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ひらり、蝶のような  作者: 五十鈴スミレ
目が覚めて、それから
23/48

23.大変おいしゅうございます

「食べないの?」


 軽く十秒以上フリーズしている私に、エリオさんは声をかける。

 そっちを向けば、いっそ晴れやかなほどのイイ笑顔。

 ……エリオさん、反応見て楽しんでますね?


「ごはんって、魔法で出すものなんですか……?」


 とりあえず言葉にできたのはそれだけだった。

 おいしそうなんだけど、すごくおいしそうなんだけど、ちょっとだけ怖い。

 魔法でなんでも出せちゃったら、金銀財宝ザックザクで、やりたい放題じゃないですか。

 ある程度は法則とかないと、不安というか、不気味だ。


「これは作ってあったのを出しただけ。

 いつでも持ってこれるように、厨房に盛りつけまで終えた状態で置いておいたんだよ。

 もちろん作りたてで保存する魔法は使ったけどね」


 エリオさんにも私の不安の正体がわかったようで、きちんと説明してくれる。

 何もないところから魔法で食べ物を作り出したんじゃなくて、ただ場所を移動させただけってことか。

 なあんだ、それなら全然おっけーです。


「じゃあ、いただきます」


 お腹の虫さんに我慢してもらうのも限界だったので、私は遠慮なく食べさせてもらうことにした。

 早速サンドイッチに手を伸ばそうとした私に、はい、とエリオさんが小さい濡れタオルを手渡してくれる。

 食事の前の手洗い代わりですか。大切ですよね。お腹すきすぎてすっかり忘れてたけど!

 特に手にとって食べるサンドイッチなんて、絶対手洗い忘れちゃいけないものなのに……がっつきすぎです、私。


 手をふこうとして、指にはまっている光り物に目が行く。

 あ、そういえば。


「エリオさん、この指輪って、私のものですか?」


 指輪がよく見えるように手の甲をエリオさんに向ける。

 不思議に思ってたことは先に聞いておくべきだよね。

 もしも私のものじゃなかったら、はめてるのってよくないだろうし。

 エリオさんがすぐに言わなかった時点で、私のものだってことなのかなって気もするけど。


「ああ、それは落ち物の一つ。

 森で言ったよね。最初に見つかったのは指輪だって。

 君と同じところのものだろうし、サイズ的に君のものかもって思って、置いておいたんだ。

 見たら何か思い出すかもしれないからね」


 落ち物? 術のおかげで言葉としては捉えられるけど、意味がわからない。

 独特な言い回し、なのかな。

 とりあえずは私のものの可能性が高いようです。


「なんにも思い出せませんが、サイズはぴったりです」

「じゃあ、君のものってことでいいよ。

 オレたちが持っててもしょうがないものだから」

「調べたりしなくていいんですか?」

「大丈夫。もうタクサスが充分に調べた後だよ」


 エリオさんはにこにこと答える。

 その場のノリで自分の指にはめちゃった私に言えたことじゃないですが、それでいいんですか賢者さま。

 たしかに男の人の指に入るサイズじゃないし、デザインも明らかに女物だし。

 でもほら、たとえば親しい女性に贈るとか!

 ……そういうものは自分で買いますよね、ちょっとでも甲斐性があるなら。

 うん、エリオさんなら絶対自分で見繕いそう。


「それなら、お言葉に甘えて」


 持ち主である可能性が高い人に渡すってのは、そこまでおかしなことじゃない。

 かわいいし、なんとなく高そうだから、いいのかなぁって思っちゃったりもするけど。

 エリオさんがいいって言うなら、もう細かいことは気にしません。


 これ以上気にしてたらごはんが遠のくからね!!


 ごはんのために指輪を外して、手をふきふきします。

 食べる気まんまんで、一応お伺いを立てるみたいにエリオさんを見ると、苦笑された。もしや何を考えていたかばれた?

 ここは、気づかないふりでお願いします。私も知らんぷりでお料理に向き直る。


「いただきます!」


 今度こそ、本当にいただきます、です。

 サンドイッチといっても、パンの色はたしかに白いけど、形状は小さなハンバーガーみたいな感じです。それが四つ。具は二種類。

 野菜がはさまってるほうを手にとって、一口。……おいしい!

