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ひらり、蝶のような  作者: 五十鈴スミレ
ふと気がつけば森の中
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1.赤ちゃんに逆戻りですか?

軽いノリの異世界ものです。色々と初挑戦してみました。

一人称視点は慣れてないので、読みにくかったらすみません。



 ぱくぱく、ぱくぱく。


 目の前の男の人が口を動かしてる。

 金魚みたいだなぁ、って私はぼんやり思った。

 ふわふわした赤みの強い茶髪のせいもあるかもしれない。こういう色の金魚っているよね。


 ぱくぱく、ぱくぱくぱく。


 かっこいい男の人は困ったように首をかしげる。私もつられて首をかしげる。

 するとその人は口を動かすのをやめて、ため息をついた。

 あれ? ため息の原因って私? よくわかんないけど困らせてる?

 でも、美形は特だなぁ。困り顔も絵になってる。


 ぱく、ぱくぱく。


 さっきよりもゆっくり動く口。今度は手振りも混じった。

 指で自分の口を指し示したあと、手を口のようにぱくぱくさせる。

 こてんと首をかしげて、動きを止める。


――何を話してるか、わかる?


 たぶん、そう言いたいのかなぁ。

 間違ってるかもしれないけど、私は首を横に振った。

 わかりません、と答えの代わりに。


 ちゃんと伝わったのか、男の人が頷いた。

 わぁ、これが世に言う異文化コミュニケーション!

 なんだか楽しくなってきた。

 そうだよね、どんなに大変なときでも遊び心は忘れちゃいけないよね。

 たとえ自分のことすら何もわからなくても。



 ………………え?



 ちょ、ちょっと待った。

 何がわからないって? 自分のことって?

 私、私は……あれ?


 サーッと血の気が引いてく。

 金魚みたいに口を動かす男の人がおもしろくて、のほほんとしてたけど。

 こんな森の中に座りこんでる理由も、それどころか自分のことすら、何にもわからない!


 パンッ。破裂音に驚いて、そっちを向くと、男の人が手を叩いたようだった。

 私が急にパニック起こしたから、注意を引こうとしたのかな。

 男の人が、落ち着いて、とでも言うように両手を動かす。

 それから、にっこりと明るい笑みを浮かべた。


 ふ、と全身の力が抜けていくのを感じる。

 緊張とか、警戒心とか、驚きとか、困惑とか、不安とか。

 全部、どっか飛んでっちゃったように私は一気に落ち着いた。


 すごいなぁ、この人。

 人懐っこい笑顔。男性に使っていい表現じゃないんだろうけど、かわいいって思っちゃった。


 私の混乱が収まったのがわかったのか、男の人はまたぱくぱくと口を動かす。

 さっきはぼんやりしてたから気にしてなかったけど、これは金魚の真似なんかじゃない。

 男の人の口が動くたびに、音が発せられてる。

 つまりは何かしゃべってるってこと。そして私にはその言葉が理解できないってこと。

 口の動きからして、たぶん男の人は、いくつもの国の言葉を試してる。

 でも、私はまったく聞き取れないでいる。意味どころか、言葉として頭が認識してくれない。

 男の人が一生懸命なのがわかるから、今度は申し訳なさに落ち込みそうになる。


 大丈夫。そう言うように、男の人は笑顔を見せた。

 ……エスパー? さっきからタイミング良すぎじゃないですか。

 うっかり安心させられちゃったりして、色々と複雑です。


 男の人の手が動く。

 片手で私の口元を指して、もう片方で口から何かを出すようなジェスチャー。


――しゃべってみてくれる?


 あ、そっか。私が話せば、通じる言葉がわかるんだ。

 もちろんその言葉を男の人が知らない可能性もあるけど、通じれば万々歳。

 試してみる価値はあるよね。


 ……って、思ったんだけど。


 私は口を開けたまま、固まった。

 ……話せない。

 何も、言葉が思い浮かばない。


 ずっと頭の中でこうやって考えていて、その思考はちゃんと言葉になってるのに。

 話し方が、わからない。





 えっと……赤ちゃんに逆戻りですか?







狙ったわけじゃないんですが、サブタイトルだけ見ると転生ものっぽいような気も。

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