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ひらり、蝶のような  作者: 五十鈴スミレ
ふと気がつけば森の中
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5.王道展開への過剰反応は義務なのです



 お花の色は輝くような紅でした。


 天然キザ男ことエリオさんは、一面に咲き乱れた花を気にしてないようだ。

 私は直視できずにうつむく。まぶしい、まぶしいですエリオさん!

 いえ、幻なんですけどね。比喩表現なんですけどね。

 でもお嬢さんって、お嬢さんって!

 どこからつっこんだらいいのかわからない!!


 慣れてないキザったらしさに心の中で暴れまわってると、ブハッと噴き出す音が聞こえた。

 ……エリオさん、もしかして笑い上戸ですか。

 いくら気配り上手でも笑いの衝動だけは抑えられないものなんですね。

 それってちょっと危険だと思いますよ。人間関係に亀裂を入れかねない的な意味で。


 私がジトーっとした目で見ると、エリオさんは決まり悪そうに苦笑する。


「もう頭は痛くない?」


 言われて、私は頭に手を持っていく。

 そういえばすっかり忘れてた。魔法の副作用があったんだった。

 今は少しだけ頭がくらくらするくらいで、痛いっていうほどじゃない。

 首を動かしたり腕を回してみたりと確認してみても、特に異常はないみたい。

 直後はすごく痛かったし、便利な魔法な分、副作用も重そうだと思ってたんだけど、エリオさんが調節してくれたおかげかな?


 私は大丈夫だと頷いて、指で円を作る。否定疑問文への保険として、一応。

 そんなことしてもエリオさんはちゃんと汲みとってくれるだろうけど。


「よかった。じゃあ、動けるかな?

 移動しながら、オレからも話すことがあるんだ」


 私はそれにも頷く。いつまでも森の中にいるわけにもいかない。

 ここがどこか、本当に森なのかすら、私にはわからなかった。

 周りに木しか見えないから森だって思っただけで、もしかしたら大きな屋敷の庭かもしれないし、山の上なのかもしれない。

 地理を知ってるらしいエリオさんについていってもいいなら、断る理由なんてなかった。

 森の出口まで案内してくれるつもりなのかなぁ。


 立ち上がろうとして、私は前のめりに倒れる。

 両手をついて顔面衝突はまぬがれたけど……やばい。


 足、しびれてる……。


 そんなに話してる時間は長くなかったはずなのに、見事にびりびりしてる。

 私って正座慣れしてなかったんだね……。 

 真面目な話だったからって、正座なんてするんじゃなかったー!


「大丈夫? まだ具合悪い?」


 エリオさんが心配そうに顔を覗きこんでくる。

 傍目からだと貧血を起こしたようにでも見えたのかもしれない。

 勘違い万歳。足がしびれましたとか恥ずかしくて言えません。

 や、しゃべれないから言えるわけないんだけども。


 これ、立って歩けるのかなぁ。

 正座のせいでせき止められていた血が足を駆けめぐり、じんじんと熱くなってる。

 数分くらいで元通りになるはずだし、悪いけどちょっと待ってもらおう。


 そう決めて、私は足を前に出して三角座りをする。

 エリオさんに顔を向け、両手をあわせてごめんなさいのジェスチャー。次に地面をぽんぽんと叩く。


――もう少しここで休ませてください。


 ジェスチャーで意思の疎通を図るのにも慣れてきた。

 もちろん、エリオさんが察してくれるからこそだ。

 法則を決めてないただの身振り手振りなんて、いくらでも解釈のしようがある。

 ましてや他人以上知人未満。相手の思考パターンだってわからない。

 エリオさんが私の一挙一動をしっかり見て、判断してくれるから、私もうまく伝えられるようがんばれる。

 そうじゃなかったら、きっとこんなに落ち着いてなんていられなかった。


 不意に視界に影が落ちる。

 エリオさんの手が、私の額に当てられていた。


「んー、熱はないみたいだし、顔色も悪くないね」


 熱を測るつもりだったらしい。いきなりはビックリするじゃないですか。

 そりゃあ熱なんてあるわけない。足がしびれてるだけなんだから。

 恥ずかしいけど、素直に言ったほうがいいのかな。

 でも、足がしびれてるなんてジェスチャーでどう表せばいいんだろう。

 悩んでると、いつのまにかエリオさんは真正面から私の横っかわに移動してた。


「ちょっと我慢してもらえるかな」


 何を? と思った瞬間、びりびりっと足が電撃に襲われる。

 叫ぶことすらできずに息を止めてる間に、私の身体は浮いていた。

 目の前にはエリオさんの整った横顔。直に感じる体温。高くなった目線。

 私はやっと抱き上げられたことに気づく。



 ……すみません、我慢できません。

 足に! しびれてる足にさわらないでっ!!



 刺激を与えられた足が感電したみたいに痛くて熱い。

 膝の裏を支える腕に当たらないようになんて、重力に逆らえない私にできるわけもなく。

 動けば余計にしびれるから、なるべく足に響かないようおとなしくしてるしかない。


 エリオさんが足を進めるわずかな振動でもしびれが走って、泣きそうになる。

 ゆっくり歩いてくれてなかったら、確実に悲鳴をあげてると思う。

 気を使ってくれてありがとう、エリオさん。

 だましてるつもりはないんだけど、ごめんなさい。

 これ以上恥かきたくないので、足がしびれてるだけだってことは一生秘密にさせてもらいます。





 あ、王道展開に反応し忘れた……。


 と私が気づいたのは、エリオさんが話し始めてからなのでした。







読んでくださってありがとうございます。

書いててビックリなくらい話が脱線していきます。

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