陸
私の父は祈祷師だった。
父は祈祷師を止めてもずっと悪魔祓いをしてきたそうだ。
どんな強敵でも必ず祓う祈祷師だった。
小学5年生の時、父は私に簡単な祓魔を教えてくれた。
護身のためと言って、それから父は次の段階、次の段階、と遂には本格的な指導者が始まった。
指導はキツかった。
なんでここまでやらされているのか分からなかった。
ある日、父が悪魔に憑かれた男の人を部屋に入れた。
一見なんの変てつもないただの男の人だったけれど、中身は全く人間ではなかった。
父が手首を縄で縛り、ソファへ寝かせ、[水]をかけた瞬間。
「ゥギィィャァァァアアアアアア!!!」
喉を潰すかのように痛々しい奇声が発せられた。
しまいには訳のわからない言葉を口にし、こちらを睨んでいる。
初めてこんな残酷なものを見た。
小学生がこんなものを見て精神に異常を来さないのか。
私は即座に失神だった。
手は横に、足は開かずピシッとしたまま頭部から倒れた。
その後、父が悪魔を祓い終えた後。
父は私を病院に連れていき、医者に診察してもらった。
異常無し。
頭部を強く打ったが何にも異常は見られなかったそうだ。
それから3年後、中学2年になるまで私は悪魔祓いの指導を受け続けた。
これこそ異常だ。
あんな悪夢を見てもなお、まだ続けているのだ。
本当なら止めるべきだったのに。
人生というのは油断できない。
選択のミスでは、失わないはずの者まで失ってしまう。
中学2年の夏の事だ。
それなりに悪魔を祓えるようになった私は、父に忠告された。
「いくら大事でもそれが悪しきモノと変貌を遂げた時、殺さねばならない。」
その忠告通りやり遂げた私を、彼女は許してくれないだろう。
自分も自分を許したくはない。
本当に止めていれば、こんなことにはならなかった。
中学2年の夏休みも残り半分が過ぎようとしている頃。
午後4時。
私は、当時とても仲の良かった友人と仙台から電車で太子堂に向かっていた。
あまり人は乗っておらず不思議なくらい少ない。私達を含め、この車両には3…いつの間にか誰も乗っていない。
仙台と太子堂の間に一つ挟むからきっとみな降りたのだろう
「はぁ、今日も疲れたね。」
部活帰りの電車の中。白いMIKASAの中にはバレーボールシューズと膝宛、そして練習で着た黒シャツが詰まっている。
「うん…」
友人、坂田美樹は小さく答えた。
さらさらのセミロングが夕日に照らされ一部がオレンジに染まる。
とても美しい印象を与えているのに等の本人からは元気が見られない。
「どうかした?あんまり元気ないようだけど。」
「ちょっと、疲れただけだから。」
彼女はそう言うけれど、明らかに顔色は悪かった。
ちょっとじゃ、済まされないくらいに。
「大丈夫?結構辛そうだよ?」
私も焦ってきた。
もしかしたら倒れるのでは?と嫌な予感までした。
「大丈夫だから、安心して。」
だから大丈夫ではないのだ。
徐々に息が荒くーーーーーーー。
私は気づいてしまった。
荒いといえどそれは全くといっていい程人間離れした呼吸だった。
「ぐるぢぃぃぃぃっ!!」
ついには喉元をかきむしるようにもがき始めた。