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ひらり、蝶のような  作者: 五十鈴スミレ
ふと気がつけば森の中
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4.天然キザは絶滅危惧種です



 エリオさん、エリオさん、エリオさん。


 私は心の中で何度もつぶやく。

 記憶力は悪くないと思うんだけど、今まさに記憶喪失なんかになっちゃってるから自信がない。

 エリオさんがガリレオさんだとかアントニオさんだとかになったりしたら困る。

 しっかり覚えられるように、復唱は基本です!


「どうかした?」


 うれしくってにこにこ笑ってる私に、エリオさんは不思議そうに聞いてきた。

 それからすぐに、失敗した、とばかりに顔をしかめる。


「って、ごめん、答えられないよね」


 気にしてないよ、と言う代わりに笑顔で首を振る。

 話せないのはエリオさんのせいじゃないし、聞き取れるだけですごく助かってる。

 エリオさんって気がまわりすぎて損するタイプなのかも。

 喜びとか、感謝とか。言葉で伝えられないのはちょっともどかしい。


 ……あ、でも、そうだ。

 声は出るんだから、名前だけなら呼べたりしないかな。

 知識を移す魔法? の原理はよくわからない。

 今は、聞いた言葉の意味は取れるのに、自分だと文を組み立てられなくて、発音もできない感じ。

 名前なら固有名詞だから、国だとか公用語だとか関係ない。

 発音さえ真似できれば大丈夫なはず。

 せっかく教えてもらえた名前を、ちゃんと呼びたかった。


「えーお、あー」


 試しに小さく口を動かして練習してみる。

 エリオさん、って呼んだつもり。

 赤ちゃん言葉みたいですっごい恥ずかしい!!


「ん? 何か言った?」


 わわっ、気づかれた!

 当たり前だ、目の前にいるんだもん。小さな声でも聞こえちゃうよね。


「え、いお、あん」


 開き直って、もう一回挑戦してみる。

 さっきよりはほんのちょっとマシになったけど……舌の動かし方が違うのかな。

 口の構造が違うなんてことはないと思いたい。


 エリオさんは目をぱちくりとさせて、いきなりぶっと噴き出した。

 うわーん! やっぱり赤ちゃんみたいでおかしかったんだ!

 絶対真っ赤になって泣きそうになってる顔を隠すために、私はうつむく。

 どこかに穴掘って埋まりたいくらい恥ずかしい。

 ひどい。そんなに笑わなくたっていいじゃないですか。空気読んで華麗にスルーしてくださいよ。


「ごめんごめん、うれしくって」


 ぽむぽむ。頭をなでられる。

 へ? うれしい?

 顔をあげると、今までで一番きれいな、まぶしいくらいの笑顔。

 そのまぶしさは魔法使ったときの金色の光にも負けてない。

 私はついついぼへーっと見とれてしまう。

 きれいなものは誰だって好きなものなんです。


「口、見てて」


 エリオさんは自分の口元を指さして、そう言う。

 私は内心首をかしげながら、じーっと形のいい唇を眺める。

 ……別に下心を持ってるわけじゃないのに、何やら照れてくるのですが。


「エリオ。エ、リ、オ。

 わかる?」


 はっきり、ゆっくり、音を区切って声に出す。

 名前を呼ぼうとしてたのはちゃんと伝わってたんだ。よかったー。

 発音を教えてくれるつもりらしい。とことんいい人っぷりを発揮してる。

 笑っちゃった罪滅ぼしみたいなものだったりもするのかな。


「え、い、お、あ、ん」


 うーん。けっこう難しい。

 音を出す前の口の動かし方にコツがあるのかな。


「惜しい。エ、リ、オ、さん」

「え、るい、お、すあ、ん」


 敬称もつけたいってわかったらしい。

 名前を呼ぼうとしたのは私のわがままみたいなものなのに。

 単なる思いつきで、またエリオさんの負担を増やしちゃった気がする。

 でも、途中であきらめたらもっと失礼だよね。


「もうちょっと早く言ってみて」

「えりお、さん」


 今度こそ、と意気込んで声を出した。

 まだたどたどしいけど、名前として聞き取れた気がする。

 やったー! 私は思わずガッツポーズ。



「はい、如何なさいましたかお嬢さん」



 ぶわぁって、一面に花の開く幻覚が見えた。





 ……この人、天然キザだっ!!







ちょっと脇道に逸れました。

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