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愉悦少女  作者: よるかみ
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「クロム団長、そちらのメイドさんは?」


 1人の青年が真っ先に尋ねる。クロムさんは少し考えるような仕草の後に「リア、自己紹介できる?」と囁き声で問うてきた。問題なし、と強く頷く。


 さっきの騎士と同じように、スカートの裾を摘みほんの少しあげて優雅にポーズをとる。


「クロム様の元でメイドをさせていただいております、リアと申します。本日は訓練に参加する運びとなりました。皆様、宜しくお手柔らかに、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願い致します」


 というか、ぶっちゃけ上流階級とか多いアルテイラ連合国においてメイドって特別珍しくはないんだよね。けれど、主人がクロムさんとなれば話は別だ。皆一様に驚いた表情を見せる。そんな中……めっちゃこっちを睨んでくる少女が手を挙げた。


「失礼、クロム団長。戦えぬメイドを訓練に参加させるのは些か疑問……いや、時間の無駄です」


 ほぉ? この俺を前にして時間の無駄……と。赤い髪に整った顔立ち。鋭利な目つきはまさに正義の体現者って感じだ。くっころだね。


 決めたぜ。


「クロム様、少し宜しいでしょうか?」


「何をする気だい?」


「参加資格を示したいのです」


「……分かった。お互いに怪我をしないようにね?」


 訓練生らしき人が木刀を持ってきて、俺と彼女に渡してくれた。


 俺は少女に向き直ってぺこりとお辞儀をする。


「俺はリア。ただのリアです」


「ふん、私はレイア・ヨハン。代々続く聖剣の家系のひとつ」


 聖剣の家系とな? 時にこの世界には過去に魔王とかいたらしい。1000年前とかなので、らしいとしか言えない。その時に作られた17本の特殊な魔法陣を内包した剣があり、それらは聖剣と呼ばれ代々優秀な剣士の家系に引き継がれているのだ。


「素晴らしいですね、尊敬します!!」


 花の咲くような笑みで褒め称えたのだが、彼女は賛美など言われ慣れているのか、つまらなさそう。


「お前の評価など、どうでもいい。さあ、どこからでもかかってこい」


「では」


 完全なる透明の発動と同時に、魔力の半分を消費して空間転移を行う。動くのではなく空間の移動。つまり土埃も舞わなければ空気が揺らぐ事もない。ありとあらゆる『視覚』『空気』『察知』『感知』を潜り抜けるのだ。ゆえに、次にやってくるのは完全に不意をつける一撃。


 カァン!! と木刀がぶつかる乾いた音。そして地面に落とされた。レイアの木刀が。


「……は?」


「こんなもんか」


 井の中の蛙だと俺自身は思っていた。当然、自分の事をだ。目の前の少女は剣聖の家系。つまり次期の剣聖だ。その彼女が魔法対策の一つもしていない筈はない。


 ……一応、ここでもう一度の振り返りを含めて説明したい。

 別に、全てを『愉悦』に繋げて物事を運んでいる訳じゃないんだ。だから、自分の実力はしっかりと把握した上で愉しむ事を優先しているだけに過ぎない。そ、あくまでも優先だ。


 なので、言わせて貰えば普通に負けても美味しい場面だった。なのだが、まさかの快勝。


「拍子抜けだな……」


 思ったより俺は強いらしい。自惚れは破滅をもたらすからしないほうがよろしいけれど、少しだけ両親に誇れるだろうか?


 なんてしんみりしているリアを他所に、レイアは震えていた。

 心にあるのは、驚愕。次に恥とプライド。


 落ちた木刀を拾い上げるのは一瞬だ。まぁ、俺は常に警戒しているので不意打ちなど効かないけど。さて、じゃあ普通の打ち合いでどこまでやれるかね?


