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ひらり、蝶のような  作者: 五十鈴スミレ
目が覚めて、それから
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41.ウィークポイントは誰にでもあるものですが



 はあ、と疲れたように息をついて、エリオさんはベンチに座った。

 私もその隣に腰を下ろす。


「大丈夫ですか?」


 思わず私はそう問いかけていた。

 ぱち、とエリオさんは目をまたたかせる。


「何が?」

「な、なんとなくなんですけど……」


 そう答えると、何それ、とエリオさんは笑った。

 うん、そっちの表情のほうがいい。


「白竜さんのことが苦手なんですか?」

「苦手といえば苦手かな。もっと複雑だけど」


 エリオさんは私の問いを肯定して、苦笑を浮かべる。

 複雑、かぁ。どう複雑なのか、たぶんエリオさんも教えてくれるつもりはないんだろう。

 まだ気を許されていないようで寂しいけど、自分の弱みなんて、知り合ったばかりの人に話すようなことでもないよね。

 しょうがない。これから仲良くなっていけばいいんだ。


「それよりフィーラ。《竜》がなんだかわかってるの?」


 エリオさんの言葉に、今度は私が目をまたたかせる番だった。


「え、どういう意味ですか?」

「ほら、フィーラは術を使って話せるようになったでしょ? だから……」


 そう言って、エリオさんは私にかけた術のことを簡単に説明してくれた。

 たとえばこちらの世界での言葉で、“自分”という言葉がある。私は“自分”という言葉を術で覚えた。

 だけど、ただ言葉をそのまま丸暗記しただけじゃ、意思の疎通はできない。

 その言葉の意味を、私の知っている知識とつなげる必要がある。

 私の知っている“自分”というものと、こちらの世界での“自分”という言葉を、リンクさせる。

 そうすることで初めて私は“自分”という言葉を使うことができるようになる。

 私に書けられた術には、知識を与える以外に、そういう役割もあったそうです。


 で、そのリンクさせるというのは、すごく適当なものだったりもするそうで。

 似ている意味合いのものとつなげちゃうこともあるそうです。

 まあ、そうじゃないと知らない言葉の意味を一から覚えなきゃいけなくなるわけで。脳がパンクしちゃうよね。

 だから私が《竜》というものが何か、ちゃんとこちらの世界での認識と同じふうに捉えられているのか、という質問だったわけです。

 似ているけど違うものとリンクされていたら、ちゃんと違いを教えなきゃいけないから、と。


「私にとって竜っていうのは、空想上の生き物で、人よりもすごく大きくて空を飛んだりするものなんですけど」

「空を飛ぶことなら人間にだってできるよ。

 他に特徴はある?」

「んーと、トカゲと鳥を足して二で割ったような姿……って言えばいいのかな。

 たいていは最強で、ものすごく長生きだったりとかして、あ、あと竜の血は万病の薬になるとかっていう説もあったりします」

「たしかに強いし、長生きでもあるね。

 それに、血も……竜の血は特別だから」


 そう言いながら、エリオさんはどこか遠い目をしていた。

 でもすぐにエリオさんは私の顔を見て、うーんと悩むように腕を組んだ。


「なるほど、たぶんフィーラの持っている知識の中で、一番近いものを竜だと認識しているみたいだね。

 竜の姿は決まっていない。普段は便宜上人型を取っているだけで、なろうと思えばトカゲにも鳥にもなれるはずだよ」

「そうなんですか、すごいなぁ」


 姿が決まってないって、変幻自在ってことかな。

 人の姿になれる竜っていうのはファンタジーではお約束だけど、他にもいろんなものになれるっていうのはすごい。

 目の前にあるファンタジーに、思わず感嘆のため息をもらす。


「竜は神々の時代からいたとされていて、その血は人と交わりながらも今なお残っている。

 竜の血を引く人間の中に、たまに古代の竜と同じほどの力を持つ者が生まれるんだ。それを竜人と呼んでる。

 白竜もその一人だよ」

「隔世遺伝みたいなものでしょうか。

 神話レベルの存在の血筋が、まだ残ってるなんてすごいです」

「竜の血は薄まりにくい、らしいよ。

 どれだけ人と交わっても、水に油を混ぜたみたいに表面に出てくる。

 ほんの一滴でも竜の血が入っていれば、人よりも力が強かったり丈夫だったり、寿命が長かったりする」


 そもそもよく竜と人との間で子どもができたなぁ、なんて思ってしまう。

 ファンタジー世界では混血はめずらしくもないけれど、実際にそんなに違う存在なら、遺伝子だとかの問題がありそうなのに。

 まあ、姿を変えられる時点でそんなことを考えるのも馬鹿らしい気もする。

 竜の血がどれだけすごいものなのか、ということを押さえておけばそれでいいんだろう。


「もしかして、魔法も使いやすかったり?」

「正解。魔力が高い人が多いね」


 わたしの想像が正しければ、魔力が高いほど強い魔法が使いやすいのかな。

 センスだとかもあるんだろうけど、筋力がある人のほうが重いものが持てるのとたぶん同じことだよね。


「なんだか、人間とはまたちょっと違う種族みたいな感じですね」


 古代の竜だとか竜人だけじゃなくて、竜の血を引く人みんな。

 神代からずっと薄まっているはずの血ですら、普通の人よりも有利なことがそんなにあるんなら。

 もう同列に並べるのもおかしい気がしてきちゃう。


「そうだね。竜の血が入ってなくても力の強い人や魔力の高い人はいるから、個性ですませられちゃうくらいでもあるんだけど」


 あ、そうなんだ。

 竜の血を引いてる人が特別なのかと思ったけど、個性ですむレベルなんだ。

 まあ、そうじゃないと普通の人がかわいそうだよね。竜の血を引いてるか引いてないかで全部決まっちゃうなんて。


「でも、竜人は人とは全然違うね」


 エリオさんはそう、どこか冷めた瞳で言いきった。

 心なしか空気も冷たいような気がして、私はあわてる。

 不機嫌再来!?

 どうしよう、エリオさんのツボがわからない。

 笑いのツボもわからないけど、それよりも機嫌が悪くなるツボがわからなすぎる。





 竜はエリオさんにとってウィークポイントなんでしょうか?







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