選ばれない国
性犯罪の記述があります。胸くそ悪いブラックコメディです。
高名な霊媒師の元に、強引な依頼があった。
とある国の高官だという。
「我が国の女性の出生率が激減している。その理由を知りたい」
「なぜ、私にそれを訊くのですか? 医療学会にでも行ってください」
霊媒師は憮然として正論を吐く。
「もう問い合わせてる。あちらも興味があるらしく、二十年も前から研究してもらっている。それでも解決しないから、オカルトでもなんでも頼るしかないのだ」
「偉そうに。それで拉致するように車に押し込んで、こんなところに連れてきたのですか」
「我が国の存亡がかかっているんだ!」
高官は激昂し、足をダンと踏みならした。
「私はそちらの国民でもないですし、そんな責任あることなら他の人に……」
「生きて帰りたければ言うことを聞け!」
「そもそも、生きて帰す気はあるんですか? 国の弱点を話した時点で、ないんじゃないですか?」
「……」
沈黙が答えだ。
「やってもやらなくても同じなら……」
「約束する」
「あなたの神に誓ってください」
「……」
「はは。じゃあ、このまま滅びればいい」
武装して周囲を取り囲む男たちから殺気が放たれる。霊媒師は青ざめたが、口を閉じてて命乞いはしなかった。
「わかった。我が神に誓おう」
「具体的に」
「我が神に、お前が仕事をしたら無事に帰すと誓う」
霊媒師はため息を吐いた。
「やれやれ。頼んでおいて『お前』ですか。
答えがあなた方の希望に添わなくても、私の責任じゃないですからね。
そして、私は霊媒師なんです。霊を降ろした後は、自分をコントロールできません。ですから審判者が必要なんですが」
「な……早く言え」
「言う暇がありましたか? 本当に勝手な人たちだな。金持ちで権力を持っているから、最低限の礼儀を学ばなくてもなんとかなったのでしょう。それ、あなた方の国内にしか通じないですからね。
現に、他国と交流がある王族は逆に礼儀を身につけているじゃありませんか。ど三流が」
王族と接点があると臭わせたのだが、スルーされた。
「なんだと?」
「くだらない勢力争いに巻き込まれたのに、文句の一つも言えないのですか。まあ、どうなってもいいなら降ろしますけど」
「とっととやれ!」
「依頼料はちゃんと支払ってくれるんですよね?」
「な、なに?」
高官は目に見えてうろたえた。
「この場で支払い決済してください。――本気で私を始末する気だったんですね」
「妙に肝が据わっているな。わかった」
ここにきて、高官は霊媒師を一人の人間として認識したようだ。あからさまに見下す態度がなりを潜めた。
数字を入力し、スマホでシュポッと決済が完了。
「ふふふ。これで私が行方不明になったら、あなたがたが疑われます。ちゃんと約束を守ってくださいね」
「……とっととやれ」
「ふっ。どうなっても知りませんからね」
香が焚かれ、床に呪いの陣が描かれた。
霊媒師の首がかくんと前に倒れ、少ししてからゆっくりと頭が上げていく。
「何を訊きたい」
「わ、我が国の女児が減っている理由を……」
「ああ。少し前に、男性に襲われた少女がおったろう」
この国では、そんな事件は山のようにある。高官は曖昧にうなずいた。
「その者は神が目をかけていた魂だった。神は自殺しようとするその者に、それだけはやめるように話しかけた。それをされたら、神の庭に招けなくなるからな。
その者は、ならば次に生まれ変わるときには国と性別を選ばせてくれと叫んだ」
「そ、それで?」
「神はその者だけでなく、すべての者にその慈悲を振りまいた」
「それに何の関係が……?」
「本当にわからんのか。お前の国で、女として生きたいと思う者がいないということだ」
「え……。あ、そういうこと……か? なんと生意気な女共め!」
「そういうところだぞ。けけけけ」
「では、どうしたら……」
「女性が生まれ変わりたいと思う国になればいい」
「そんな悠長なことをしている間に国が滅びるではないか」
「他の国には女性も男性も生まれているから、問題はないなぁ」
「くっ。そうおっしゃらずに、何かお知恵を!」
「その者はまだ生きておるから、真摯に詫びて許されれば、何かが変わるかもしれんな?」
「ぜひ、その方のお名前を!」
「何を馬鹿なことを言っておる。自ら探し出すのも誠意のひとつであろう」
「そ、そんな……」
高官は、自分たちはその犯人ではないのに……と、ちらりと思う。
「して、我を呼び出し、答えを得た対価はなんぞ?」
「え、あ……それは……。霊媒師に高額の支払いをしましたが」
「それはこの体の持ち主に対する報酬で、我への供物たりえない。
近頃は作法も知らぬ者どもが多くてかなわんな。どれ、次は忘れぬように躾をせねば……一つ面白いことを思いついたぞ」
「申し訳ございません!すぐにご用意致しますので、しばしの猶予を……」
「十五歳以下の女児と致した者は、もげろ」
「え? 我が国では合法で……」
「はははは。未熟な体を保護するために必要な一線だ。数少ない女児を大切にするという発想に至らず、奪い合い、壊してしまう愚か者共め。
いかにも神の眷属らしい予言であろう。
お前たちは神の言葉を勝手に歪める。我々、眷属には許しがたい暴挙だ。
よって、変えられない真理として下してやった。愉快、愉快」
神の眷属……部下のような者だろうか。
その存在は指を一振りして、武装した者たちの武器を壊した。
「さて、久しぶりの現世だ。このまましばし見物していこう」
神の眷属は霊媒師に体を返さず、しばし豪遊していったという。
この国では女児どころか、子どもの出生数そのものも激減していった。
その理由は、最後まで公表されなかった――
書き始めの仮タイトルは「ふるさと納税式 転生システム」でした。
もうちょっとマイルドな作品の予定だったんだけどな……?




