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愉悦少女  作者: よるかみ
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 数日後。今日は騎士団の訓練に参加させてもらえる日だ。気合いをひときわ入れて、スカート丈の短いコスプレレベルのメイド服を身に纏う。仲良くなった呉服店の店員さんと作った一張羅である。下手なコスプレイヤーよりも可愛いんじゃねぇかなと自負している。しかも防刃仕様。バトルスーツにもなるので、もう1着注文している。


 そんな俺を見て、クロムさんはあからさまな苦笑を浮かべた。


「リア、ジャージでいいんだよ?」


「俺はクロム様のメイドですので」


「いい加減『様付け』も辞めて欲しいんだけど」


「俺はクロム様のメイドですので」


「世間体とかあるから……」


「俺はクロム様のメイドですので」


「やっぱり無限ループになるんだね……」


 それから凡ゆる手段でどうにかメイド服からジャージに着替えさせようとするクロムさんをのらりくらりと躱しつつ、時刻は8時。出勤の時間だ。


 まだまだ早朝だというのに疲れた表情のクロムさん。メイド服を着ていく事は諦めたようで、やっぱ押しにも弱いなこの人と思う。アレだよね、悪い人には騙されないけど、ほんの少しでも善意のある人だったらすぐ友達になれるタイプ。コミュ力最強かよ。


 クロムさんの背中を追うようにして、連合国騎士団総司令本部へと歩いていく。途中、チラリチラリともう慣れた視線を感じる。そりゃ、美少女が可愛いメイド服を着て歩いていたら見ますよね。おら目に焼き付けろ。お前らのキショい視線で、クロムさんがちょっと苛立つ姿が美味しいです。


 過保護なお父さんだなぁ……いやこれ、恋人を守るような睨み方だな? あら? 俺も罪作りな女ふへへ。


 やがて、広いグラウンドと巨大な施設群が連なる場所に到着した。巨大な門の入り口には、革製のバトルスーツを着た騎士が警護に当たっている。クロムの存在に気がついた騎士は簡易な敬礼をした。


「クロムさん!! おはようございます!!」


「おはよう。警備の任務、お疲れ様」


「いえ!! 実働部隊のクロムさんと比べたら俺達なんて……あれ、そこの少女は?」


 印象付けは大事。特に初対面の人が最初に抱いた印象は、噛み捨てられたガムのような粘着性を持つのだ。例え汚ねぇな。


 俺はフリルのついたスカートの裾の両方を軽く摘み持ち上げると、恭しく頭を下げる。


「お初にお目にかかります。クロム様の元でメイドをさせていただいています、リアと申します。以後、お見知りおきを」


 密かに練習してたからキマったぜ。そんな俺の渾身の一撃に、騎士さんから「おぉ」と感嘆の声が聞こえた。


「愛しのクロム様とこれからも仲良くしてくださいね?」


 可憐に見える微笑みでトドメだ。


「可愛い……じゃない!! 愛しの!? クロムさん!! いつの間にメイドなんて雇ったんですか!?」


「しかもこんな美少女!! あと愛しいってなんすか!?」


「ちょ、ま、落ち着け!! リアも勘違いするような事言うな!!」


 クロムさんは2人の騎士に詰め寄られながらも、俺の元々住んでいた都市で助けられて身元保証人として引き取った事を伝える。けど、まぁ引き取った娘が可愛いメイド服着てたらクロムさんの趣味を疑うよね。


 朝から元気な野郎3人。


 ……俺の友達はみんな死んじまったからな。仮に生きていたとしても、容姿が変わった以上は権能に頼らなければ友達に戻れない。それは、もう友達ではない。


 少しだけ友達ってやつが羨ましい。曇らせ愉悦に最適だし。


 なんて考えていると、クロムさんは強引に話を切り上げて俺の右手を掴む。


「とにかく、違うからな!! 行くぞリア」


「はい、クロム様」


 2人に軽く手を振ると、立派な建物に向かって歩き始めた。


…………………


 さて、ぶっちゃけた話。


 俺は俺自身の戦闘能力がよく分かっていない。

 父さんと母さんが過去に何らかのプロフェッショナルだったのは知っているのだが、一体何のプロフェッショナルなのかは最後まで聞けなかったし、追求もしなかった。でも身体を魔力で強化する術の次に教えてもらったのが、完全なる《透明》の魔法だ。その次は細かい戦闘技能系の魔法。最後に《転移》。


