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迷惑な伝統と迷惑な挑戦

彼は毎回そうだった。

わたし達が練習試合とか公式戦をする度に遠くからその試合を眺めていた。

わたしは彼が見ている内にいいところを見せようと張り切ったこともあったけど今ではもう諦めた。

完全な実力主義のうちの部は公式戦では先の三人が見事に三連敗してくれるお陰で副将と大将に試合が回ってくることはまず無くて、それなら練習試合で、と思ったけどその考えは甘かった。

うちの部は近年まれに見る弱小剣道部で練習試合を申し込んでも断られ、申し込んでも確実に断られる。

そんな中一校だけが試合に応じてくれるんだけどその高校の剣道部の監督がうちの剣道部のOBでこの人は試合形式を公式戦と同じ三勝制にするもんだから結局試合には出られずじまい…

一度うちの監督に試合形式の変更を求める抗議をしたけどうちの監督はOBの大学の後輩らしくて逆らえないのだそうだ。

じゃあ個人戦、と思って監督に話しをしたら「俺は個人プレーは嫌いだ」と言われ遭えなく却下となった。

「何この八方塞がり具合。集団イジメ?」

「突然叫びださないでください。負けた三人が虎に睨まれた蛙のようになっていますよ」

どうやら勢いあまって叫んでいたらしい。

武道場全体がかなり引いた空気になっちゃったけど、すぐさま何事も無かったかのようにもとのざわざわ感を取り戻した。

「ごめんね。あんた達を責めてるわけじゃないから安心して。それより静ちゃん、虎ってなにさ?」

「僕は見たままを忠実に形容しただけですよ」

「だからって虎なんて…」

すぐさま反論しようとしたけど横目に負けた三人が大きくうなずいているのを見て止めて、三人に一発ずつデコピンをお見舞いしてやった。

「今日はもう終わり。着替えて早く帰りな」

「今日は少し用事があるので僕は先に帰りますよ、和音」

「ん、わかった。お疲れさん」




試合後の片付けを終えて帰ろうと思ってふと観戦席に目をやると…なんと広瀬くんが眠っていた。

たしかに面白くない試合だったけど…寝る?普通。

起こしたほうがいいよね?もうここ閉めなきゃだめだし。

そっと近づいていき、肩をゆすって起こすと広瀬くんはゆっくりと体を起こした。

「おはようございます」

「お、おはようございます…って喋った」

「そりゃ話すよ。人間だから」

ヤバイ。

感動してちょっと泣けてきたよ。

「試合、またできなかったね」

また、ってまさかいつも見てくれてたのはわたし?な〜んて自惚れちゃったりしたりなんかしてみたり…

「ねぇ、俺と打ち合いしない?俺に勝ったら1つだけ何でもゆーこと聞くよ」

「やる。やります」

「俺は負けたらきみの命令を絶対に実行する。で、俺に何してほしいの?」

なんでもって言われると結構悩むね。

まあいいや。

前からずっと聞きたかったことを教えてもらおう。

「広瀬くんがなんで全く話さないのかを教えて」

「りょーかい」

彼はそう言って以前彼が使っていた木刀を手に取り、試合場へと歩を進めた。

木刀でやるの?

しかもあの様子じゃ防具は無しだろうね…

「きみさぁ、昔からやってたのって剣道じゃなくて剣術でしょ?きみはきみの流派でやってくれていいからさ」

試合したいとは言ったけどまさかこんな形で願いがかなうとは全くもって思って無かったよ。

せめて彼が怪我をしないことを祈るばかりだよ…







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