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空さえ飛べれば良かったんだが...

勝手にランキングってやつに登録してみた。

 さて、板に乗ってスイスイと飛んでみようと思う。


 我が家の庭先には三人と一匹。


 父ちゃん、じいちゃん、俺、ヨトゥン。

 とりあえず発案者の俺から試乗する。

 板に片足を乗せる。ヨトゥンがヨチヨチと板の先に乗っかった。

 まずは闇の魔法陣に少し魔力を流す。全ての魔法陣に均等にだ。バランス崩したら危ないしね。


 板は地上2cmほど浮き上がった。乗せた足でグリグリ動かす。バランスはまぁ大丈夫だろう。

 重心を移してもう片足も乗せる。高度を1mくらいに上げて、後ろの風の魔法陣を吹かす。


 スーと少し進んだ。

 後はなるようになれだ。


 俺は風の魔法陣に魔力をぶち込んだ!

 グン!と景色が流れる!!

 うおー!!ベチ!!

 虫が額で潰れた!!うえっ!


「ヨトゥン!!風よけして!!」

「かしこまりました」


 そのまま旋回や高度調節、段差越えなんかやって、最後に最高速を試しとりあえず庭先へ帰る。

 あくまで体感だけど時速80kmはでてたな。

 子供ばかりの草原の民なら体重が軽いから鉄製でも大丈夫そうだ。



「ただいまー」

「お帰りククルス。どうだい?バランスとか気になった所はあるかい?」

「おれはこれでいいと思うけど、まーとりあえず二人共のってみなよ。慣れたら結構速いとおもうよ」

「次!俺が乗るぞククルス!義父さんもいいですか?」

「いいよ。行っておいで」

「とうちゃん気をつけてね」

「おう!」


 父ちゃんは板に乗ると慎重さの欠片も無く風を噴かせて飛んでいった。

 魔力注ぎ過ぎて壊さないと良いけど。


 十分くらいして父ちゃんは帰って来た。


「いやー!爽快だな!!ミーチャがビックリしてたぜ!もっと高く飛べないのか?」

「今ある素材だとあれが限界だね。それにカルロ君の魔石もそこまで透明じゃないから闇属性の転換がねぇ」

「ありゃ。それは残念だ」

「それじゃあ僕も行ってくるよ。運動には自信がないから座ってだけどね」

「がんばってー」


 じいちゃんは板を横にすると座って浮き出し、そのままフヨフヨと辺りを飛んで帰って来た。あの風の魔法陣の配置だとあの乗り方も出来るのか。気付かなかったわー。



「どう?」

「便利の一言だね。材料も安い物ばかりだし。氏族会議に持って行って売り出そうか」

「魔石は?高いんじゃないの?」

「闇属性の魔石はね、特性を把握してる人が少ないから使える用途が少ない。だから安いんだ。この板も他の大陸から買い手が来るかもね。まずは工房に...」

「義父さん、俺は山の様子を...」

「何を言ってるんだカルロ君、次の氏族長は君だ。これも勉強だよ」

「とうちゃんがんばってー!」

「ククルス。君もだ。君は発案者だろう?」

「え?」

「氏族長の事はまだ考えなくてもいいけれど、特色の薄い北部の発展のためだ。協力してくれるね?」

「えーと」

「協力してくれる。いいね?」

「アッハイ」

「年明けの氏族会議が三日後に有るから、それまでに貯蔵型魔石で出来るタイプや形を変えたタイプを考えよう。ククルスとヨトゥンさんは手伝ってね?」






 三日後、俺とじいちゃんは二人で板に座って飛び、父ちゃんは馬で草原の中心であるドボル家領の集会所へ向かった。

 ちなみに俺が闇の魔法陣を担当し、じいちゃんが風だ。





 牧草地を抜けて農地をしばらく進むと集会所が見えた。隣には草原には珍しい二階建ての建物がある。



「ククルス、あれが来年から通う草原の学び舎だ」

「へー。何を勉強するの?」

「んー。草原の民は冒険者志望が多いからちょっとした戦闘の手ほどきと魔法。それに旅立つ若者へ知識を与えるのが主かな。ククルスなら多分学ぶ事はあんまり無いけど友達は出来るよ。あ、飛び級もあるから」

「普通何年通うの?」

「五年さ。一週間の内最低三日でるのが規則でね。みんな仕事の手伝いなんかも有るから。ドボル家領の子供達は近いから良いけど、北部と南部はみんな遠いから馬なんかに乗って行くんだ」

「じゃあこの板は売れるね」

「ああ、きっとね。そういえば、ククルス。この板に名前はつけないのかい?何時までも板じゃ変だろう?」

「へ?えーと...」


 やっべ考えて無かった。

 何とかボードとか安直か?

 エアボード? リパルションボード?

 あー? 草原? 草? グラス...