 真剣に考えたら、まぁまぁヤバい事してきたんじゃね? 暗殺家業とかしてたのかもしれない。


 そんな両親の英才教育……。というより、俺の夢が旅だったので、自分から教えを懇うて魔物・対人と両方の戦闘技術を鍛えてはもらった。剣などの武器を常に持てるわけじゃない理論で、魔力による手刀、魔力を流す打撃による内臓破壊まで様々だ。石ころひとつで人の頭を打ち砕けるのもそういう訓練から得た技能である。


 真剣に考えなくても、暗殺家業とかやってたねこれ。足音殺すのも癖になってたし。


 なんて過去を振り返って懐かしんでいると、クロムさんは受け付けから書類とバッヂを持って戻ってきた。


「これが参加書類だ。サインだけ頼む。あとは滞在資格のバッヂ。これは常に着けておいてくれよ?」


 この国の象徴である八咫烏を模ったバッヂを受け取り、胸に着けた。


「……15歳から入隊できる以上、リアの身体に合ったジャージ類もある」


「俺はクロム様のメイドですので」


「ですよね……」


「でも、クロム様は人徳がありますし。下手な勘繰りはされないと推測します」


「だといいなぁ」


 急に頭をわしゃわしゃと撫でられ、ズレたホワイトプリムを直す。せっかくビシッと黒髪を仕上げてきたのに……。でもクロムさんだから許してやろう。


 それから訓練施設に向かう。


 連合国騎士団の主な部隊分けは4つ。


 魔物殲滅部隊+犯罪者対応部隊。通称『騎士団』。要は警察組織だ。


 そして魔法・魔術師団。


 一応は戦闘が出来る組織なのだが、魔法・魔術師団は才能ある魔法使いの育成機関なので、部隊と言われると微妙。

 魔法は『兵器と同様の力』を持つ。いわば人間兵器だ。だから、魔法使いの育成というのは国の威信や権威にもなる。いるだけで力を誇示する部隊、最終的に大規模な攻撃を行う最終手段のような部隊だ。


 というのがクロムさんの説明である。ぶっちゃけ騎士団の内情事情はどーでもいい。仕事をしっかりしてくれれば。


 まぁ、仕事がおっそいから俺の住んでた都市の人間は殆ど死んだんですけどね!!


 ネガキャンはさておき。今日は午前中に対人を。午後に魔法師団から魔法を教えてもらう算段となっている。


(魔法は教えてもらうだけだからいいが。対人だけ心配だな。曇らせ甲斐のある奴……。特に俺が倒せてライバル的なポジションになってくれそうなやつとか、いるといいな)


…………………


「クロム様、団長という高い地位に居られたのですね……」


「まぁね……8番だけど団長を任されているよ」


 クロムさんが歩くだけで色んな人が挨拶してくる。団長レベルの地位とこの人柄、そりゃ人気者になるわけだ。あとアレだけのデカい屋敷持ってるのも納得ですわ。掃除大変なんすけど。


 そうこうしていると、広い運動場に出る。魔物と対人を基にした第8部隊の訓練場だ。男女が各々に必要な訓練をしている。体力作りの運動から、剣と魔法を駆使した戦闘訓練や、木刀を使った対人模擬戦など。


 クロムさんが入ると一気に場の雰囲気が変わった。緊張と和やかさのある、面白い空気だ。みんながクロムさんを慕ってるのがよく伝わってくるね。あとたぶん惚れてる女子もいると見た。ただ、今日は俺がいるので困惑も混じっているようだ。


 ほーん。さて……では『突然現れたメイドに手も足も出ない件について』な曇らせ始めさせてもらいましょうかね……(コキ。

 返り討ちにあったら笑ってください。

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