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ひらり、蝶のような  作者: 五十鈴スミレ
目が覚めて、それから
21/48

21.おはようございます



 むくり。


 ぼへー……。



 …………はっ、おはようございます。

 清々しい朝ですね!


 って、ごめんなさい、適当なこと言いました。ちゃんと見れば窓の外は真っ暗です。

 まだ頭がぼーっとして、現状把握ができてないんですが。

 それなりの時間寝ちゃってたようです。


 とりあえず、目が覚めたら全部夢でした展開はない、みたい?

 自分がどこの誰なのか、やっぱりなんにも思い出せないまんまです。


 寝る前のことは、ちゃんと覚えてる。

 森の中でエリオさんに会って、なんだかんだで保護してもらうことになって、タクサスさんのお屋敷まで運んでもらって。

 屋敷の近くまで来たところで急に眠くなって、そこで記憶は途切れています。

 運んでもらってるとき、エリオさんの背後にお日さまが見えた。屋敷は東って言ってたから、あのときは夕暮れ前。

 人さまの腕の中で寝落ちたあげく、こんなに暗くなるまで起きなかったなんて。

 我ながら図太い神経だなって感心したくなるね!


 たぶんここはタクサスさんの屋敷内のお部屋。

 このふわふわもこもこの、やだやだ起きたくないってダダをこねたくなる魅惑のベッドまで、エリオさんが運んでくれたんだろう。

 重ね重ね、ご面倒をおかけします……。


 ベッドにもぐったままきょろきょろ室内を見てみる。

 クリーム色の壁紙に、ベージュの床。今寝てるベッドは壁際にあって、そのすぐ横にはお嬢さまが手紙とか書いていそうな一人用の書机。窓の近くに私が横になれるくらいの、座り心地のよさそうなソファー。他の調度品とかも統一感があって、落ち着いた雰囲気だ。

 部屋は広いし、天井は高いし、ベッドもおっきいだけじゃなくて天蓋つきだったりするし、お金持ちの家! って感じがするのに、不思議とまったりできる。

 これってすごいことな気がする。タクサスさんは趣味がよろしいようです。


 ……ふわぁあ。


 ダメだ、これ以上ベッドの中にいたら二度寝してしまう。

 現状把握のためにも、ここでふわもこの誘惑に負けるわけにはいかない!


 床に足を下ろして、またビックリ。床も少しもこもこしています。

 足の裏がくすぐられてるみたいでちょっぴりくすぐったい。

 思わず床にごろりんってしたくなるけども、今は我慢。

 立ち上がったら急に、ちょっと自分でもどうかと思うんだけども、お腹が空いてきた。

 最後にいつごはんを食べたのかもわからないからなぁ。

 水分すら取ってないから、もう少ししたらお腹の虫がすごい鳴き声を上げてしまいそうだ。

 私ってもしかして、食いしん坊キャラなんだろうか。


 こういうとき、よくあるパターンとしてはテーブルの上とかにごはんが用意してあるものですが。

 やっぱりそれはフィクションの中だけのお約束なようです。

 ベッドの横の机には、ただポツンと指輪が転がっているだけ。……え、指輪?

 なんでこんなところに指輪があるんでしょう。誰かの忘れ物かな。

 一目惚れというと違う気もするけれど、なんだか惹かれて、そっと手にとってみる。

 透明な黄緑色の宝石のついた、華奢なデザインの指輪。

 そうすることが自然なように思えて、私は自分の右手の薬指にはめてみた。

 ……あつらえたみたいにピッタリです。

 こんなにピッタリだと、ここに置いてあったこともあるし、自分のものだってのを疑うほうが難しいくらいだ。

 もしかしたら、森で目が覚める前に外れちゃってたのを、エリオさんが拾って置いておいてくれたのかもしれない。それならここにある理由もつく。

 でも、エリオさんがこの指輪のことを言わなかったのはなんでだろう?


 もんもんと考えながら周囲を見回すと、ふと黒髪の女の子と目があって思わず飛び上がる。

 すごくびっくりしたけど、よく見ると鏡に写った私自身のようです。やっと自分の顔を確認できました。

 不細工ではないと思うけど、特別かわいくもないというか、いたって普通!

 目の色は明るい黄緑色。鼻はあんまり高くなくて、唇はうすい。

 外見年齢は十五歳くらい?

 でも、童顔の可能性もあるし、本当は何歳なんだろうか、私。


 自分のことがなんにもわからないのは、少し不安だったりもするけど。

 うん、これが自分なんだなぁって、やっぱり納得。

 大丈夫だとは思ってたけど、違和感とかなくてほっとした。


 それから、なんとなく窓を開けて、外を眺めてみる。

 周りの木々や地面までの距離を見ると、ここは二階らしい。

 空は真っ暗。今が夜になったばかりなのか、夜中なのか、夜明け近いのかはわからない。

 風はそんなに強くないけど、少し肌寒い。そのおかげで頭がすっきりしてきた。


 変な夢を見た気がする。


 二つの光があって、声のような意思が伝わってきて。

 あっちとかこっちとか、つりあっちゃダメとか。


 記憶喪失もののお約束としては、ここは過去の夢を見るものだと思うんですよね!

 起きると内容は忘れちゃってるんだけど、「懐かしい感じがする……」って涙を流したりするものですよね!

 あれは絶対に過去とかじゃなかった。というかあれが過去だったら私って何者。

 正直、あっちこっち言われたって意味がわからんのです。

 重要っぽかった最後のほうは聞き取れなかったし。

 夢の中で気をつけようって思ったのは嘘じゃないけど、そもそも何に気をつけたらいいのかも謎だ。

 記憶の片すみにとどめておけばいいのかなぁ。




 とんとん、とノックの音がして、考え事に没頭していた私は飛び上がった。


「うひゃっ! は、入ってます! ……って、え、あれ?」


 驚いて変な声をもらし、あわてて返事をして、返事ができたことにまた驚いた。

 一人漫才みたいな流れだけど、そんなこと考えてる余裕はない!


「ちゃんと、話せて、る?」


 うそ! なんで!?

 寝ちゃう前は変な声しか出なかったのに!


「大丈夫? 開けるよ?」

「あ、はい……」


 思考停止状態で、特に深く考えずにそう返した。

 扉が開いて、そこにいたのは、金魚みたいな赤茶色の髪と、お日さま色の瞳の男の人。

 ……エリオさん、だ。

 なんだかすごく安心して、肩の力が抜けていくのを感じる。


「おはよう、よく眠れた?」

「お、おはようございます。はい、たぶん」


 にっこり笑顔に、思わず私も笑顔で答える。

 しゃべれることに驚いてはいるんだけど、エリオさんの顔を見ただけでけっこう落ち着いた。

 エリオさんは驚いてないってことは、何か知ってるのかな。


「あの、私、なんで――んぎゃ!」


 いったーい! 舌かんだっ!!


 たくさん聞きたいことがあって、しゃべれるならって気がはやって。

 何から話せばいいのかとか全然考えてなかったから、うまく口が動かなかった。

 あう……舌がひりひりする~。


 ううん、それだけじゃないのかも。

 これは、魔法で聞き取れるようになった、エリオさんの話していた言葉と同じ言語。

 口の動かし方に、まだ私の身体が慣れてないんだ。

 あれ? ってことはこれも、エリオさんの魔法のおかげ、なのかな。


 そう思ってエリオさんを見てみると。

 ……扉の向こうでお腹抱えて笑ってました。





 やっぱり笑い上戸なんですね、エリオさん……。







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