 ふわふわやわらかいパンは、素朴な甘さでたくさん食べられちゃいそう。

 野菜は作り置きとは思えないくらい鮮度バツグンで、さっぱりとしたソースがついてて食が進む。保存の魔法をどうのってそういえば言っていたっけ。

 続けてジャムサンドも食べてみると、こっちも甘みと酸味のバランスがちょうどよくて、おいしい。外からじゃわからなかったけど、中にチーズっぽいクリームも入ってるみたいで、いいアクセントになってる。

 うっかりがつがつ食べそうになるのをなんとかこらえる。起き抜け、起き抜け、と自分に言い聞かせて。

 カップに入った冷製スープを飲んで、ふうっと人心地つく。何かの野菜のポタージュと思わしきそれも、やっぱりおいしい。


「おいしい?」

「はいっ!」


 つい全力で返事をしてしまって、それから、はっとする。

 エリオさんの存在を忘れてた……。

 もうちょっとでおなかの虫が盛大に鳴り響いちゃいそうだったとはいえ、これはない。

 マナーとかよくわからないけど、問題なかったとはあまり思えません。

 ほら、そういうのって国によって違ったりするから。ここがどこだかわからないから、しょうがないんです。と冷や汗をかきつつ心の中で言い訳を並べてみる。


「それならよかった。君のために作ったんだからね」


 エリオさんはうれしそうに笑った。太陽の輝きが増すみたいな明るい笑顔です。

 特に何もつっこまれなくて安心したけど、微妙に言い方がひっかかる。


「……エリオさんが?」

「うん、そうだよ」


 その答えに、私は素直に驚く。

 だってサンドイッチもスープも本当においしくて、盛りつけだって一見きれいなお姉さんが作りました的なオシャレオーラがただよってたんですから。

 パンは焼きたてふかふかな感じがしたし、スープだけじゃなく、ソースもジャムも手作りだったりして。

 エリオさんって、何者……。

 見た感じ180センチ以上ありそうで、筋肉隆々ってわけじゃなさそうだけどそれなりに男らしい体つき。

 いくらイケメンだからって、ぱっと見は行動派のエリオさんが料理上手なんて、誰にも想像つかないんじゃなかろうか。

 まあ、何はともあれ言わなきゃいけないことは、


「すっごくおいしいです。

 作ってくれてありがとうございます!」


 お礼の言葉、だよね。

 食べやすいパンだとか、さっぱりした具だとか、おなかに優しいスープだとか。

 きっと、起きてすぐ食べることになる私のことを考えて作ってくれたんだよね。

 そういう気遣いが、余計にお姉さんが作りました的なオーラになってたんだろうけど、気遣い上手なエリオさんなら納得かもしれない。

 いいお嫁さんになれますよ、エリオさん。


「おいしそうに食べてもらえて、オレも作ったかいがあったよ。

 ありがとう」


 エリオさんはきれいな金色の瞳をうれしそうに細める。

 なんとなくだけど、名前を呼んだときと似てる顔をしている気がする。

 ここでお礼を返しちゃうあたりも、気遣い上手というか……もう気遣い大魔王レベルだと思います。


「食べながらでいいから、話を聞いてもらえるかな」

「あ、はい、大丈夫です」


 そうだ、おなかの虫にばかり気をとられてたけど、大事なお話があったはず。

 私を拾ってくれたのは、エリオさんが賢者とかいう立場だから。

 で、ついでにお仲間――たしか、タクサスさんから受けた依頼のために協力してくれれば、私の記憶を元に戻す手助けをするよ、って言われて。

 どうやって協力すればいいかは、屋敷にいるタクサスさんと話し合わないと、ということになったんだ。


 うん、覚えてる。この記憶はなくなってない。


「だいたいのことはもうタクサスと決めてあるんだ。

 あとは君が承諾してくれるかどうか、かな」

「承諾、ですか?」


 承諾も何も、拒否権なんてないようなものだって思ってたんだけどな。

 協力できなかったら、保護はともかくとして、記憶喪失のことはどうしようもなくなっちゃうんだし。

 気持ちの問題……なのかなぁ。


「そう。どういうことか説明するから、そのままで聞いて」


 食べながらでいいって言ったのは本当らしい。

 あんまりお行儀はよくないかもだけど、時間の有効活用ではあるのかもしれない。

 一応、話を聞くために姿勢を正……そうとしたけども、食べながらだと無理がある……。

 しょうがないから心持ち、背筋を伸ばす。





 そうして、エリオさんの口から語られたことは。


 ……ええと、まず一つ質問よろしいですか?

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