 グラスボードにすっか。



「グラスボードなんかどうかな?」

「グラスボード?いいんじゃない?」

「おーい、先にアールヴ小屋に預けて来るぞー」

「わかった。入口で待っているよ」

「いってらしゃい」



 入口到着!


 闇の魔法陣を停止しようとするとじいちゃんの待ったがかかった。

 どうやら中に入る前にここでグラスボードの実力を見せてから、中で詳しく話をするつもりらしい。

 父ちゃんも合流して少し待っていると、少し草原の民にしては背の高い女性が歩いてくる。



「なんだいそれは?ジーン、面白いのに乗ってるじゃないか。金の匂いがプンプンするねぇ」

「エルバ家のお墨付きなら売れるだろうね。なーに、材料にはこの大陸じゃあ手に入らない物もある。君も金貨を拝めるよミラー」

「そいつは新年からご機嫌だねぇ。そっちは息子さんとお孫さんかい?」

「ああ、息子のカルロ君と孫のククルスだ」

「はじめまして!」

「どうもです」

「やぁはじめまして。あたしはエルバ家の長ミラー。よろしね」

「あんまりよろしくすると財布の中身が怖いねぇ」

「草原じゃ碌に買い物なんざしないんだ。すっからかんでも変わりゃあしない」

「だから買ってもらえる品を作って来たんだ。ドズルが来たら見せてあげるよ」

「儲けになるならなんでも歓迎さ」


 すると俺と年の頃が同じくらいの子供を連れた、ほりの深い草原の民にしては年齢がちょっと高そうな人が歩いてきた。



「いやーすまんすまん。自分らが最後みたいだな。早いうちに種まいとくやつがあってな」

「君がこの時期に遅れるのはいつもの事さ。ところでドズル、そちらはお孫さんかな?」

「おう。いずれ家を継ぐドヴァンだ。よろしくしてやってくれ」

「ど、ドヴァンです。はじめまして」

「なんだい、また「ド」かい?」

「おーよ!ドボル家のドはドワーフのド!家の男は皆ドがつくからな。はっはっは!それよりジーン。面白そうなのに乗ってんな!」

「これで揃ったから説明するよ。これはグラスボード。家の孫が冬に凄い精霊を引き当ててね。その精霊と孫と僕で作った。よいしょっと。ククルス、少し見栄えがするように飛んでみて」

「はーい。ヨトゥン前に行って。よいしょっと」



 じいちゃんが降りた。注文は見栄えよくか。

 ヨトゥンを定位置に、足を上げて跨ぐようにしてからグラスボードに立つ。左手をずっと魔石につけながらだからそこそこ苦労した。


「じゃー行きまーす」


 そのまま発進。

 ぐるりと大きく一回りしたあと、少しスピードを上げて闇の魔法陣を操作し、縦に一回転。少し進んだら今度は闇の魔法陣と横の風の魔法陣を操作して横に一回転。あとは速度を緩めて皆の前で止まって降りた。

 こんな制動しても落ちないヨトゥンさんまじ優雅。



「さて、少し皆で乗り回すといいよ。魔石のついてる方に魔力を流すと浮くから、そうじゃないほうで風を吹かすんだ。座っても乗れるしさっきみたいに立っても乗れるよ」



 じいちゃんのその言葉でまずドズルさんが乗って飛んでいる。


「はっはっは。こりゃいーな。自分らの畑までひとっ飛びだ」


 ミラーさんは座って乗って、軽く辺りを回り


「こいつは売れるね、草原だけじゃない。魔大陸以外なら何処でも売れる」


 と言ってじいちゃんと話し込んでいる。


 ドヴァン君の番になったのだが...


「どうしたドヴァン、乗らねーのか?」

「こ、怖いよ...」

「そうだなぁ...ククルス君つったか?ドヴァンと一緒に飛んであげてくれねーか?」


 という流れがあって、二人で座ってフヨフヨ辺りを散策してる。


「もう怖く無くなった?」

「うん。ありがとうククルス君」

「ククルスでいいよ。俺もドヴァンって呼んでいい?」

「うん。僕、精霊契約の時以外おんなじ歳の子と会うの初めてなんだ。」

「俺もだよ。病の風で外に出られなかったもんね。あ、大狩猟祭りは行ったけど全然お話とかしなかった」

「僕なんか本を読んでたら皆家に居なくなっててビックリしちゃった」

「ドヴァンはどんな本を読むの?」

「えーとね。植物の図鑑とか美味しい野菜の育て方とか」

「野菜が好きなの?」

「食べ物はみんな好きだけど、家は野菜を育ててるから、いつか色んな野菜の種を買って育てたいんだ。

「おおー。俺は色んな食べ物が食べたいなぁ。大人になったら世界をまわって色んな料理を作るんだ」





 なんて他愛の無い話をして仲良くなった。


 ククルスとして産まれてから初めての友達だ。







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