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無言のきみと毒舌の君

彼はいつも黙ったままだった。

理由はわからない。

決して話せないというわけではないだろう。

先生への返事や「はい」か「いいえ」で答えられる質問にははっきりと答えているのを見たことがある。

「あの」

でも、それだけ。本当にyes,noだけだった。

それ以上は誰に対しても絶対に言葉を発することは無かった。

「聞いてますか?和音」

誰とも話をしない所為で大多数の人間に嫌われ、多分友達なんて一人もいない。

まぁ尤も少数の女の子からは「あの寡黙なところがカッコいい」と言われてそれなりに人気はあるのだけれど…何を隠そうわたしもその一人だったりして…でへへ。

「でへへ、じゃありません(怒)」

「ふぇいひゃんいらいひょ(静ちゃん痛いよ)」

にやけて緩んだほっぺたを横に思いっきり引っ張りながら笑顔で怒って…いや、キレていらっしゃる。

わたしの向かい側で山積みのお弁当を1つずつ平らげていた自称他称男前の崎谷静はわたしが話を聞いていなかったのがかなり頭にきているらしい。

この男、我が校随一の男前で、わたしが部長を務める剣道部の副部長でもある。

そしてそのお陰でうちの部には女子部員が大量に集まり、その女子部員目当ての男子が入部してくるためかなりの大所帯となっている。

でも不純な動機の塊と言っても過言ではない部活なので決して強くは無い。

「ごめん。静ちゃん。なんの話だっけ?」

「ハァ…明日の練習試合のメンバーの話ですよ」

ため息をついたので呆れているのかと思っていたけど眉がピクピク動いてるのを見るにまだ怒ってる。

静ちゃんはほとんど常に敬語を遣いほとんど常に笑顔で学校生活を過ごしているために誰にも気づかれていないけど実はかなり短気で喧嘩っ早くて毒舌家である。

「うちの部は男女関係無く実力主義だからね〜。静ちゃんとわたしは確定としてあとの三人はどうしようかねぇ?」

「誰でも大差ないでしょう?どうせ僕らには回ってこないでしょういから」

「そうなんだよね…面倒な伝統だよね、全く」

この高校の部活にはそれぞれ初代のメンバーが創った伝統がある。例えばサッカー部はキーパー以外は試合以外でボールに手で触れてはならない、茶道部は気に入らない人間以外にはいつでも無料で茶と茶菓子を振舞うこと、などがある。

そして剣道部は「練習試合及び公式戦出場時は完全な実力主義で先鋒から大将までを並べること」である。

その伝統のお陰で今まで一度も試合に出場できたことが無い。

とりあえず部内では敵無しで、大将に就いてはいても自分が井の中の蛙なんじゃないかと常に他の高校の生徒に対して劣等感をもってしまう。

幼いときからいつも一緒に剣術の練習をしてきた静ちゃん曰く「今の和音なら人間には負けないでしょう」だそうだ。

じゃあわたしとほとんど互角にやり合ってる静ちゃんは何なのさ。

「まぁいいや。順当にいって…加藤さん・佐藤さん・伊藤くんの三人でいいよね?」

「問題ないでしょう。それより和音?先ほどまた広瀬くんのことを考えていましたね?」

「バレてた?」

「彼のこと意外で和音があれほど気味の悪い顔をしているところをみたことがありませんでしたから推測に過ぎませんが…」

そう言ってにやけるあたり本当に性格が悪い。広瀬くんのことになるといつもの2割り増しくらい性格の悪さに拍車がかかる。

どうやら静ちゃんは広瀬くんが嫌いらしい。

以前彼こと広瀬保くんが剣道部に所属していた時に静ちゃんが打ち合いで初めてわたし以外の人に負かされ、そのリベンジのために影でかなり努力していたのに広瀬くんが突然退部してしまったから結局再戦を果たせないまま勝ち逃げされてしまいそのことを今でも恨んでいるらしい。

その打ち合いはすさまじいものだったらしいのだけどわたしはその日欠席していて見ることができなかった。

「広瀬くんの話はもういいから。早くお弁当食べちゃいな」

「わかってますよ」

照れて目をそらして窓越しに空を見上げながら話題をそらした。

空はどこまでも青くてまるで静ちゃんの瞳みたいだなぁなんて思いながらいつまでも眺めていた。

……明日は試合したいな…


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