 なんて思い、ニタリと笑いながら木刀を構えた。一瞬の刹那で再び激突する。しかし、両者の木刀は、まるで巨石に突き刺さったかのように動かなかった。両手で掴まれて、速度が殺される。瞬きの間にクロムさんが俺とレイアの木刀を掴んでいた。


「終わりだ2人とも。レイア、実力を過信して慢心した君の負けだ。リア、君は何気に好戦的なのだな、煽らなくてもいいだろう」


 2人ともそっと木刀を手放した。クロムさんは溜め息を吐く。


「みんな、一度実力を確認して、各々の得意な分野を伸ばしつつ苦手を無くす訓練をしよう。レイア、彼女の参加を許してくれるかい?」


「……っ。はい」


 めっちゃ睨んでくるじゃん。でも、俺は思う訳よ。この娘と友達になりてぇなって。なんでかって? ライバルになれたら……『おいしい』からだよ。


………………


 敗者で得られる愉悦は確かにある。だけど敗者になった時に見られる愉悦の景色というのは、そこまで面白くないと思っている。


「もうやめようよレイアちゃん……」


「はぁ……はぁ……気安くレイアちゃんなどと呼ぶな!!」


 故に少々面倒くさいと思っても仕方ないだろう。俺は当然というか、この後の数人を片手でぶちのめしたのもあり思惑通りにレイアとの訓練を行う事となった。


 今回から俺には突然背後に立てるという手札を晒してしまっている。しかし何度も言うが空間転移は魂をエネルギーにでもしない限り、1日に1回が限度である。故に切れないのだ。


 一方でレイアは赤髪が映える炎の魔法使いでもあった。炎って属性は噛ませ感があるなって思うかもしれないが、これほどやり難い魔法はない。炎や熱という周囲への状態異常というのは、存外やっかいなのだ。


「俺のメイド服の裾が焦げてしまいました。あとで請求させてもらいますね」


「このっ!! くっ……キレるな私。安い挑発だ」


「レイアちゃん」


「呼ぶなと言っただろ、殺すぞ」


 あぁー気持ちいい殺意。これ友達になるの無理じゃね?


「とても良い提案がある。俺と友達にならないか?」


「断る」


 悲しいなぁ。その後は実力を認められて、なんだかんだ俺も数日間、教官として訓練に参加させてもらえる事となった。お給金が美味しい。


…………


 午後。煤けたメイド服のまま魔法師団の教室へと歩いてゆく。道ゆく男子学生がいちいちと見てくるのが少しだけ鬱陶しいが、まぁ今の俺は美少女なんでね。目の保養くらい許してやんよ。


 さて、先の模擬戦とは違いこちらは勉学できている。教えられた教室の扉をノックしてから開いた。


 教員らしきローブの人が「来たか。君がクロムくんの言っていたメイドさんかな?」と聞いてきたので頷く。金髪が眩しい巨乳美人だ。そして漫画やアニメの世界のようなエルフ耳。なるほど、この人が現在数人だけと言われている『超越者』グレイダーツさんか。


 超越者。簡単に言えば、魔法で人間辞めた奴である。つまりやべー人だ。こういう理性的な人こそ裏で人体実験とかしているんでしょ(偏見)。


 お辞儀をすると黒板前に進んでいく。前を向けば無数の視線が突き刺さった。ふむ、理性的な目と好機の目だ。排除する視線がないというのは、知識欲の塊しかいないからか? ここに呼ばれる時点で何かしら魔法の知識があるもんなぁ。


