第2章 闘いと騙し
神候補との戦いの後、いつも通りに当てなくただ神の暗黒面の情報を探し、さまよい歩いていた、目の前にアル物が落ちているのに気付くまでは、だが。
「これはなんなんだ?人が焼け焦げた匂いがするが……」
目の前に落ちていたのは、なにかの物体であった事しか分からないほど、焼けただれていた。
『そうだな……分かるように言えば、神に遣える者でその身に変えて守ったんだろうな、だが、しかし神から与えられる物は侮蔑と中傷だ』
簡単に言ってしまえば、雑魚に守られる必要は無いと、不意打ちで反応できてすらいないのに、感謝するどころか舌打ちをする始末である。
自分と同じ様な立場にいる神候補は、異端者【イレギュラー】と呼ばれるが、自分の力を過信しすぎ、神に自分の力を見せ付け、無理矢理に神になろうとしている者の攻撃によるものだろう。
「……この世の中、こんなことが許されて良いのか?」
『仕方あるまい、神とはいえ、万能ではない、それはお前が一番分かっていただろ?』
「しかし……だから、なおさら許すわけには行かないんだよ」
『それは俺も同じだ、だからこそ、だからこそだ、暗黒面を狩らなければならないんだ、たとえこの思いを胸に秘める事になってもな………』
最後の言葉はヤケに女々しく感じ、いつも冷静に判断と罵声を出していた相棒であるリンクとは思えなかった。
「なんだよ、気持ちの悪い言い方しやがって」
『たまには、俺の弱音を聞くのも良いだろ?』
「ん……まぁ、たまにはな……」
本来は表裏一体であるが、何故か自分だけが暗黒面との会話が出来るのか、何度も疑問に思っても、今まで一度も考える事さえしなかった。
「なぁ、どうして俺はお前と喋れるんだ?」
『俺が知るかよ、偶然じゃないのか?珍しいが、他にも居ないって訳じゃ無いだろ?』
例えそうであったとしても、何故か今回に限って納得するどころか疑問が釜首をもたげてきた。
「あら?境界のエリアじゃない、また独り言?と〜ってもア・ブ・ナ・イ・ヒ・トに見えちゃうわよ?」
話しかけてきたのは、豊かなプロポーションを最小限の布地でしか隠していない、妖艶な女性である。
「別に…、どうでも良いだろ?それより、アンタは自分の仕事はどうしたんだ?淫ら・・・・・いや、淫魅のポルノア」
「あらん、そんな冷たい言い方為なくても……」
冷たくあしらっているが、その視線はその大きく豊かな胸に注がれている。
「もしかして………大きいのが好みだったりするの?」
わざと豊かな胸を強調するかのごとく、下から持ち上げ横からは押している。
「そ、そんな、胸なんかジッと見てないぞ!」
何もただ見ていただけで、大きな胸が好きと決めつけるのは、それをしていたからである。
「仕方ないわね、今日こそは、貴方に筆下ろししてあげるわ」
大胆にも間合いを詰めてくる、自分の間合いに入っても何故か攻撃をすることが出来なかった。
「だから、ただその場に流されて得る快楽の先に何がある?」
「決まっているでしょ?快楽よ、快楽以外の何が待っていると言うの?貴方はなにを求めてるの?まさか愛なんて甘ったるい事言わないでよ」
「違う、俺が求めるのは………未来だ」
『は?』
「え?」
予想外の答えだったのか、二人とも呆然としているのがありありと分かり、エリアの顔が見る見る熟れ切ったトマトないしイチゴのように真っ赤になった。
「エリア・・・・・意外とあなたロマンチストなのね?」
『ポルノアの言う通りだ、お前は俺も知らない意外な一面を隠し持ってるんだな?」
「ほっとけ!俺が何を思おうと俺の勝手だ!」
『確かにそうだな・・・・まぁ、お前がどんな一面を持っていても俺は変わらないからどうでもいいさ』
「未来・・・・それって、子供のこと?」
「ぶふぅうぅぅぅ!」
落ち着くために水を飲もうとしていたのがたたったらしく、思いっきり口の中の水を噴出した。
「ゲホッ、ゲホッ、な……なに、なんでそっちに行くんだよ!」
「でも、子供には未来を託すものでしょ?」
あながち間違っていないので、反論の言葉を考えなければならなかった。
「そうじゃない、ただその先にある物がいかなる物か知りたいだけだ」
突然、ポルノアの表情がこわばった。
「あら……おかしいわね、アノ人の気配がするわ、エリア、逃げた方がいいわ」
しかし、しかし、逃げるような暇はなかった。
「おい、人の女に手ぇだすとは、いい度胸じゃねぇか!」
突然、後ろから頬を殴られ、吹き飛んだ。
「っう……あまりにもいきなり過ぎないか?戦いの神カフカよ」
