勇者として異世界召喚されました?
「さぁ、勇者よ!今こそ旅立ちの刻!数多の試練の後、魔王の城に辿り着くのだ!」
RPGの始まりっぽい台詞が目の前で滔々と垂れ流されている。
うん。異世界にトリップして勇者と呼ばれ。
武器とか防具とか食料とか貰って。
何かチート能力っぽいのがオプションで付いてて。
うわぁ〜すっげぇ〜テンプレ。
何このお約束展開。
な、状況。
……言って良いか?
勇者召喚て見てる分には面白れぇと思うよ?うん。
てめぇのケツはてめぇで拭きやがれ!とか思うけどな。
…あ〜すまん。
口わりぃのは地だ。許せ。
つかさ。
百歩…いや1万歩譲って召喚も已む無しとしよう。
どうしようもない最後の手段てヤツ?
安易に何にも考えずぱかぱか喚びやがったらとりあえずボコるの確定だけどな?
だからしょーがねぇだろ。
地なんだよ。
こういうもんは拳で解決する方が早ぇだろーが。
うるせぇよ、脳筋なのもガラわりぃのも自覚してるよ
…と話がそれたな。いや、な。
何が言いたいかっつーと、だな。
最大のツッコミ所は此処が魔王の城で召喚主が魔王だ、っつー点なんだよ。
てめぇで勇者喚んでどーしたいんだよ、魔王サマはよ?
∞∞∞∞
目の前でやる気無さそうに足を投げ出しソファにだらしなく座りながら、魔王様に勇者呼ばわりされた若者が嫌そうに問いかけている。
魔王様の側近であるワタシは事実だけを簡単に述べてやった。
面倒事はご免だ。
「暇潰し。もしくは単なる好奇心」
「はぁ?」
語尾と眉が綺麗に上がり、若者から怒りのオーラが立ち上っているのが解る。
「文句は魔王様に言え。ワタシは関与しない。還すのも魔王様しか出来ないから自分で交渉しろ」
「勝手に喚んどいて良い度胸じゃねーかよ、ナニサマのつもりだ?つか魔王サマとかテンプレで答えんなよ」
普通に『魔王様』と返そうと口を開きかけたらそう言われたので無言で肩を竦めた。
ついでに面白そうに瞳をキラキラさせながらこちらを見ている魔王様に視線を向けた。
「む?何だ?召喚したばかりだからまだ還さんぞ?何か冒険してこい!その様子を見て楽しむのだ!新しい娯楽だろう?」
「…ようし、分かった。てめぇをボコる。てめぇの拳一つでかかってこいや!」
野生の鹿の様に敏捷に立ち上がった若者が魔王様が与えた武器やら防具やらを無造作に振り捨てて身軽になると歩きだした。
「む?何故丸腰になるのだ?」
「ごちゃごちゃうるせぇ!武器とか魔法とかちまちま使えっか!漢なら拳で語るもんなんだよ!」
「おぉ。それは斬新な意見だ!面白い!面白いぞ!勇者!」
勇者の馬鹿…もとい、え〜何と言ったか…そうそう。漢らしい発言にいたく興をそそられたらしい魔王様はばか正直に素手で勇者と相対し、ここに勇者と魔王様の世界の平和を賭けたガチンコ勝負が始まった。
∞∞∞∞
「勇者よ。その勇敢なる自己犠牲の行動は、栄冠ある歴史として後世に語り継がれるだろう」
情熱とか感動とかいったような熱い感情が欠片もない声音で適当な発言をしながら側近はいそいそと執務室へと向かった。
脳筋族は暫くはあのままだろう。
ぐっじょぶだ。
これで静かに政務に集中出来る。
ワタシの世界は平和だ。
素晴らしい。
本当に面倒はご免だ。