「みんなー、彼女がクロムさんのとこのメイドさん。リアちゃんです!!」


「先に紹介されましたリアです。魔法を学びに来ました。先輩方、どうかお手柔らかに」


 ぺこりとお辞儀をすると、スッと手を上げる学生がひとり。顔の整った男子だ。ピンクブロンドの髪と知的な青い瞳。


「リアっち質問ー!!」


「リアっち!?」


 突然の愛称付きの呼び。この男、陽の者か。基本的には陰の方の俺には眩しい奴である。


「な、なんでしょう?」


「俺はダルクってんだけど、授業の後、時間ある? 可愛いメイドさんとお話ししたくてさ」


 すると、隣にいたまたも顔の整った男子。整った理性的な顔立ち、怜悧な鋭い瞳。そしてまたも特長的な、少し緑がかった銀髪。


 彼はダルクの頭を分厚い本でしばいた。ごつんと痛そうな音がこちらまで聞こえてくる。


「早速ナンパをするな」


「痛いよぉ、リアっち慰めて」


「初対面だぞ、きしょいの仕舞え」


 彼は溜め息を吐くと俺に目線を向けて口を開く。


「私はライラ。友人がすまない。コイツになにかされたら私に言ってくれ」


「お気遣い、ありがとうございます」


 一連のやり取りが終わると、まるで青春の一コマを見た何とも言えない視線を向けながら、金髪のエルフ教授も自己紹介をする。


「遅くなったが、私の名はグレイダーツ。よろしく頼むよ」


「はい、教授」


「じゃ、早速リアさんには今使える魔法の披露をしてもらおうかな」


「その事なのですが、先の訓練で魔力を消費してまして」


 出来れば手札を隠しておきたい気持ちもあるが、ぶっちゃけ隠す理由も思いつかないので『空間転移』は見せたい。その為には魔力の回復だが、この超越者教授グレイダーツさんならば他者に魔力を譲渡する術くらい使えるだろう。挑戦的な提案をした俺にグレイダーツ教授は微笑む。


「うんうん、魔力の譲渡くらいは出来るからね。存分に魅せたまえよ」


 彼女は俺の肩にポンと手を置いた。すると。うぉおおお力が!! 力が溢れる!!

 はい、ほぼ満タンまで魔力が回復しました。


「では」


 ナンパしてきたダルクの左隣にはライラさんが座っているのだが、反対の右側は空いている。


(やべ、緊張してきた。いざとなったら権能でどうにか出来る……か?)


 かなり特殊な……というか恐らく国の中でも粒揃いの魔法使いが座っているのだ。元が小市民なので緊張するのが普通である。


 暗殺技を覚えてる奴が小市民……?


 疑問はさておき。俺は綺麗にスカートの裾を摘み令状のようにお辞儀をして、華やか(恐らく、きっと、めいびー)な笑みを浮かべると。


 はい隣に着席。皆が消えた俺を探し、ダルクの隣にいるのを見つけると、騒ぎが大きくなった。ナンパしてきたダルクの顔を覗き込むと、驚いて……いない?


「ふぅん?」


 凄く興味深げだ。そして、次の瞬間。思いっきり抱きしめられる。


「この俺の隣に態々、転移をしたって事はナンパ成功かな?」


「は、離して」


「やーだ」


「これは痴漢よりタチが悪いですよ!! 騎士団に通報させてもらいます!!」


「じゃあ愛の逃避行といこうか」


「無敵か?」


 というか、俺はクロムさんを揶揄う為に身体を使う事はあれど。心はまだまだ男のつもりだ。生理も体験したけど元男なのだ。なので野郎に抱かれても良い気はしない。


 仕方ない、俺は隣にいるライラ先輩にうるうるな目線を向ける。


「良い加減にしろ」


 また本でしばくのかな? と思っていた俺の予想を斜めどころか天井を突き破っていく。空いている窓から何か飛んできた。ライラ先輩は窓に向けて手を伸ばし、すると飛んできた物体は彼の手に装着されていく。簡単に言えば騎士のような甲冑。しかし超現代技術で作られた最先端の装備は、詳しく説明するのが難しい。騎士の甲冑のようで、要所要所に細かい技術が光っている。サイバーパンク装備だ。


「かっ、カッケェ!!」


 これは男心をくすぐる。


「ダルク、私と空の旅でもするか?」


 ガチャガチャと肩あたりの機構が変形していき、ロケットのようなスラスターが展開されていく。彼の発言を信じるなら、片手でも空を飛べるようだ。


「マジで勘弁。リアっち……あぁその顔も可愛いなぁ」


 ダルクは名残惜しい表情で手を引いた。


 そんなことよりもだ。


「ライラ先輩!! それなんですか!? 後で良いので近くで見学させてもらってもいいですか!? うぉおおカッケェ!!」


 久しぶりにハイテンションぶち上げ。俺こういうのに弱いんすよ。

 あと、今ここで説明しておくが。この国の科学と技術は普通に最先端である。スマートフォンとか普通にあるよ?


「いいとも。後でカフェテラスにでも行こうか?  楽しい談義が出来そうだ」


「ちょ、抜け駆けかよ!? 俺も行くからな」


 と、騒がしい3人を嗜める為に、グレイダーツが指を振った。すると強制的に背筋を伸ばして着席させられた。


「はい、騒がしいの終わり。そろそろ授業始めるよ」


 ほんの少ししか感知できない魔力で身体を強制固定した? 流石は超越者、怖すぎるから今後とも仲良くしたいなと思いつつ。


 なんだかんだで、このダルクとライラ。2人の先輩のおかげで馴染めそうだと思った。

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