突然、姿を現した男は筋肉隆々な、いかつい格好をした男だった。
「異端者【イレギュラー】境界のエリアか……本気になる相手としては、不足はねぇな」
左手を完全に伸ばし、右足でリズムをとる、独特な構え方だが、威圧感が鋭く、迂濶に近付くことができなかった。
「カフカ、私は貴方の女になった覚えは無いのですけど?」
まったくこの場の空気を読んでいないポルノアは、自分は誰の物でもないと突然言いだした。
「そ、それは……そうだか……」
「カフカ……テメェ、覚悟出来ているんだろうな…」
怒りに身を任せ、辺りに物理的な境界を作り出そうとしている。
「戦いの神がカフカよ、汝が暗黒面の命、頂く!」
先に仕掛けたのはエリアの方だったが、何故か先手を取ったのはカフカであった。
「甘い、隙あり!」
放たれた右の拳が深々とエリアの脇腹に突き刺さり、エリアを10〜15m程吹き飛ばした。
「こんなものか?神殺しエリアよ!もっともっと、俺を楽しませてくれよ!」
「流石に…戦いの神である、しかし…これは俺の戦い方ではない、境界の力を見せてやる…」
目の前に線を引くと、何を考えたのかそのまま後ろを向いた。
「アホか?その隙貰った!境界のエリア、討ち取った!」
その後の事は、カフカは何が起きたのか理解できなかった、線を越えた瞬間、全身に鋭い痛みが走っていた。
「な、何が起きたんだ?コレが、境界のエリアの真の能力なのか?」
「コレは俺が独自に考えた力だ、そうだな……さしずめ、千疋【せんびき】とでも言っておくか」
何時の間にか、二重の線が引かれ、カフカは直感的に危険を察知したのか、後ろに跳んでいた。
「線よ、狂い、駆けろ!線戟爪牙斬【ライン・グレイオス】!」
突如、引かれた線から衝撃破が発せられたが、既にその場から後ろに跳んでいるため、カフカはいないが、なぜか離れた場所にいた筈のカフカは地面に膝を付いていた。
「な、何故だ、何故……こんな所まで、と、届くんだ?」
「境界は線で決める物じゃない、その実体が完全に把握することが出来る空間までが、俺達の境界だ」
「あの線は俺の意識をそちらに向けるため、か…境界のエリア……さすがだ、俺の完敗だ、さぁ、何なりとするがいい」
自分の着ていた服の胸部を大きく開き、来るべき行為を待っていた。
「カフカ、アンタに暗黒面は、存在しないようだ、俺が殺すのは暗黒面だけだ、暗黒面で無い神を殺す理由はない」
「それでも……俺は負けた、敗者はペナルティを受けなければ……つけ上がり、地獄を見る事になるぞ」
話を聞きながらも、考えているそぶりを見せて要るが、本来精神を読むことが出来る筈の瞳は、極度の緊張状態がまだ続いているのか、感情が全く読むことが出来無かった。
「決めた、カフカに与えるペナルティは、ポルノアを諦める事だ、もちろん異存は無いよな?」
「あぁ、男に二言は無い、ポルノアの事は諦める………何て、言うわけ無いだろうが!」
完全に油断していたため、抜き手が脇腹に突き刺さった。
「ぐあっ!」
早くも、貫かれた脇腹からは、血が滴っていた。
「百戦錬磨である境界のエリアも、油断していたようだな!」
「き、貴様は……カフカ、では、ない、な?」
弱気になっているのか、完全にうつむいてしまっている。
「そうさ、俺は騙しの神、ファドラスだ」
「これで、俺も本気になれるな」
先程までの弱々しさとは打って変わって、瞳にも体にも闘気がみなぎっていた。
貫手で脇腹を貫いていた腕を握りしめた。
「たかが騙し、曇り無き瞳で見れば、見破れない事はない。」
「ひっ!」
高ぶった感情が、あたりに干渉し、紫電を撒き散らしている。
「境界よ、集まりて、我が武器となれ」
空間に幾つもの線が集まったかと思うと、特異な形をした剣が握られた。
「翔べ、螺旋に捻れ穿つ飛翔の剣【カラド・アイン・ボルグ】」
回転しながら、心臓の部分を正確に貫ぬいていた。
「な、あ、有り得……な、い…」
「終わりだ、ゆっくり眠れ、カフカの中でな!」
再び翔んだ剣は、次は額を撃ち抜いていた。
「サラバだ……ファドラス、永久に眠れ」
突然、大きな怪我をした筈の傷が、なくなって、目を開けた。
「お、俺は負けたんだな」
「あぁ、負けた、しかし、それだけの事だ」
負けは、新たな出発点であるため、落ち込んでいる場合ではない、それを言い残すと、何処へともなく歩き去った。
新たな敵になる、神の暗黒面をさがす旅に出て行ったのだろう。
いかがだったでしょうか?感想のほうもよろしくお願いします。