み口のはしを歪め笑う黒髪の巨人と、なにやら煙をあげる黒いドラゴンが居た。

 俺はドアを閉めた。









「とーちゃーん!!!!」

「なんだククルス。ドヴァン君とこ行くって言って無かったか?」

「それどころじゃないよ!!家の目の前に巨人とドラゴンがいるんだ!!」

「おいおい。まだ寝ぼけてんのか?巨人は魔大陸、ドラゴンは孤島にしか居ないぞ。もう一回顔を洗ってこい」

「いいから!!扉あけて!!」

「わーかったわかった。ったく」



 父ちゃんがドアを開ける。

 やはり巨人が立っている。


「ククルス、これは巨人じゃないぞ。お前のじいちゃんだ」

「へ?じいちゃんは草原の民だよ?」

「だから父ちゃんの父ちゃんだ」

「父ちゃんの父ちゃんは草原の民でしょ?旅に出てるって」

「あー!!!面倒くせぇ!!!ニヤニヤ笑いながら見てんじゃねーよ!!テメーで説明しろ糞親父!!!」

「誰が糞親父だとこのボンクラ!!爺さんが孫みて優しく笑いかけてんだろうが!!!」

「テメーの笑い顔はこえーんだよ!!見ろ!ククルスが怖がってんだろうが!!」

「なんだと!?孫よ!こわくないぞー、お前の爺さんだぞー」

「なにやってるのギル?突っ立ってないで入れて貰いなさいよ。あたしもう疲れたわ」





 そうして俺の爺さんらしい巨人は狭そうにしながら家に入り、椅子が小さすぎて入らないため、居間の床にドスンと座り込んだ。その隣には金の瞳の威圧感抜群な黒髪の美人さんが腰掛ける。あれ?着物着てね?ああ、転生者が作って広めたのかな?


 父ちゃんも椅子に座ると巨人に話しかけた。


「ほら!説明しろ!!」

「それはいいんだが。孫よ。間違いなくお前の爺さんだからこっちにおいで。爺さんの膝に座るといい」

「ククルス、お前の爺さんである事は確かだから。嫌なら行かなくていいぞ」


 結構逡巡してとりあえず爺さんの隣に腰掛けたら、むんずと抓まれ膝に強制連行された。硬い。


「えーと、そうだそうだ。俺はギルバルト。こんななりをしているが一応草原の民だ。俺の父ちゃんは草原の民と人間のハーフで、俺の母ちゃんが魔族の鬼族と獣人のハーフだったんだ。だから俺は草原の民って括られてるけどクォーターだな」

「なんで体が小さくならなかったの?」

「俺にもわからん」

「父ちゃんは普通サイズなのに。じ、あ、えーとぎるじい。ぎるじいは何歳?」

「俺はいま大体500を過ぎたとこだな。たぶん鬼族の血だ。鬼族はエルフより長生きだからな」

「ぎるじい、さっきドラゴンが居た気がするんだけど」

「それは私よ。私はアサヒ。竜人で竜に変身できるの。ギルを魔大陸から送って来たのよ」

「ぎるじい魔大陸にいたの?」

「おうそうだぞ。俺はなにせ冒険者ランクの最高峰一番星だからな!」

「おおー!魔大陸のお肉美味しかった? ねぇ美味しかった?」

「お?おう。基本肉はなんでも美味かったぞ。干し肉有るけど食うか?」

「食べる!!!父ちゃんお湯沸かして!!!!」

「お、おう」

「アサヒ、森食いの干し肉まだあったろ?出してくれ」

「わかったわ」

「森食い?どんな魔獣?」

「ん?森食いはでっかい亀だ。山ぐらいある。木を食べるんだが大食らいでな、食べ始めると森が無くなるから森食いだ」

「はい。干し肉よ、いっぱいあるから」



 干し肉は硬くて噛めなかった。

 ぎるじいはバリバリくってた。

 父ちゃんとお湯に浸してふやかして食べたが痺れるほどうまい。

 浸したお湯は黄色く染まりほどよい脂と塩み、それといやにならないほんのりとした甘さ。それだけで上質なスープだ。

 お湯を吸った干し肉は驚いた事にこれひとつが肉の繊維だった。どんだけデカいんだ森食い...

 歯を立てるとズブリと歯がしずみレアに焼いたステーキのような食感。

 モニュモニュと噛んでいると、一度干しているのに血と肉汁が溢れ出す。

 飲み込むと本当に少しだけ檜のような木の香りが鼻を抜けた。

 スゲェ...スゲェよ森食い。スゲェよ魔大陸!!

 干し肉お湯に漬けただけのレベルで、コース料理のスープとメインのステーキ食ったみたいな満足感。


「ぎるじい...これは魔大陸で珍しいの?」

「いんや、森食いは七番星レベル。魔大陸だと初心者が狩る魔獣だ」

「ぎるじい!俺魔大陸行きたい!!もっと美味しい肉があるんでしょ?」

「お、おう。まだまだいっぱいあるぞ。なにせ魔大陸は新種の魔獣が産まれては消える危ない所だ。似たような味はあってもひとつとして同じ味の魔獣はいねぇ。森食いだって今頃絶滅してるさ」

「うあー。行く、絶対行く。喰い尽くす!!」

「でも他の大陸で冒険者ランクSにならないと魔導城砦都市には入れないぞ?」

「なる!!絶対なる!!」

「じゃあ俺と修行するか?厳しいぞ?」

「する!うまい飯のために!!」

「よし。じゃあ明日から修行開始だ」

「うん!」

「ククルス。やめといた方がいいぞー、死ぬぞー」

「ミルディン...止められなかったわ...きっとこの子もあなたみたいに...うっ...」









 この日俺は飯に負けて地獄の門を開いてしまった。

 しかし、それでもいいと思えるような食材が確かに待っている。

 ならば、ただ進むのみ。

カオイモ


味はジャガイモ、食感はサツマイモ。

皮に近い部分は繊維質が多く、蒸すと中心部かトロリと舌に溶ける瑞々しいお芋。

色は皮が黄土色。中身は白。

芋についた顔は色々な表情をしているが、デコボコでぼんやりとしているため総じて不気味。三種族の大陸全土で親しまれているがアーヴィング家では母アイナが気味悪がって使わないためククルスは知るのが遅くなった。



森食い


討伐ランク七番星の超巨大魔獣。

デカイ亀。木をもっしゃもっしゃ食べる。

甲羅は魔導城砦の城壁に使われたため、比較的倒しやすい森食いは冒険者の乱獲と他の魔獣の攻撃によりククルスが3歳の時に絶滅。

お肉は普通に美味しい。一時期干し肉が捨て値で出回ったためギルバルトは大量に確保していた。

肉質自体は鶏肉にちかい。干し肉はその巨体を支えるため圧縮されたたんばく質がアミノ酸に変わっているため出汁が凄い。

残念だけど干し肉以外は今後でない。

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