伍
何をどうしようと、それはその人のやり方で、それを一概に間違いだと決め付けるのは、その人の全てを否定しているようで、僕はあまり好きじゃない。
ただ、それで自分にとって大切な人が失われようならば、き
っと相手が誰であろうと、僕は否定し続ける。
「ぎゃぁぁぁあぁぁあ嗚呼あああぁぁぅぁあぁAぁaaあああぁA!!!」
一瞬の事だった。
最初からそこにいたみたいに、夜宵の目の前に立っていた。
祈祷師は夜宵の顔に一枚の札を貼り付けた。
否、叩き付けた。
バチンッと痛々しい音が響き渡る。
札が張り付くや否や、白い電気のようなものが夜宵の身体から放出される。
その札が夜宵の中の悪魔的存在を除去しているのだろう。
「だ、大丈夫なんですか!?」
しだいにその白い電気はエスカレートし、夜宵の口、目の隙間、耳、鼻から黒い液体が飛び散るようになった。
夜宵は白眼を向いたまま悲鳴を上げる。
それもまた人間の物なのか。
夜宵の物なのか分からなくなるくらいに、鼓膜が痛くなる奇声だった。
「何を言っているの、大丈夫なわけないじゃない。」
・・・?
「それはいったい、どういう・・・?」
「私は悪魔を祓わないわ。」
またもや、嫌な予感・・・ではなく更なる上をいく気持ちの悪い予感がした。
「私は彼女を」
―――――――――殺しているの。
その言葉と同時に、僕の身体が動いた。
駆け出した。
祈祷師ではなく、夜宵のもとへ。
あまり反射神経のいい僕ではないけれど
今の僕は思ってもない程身体が動いた。。
なぜなら、
僕は今(彼)と一体化しているのだから。
あの、真っ白な悪魔と。
「あなたがその札に触れても無駄よ。」
「う・・・るっさい!!」
先輩、とは言え今はそれどころじゃない。
僕はなんの躊躇もなく札を、剥がそうとした。
「ぃででえでででででででで!!」
勿論、自分にも影響を及ぼす事くらい分かっていた。
僕にも電気が伝ってきたけれど、そんなのお構いなしだ。
「あなたバカ?」
「バカでもなんでもいい。外さなきゃ…。」
札は瞬間接着剤でも付いてるのかってくらいに剥がれてくれない。
夜宵の顔が人間ではなくなるようで、恐怖さえおぼえるくらいだ。
「祈祷師が外そうとしない限り外れないわ。」
「は…外してくれ!!」
「何を言っているの?そんなことしないわ。被害が拡大する前に祓魔しないとーーーーー。」
「夜宵を死なせたくはない!!」
「犠牲は憑き物よ。」
違う。
何かが違うんだ
そもそもなぜ夜宵を殺す・・・?
「そもそもあなたとの関わりが原因で。」
・・・いや、そんなはずない!
僕との関わりが原因ならもっと前から異変が起きているはずだ。
僕が(彼)と結合してから半年過ごしてきて、夜宵自身からはなんの異常も見られなかった。
さらには。
夜宵の身体からにじみ出る悪運や悪夢は、僕のモノとは一致しない。
黒い液体が零れ落ちていくのが見えるが、僕の悪魔は白だ。
真っ白だ。
「これは違う。僕の悪魔じゃあない。」
断言。
「・・・。」
「お願いだ。外してくれ・・・。」
最後に情けない声になってしまった。
無力な自分があまりにも情けない。
仕方なくすらない。
ここぞって時にも、
夜宵に対して何もできないままだ。
「・・・ふんっ。嫌よ。」
頑固なやっちゃなあ!。
夜宵の真っ白な目がとうとう真っ黒になってきた。
緊急事態。
電気が弱まってきた。
つまりもう少しで悪魔が消え、夜宵が死ぬ。
「や…ヤバイって!本当に死ぬって!」
札に書いてある訳のわからない文字を睨みながら、
札を掴む。
ばり…。
夜宵の額から鼻の先端にかけて貼られている札は、
3センチ程額から 剥がれた。
電力が弱い分、剥がしやすくなった。
「そ…そんな…悪魔であるあなたにできるはずが…。」
驚きのあまり、祈祷師は力なく腕をぶらつかせ、立っている 。
ばりばり…と、あともう少しだ。
あと数センチで剥がれる…!
「ぅぐ…。」
「や…めろぉ!!」
漠然と見ているだけだった祈祷師が動き出した。
引こうとしている僕の両手を押し戻そうとする。
「はなせ…祈祷師!!」
「ここで外されてたまるか!もうミスは許されない!他人の事など、もう気に止めないと誓ったのだ。」
ミス…?
祈祷師は涙を押さえながら、
「悪魔を必ず殺すと…」
誓ったのだ…。