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時は流れた。といっても1ヶ月くらいだが。
破壊された都市、人々の悲しみは、とてつもなく長い月日をかけて癒していく事になるだろう。
俺は離れた草原に墓石を立て、両親に別れの挨拶をする。同時に『男の俺』という存在とも決別した。ごめんな、親不孝の息子で。娘になっちゃったし、人でなしになっちゃった。でも生きるよ。2人が逃がしてくれたのは事実だから。叱るなら死んでからあの世で。
あとは改めて自分の姿だが。本当に心から美少女だよ。全裸になった時は、思わず見惚れてしまう妖艶さがある。そこそこ胸も大きいし。ただ、権能を引き継いだ時に諸々の感性も引き継いだのか『性欲』は発生しなかった。まぁ、生理は普通に経験したけど。思ったより苦しくて、世の中の女性に尊敬の念を抱かずにはいられなかったぜ。
……さて、では肝心の俺の顛末だが。
事情聴取はかなり困った。権能を使いすぎると何処かで齟齬や綻びが出る可能性を懸念して、シナリオを作り言い訳をした。『サラティラと呼ばれたボスを巻き込んで自爆しつつ、逃してくれた恩人がいた』と説明。その場所に案内すれば、俺が転移の時に抉り飛ばされた地面が残っていた。納得はしてもらえたのでヨシ。
それから一応クロムさんが身元保証人になってくれた。聖人すぎて涙が出ますよ。
さらにコトセさんから、医療技術を勉強してみない? と打診される。願ってもいない事だ。医者関係者は給金が良いからね。
ただ、そうなると勉強する為のアレコレ、特に金銭関係をクロムさんに頼りきりとなってしまう。これは良くないと俺の中の善意が制止する。……善意くらい残ってるよ?
「勉強代は自分で稼ぎたいです。なので時を改めてお願いします」
俺の選択を口にすると、ここにクロムさんも提案。魔法の腕や格闘技術には光るモノがある、どうせなら騎士団で訓練、又は教鞭をとってみないか? と。ぶっちゃけこんな小娘に教えを乞うのはプライドさんとか許さねぇんじゃないの? 騎士団ってだけでプライドの塊みたいな奴多そうだし(偏見)。
でもまぁ、別に構わないので「よろしくお願いします。でも左肺が損傷しているのであまり動けませんよ?」と曇るような発言を忘れず了承した。いいね自分のせいって自責の念で一々歪む顔!! クロムさん曇らせ甲斐があるよ!!
そんなわけで。クロムさんの屋敷に案内され、住み込みで働かせてもらう事となった。
回収して売り払った家から得たお金を。リスティリアの口座から金を引き出し、購入した実用性のメイド服に袖を通す。ホワイトプリムも装着。
与えられた部屋に置いてもらった姿見の前でくるり。儚げ系美少女のメイド服っていいよね。ご奉仕させるよりも屈服させたくなるよ俺は。クロムさんは絶対にやらなさそうだけど。
さて、じゃあ真面目に働きますかね。
愉悦の道も一歩から。築き上げた先に愉しみがあると信じて。
……やっぱ左手に麻痺が残ってんな。クロムさんが居ない時は『偽り』使うか。
………………
細身で金髪をオールバックにした優男を体現したような男が、ベンチに身体を預け空を仰ぎ見るクロムに声をかける。
「どうした? お前らしくもない……ため息なんか吐いて」
「アグレアさん……」
クロムに声をかけたのは、連合国魔法師団の上位に位置する人、名をアグレア。彼にはリアの事を伝えてあるので、大方は察して声をかけてきたのだろう。
「お前の引き取ったリアって娘のことで悩みがあるなら聞くぞ?」
「分かりますか……。やっぱり、ちょっと負い目を感じていて。彼女の意思とは言え働かせてしまっている事にも少し……」
「まぁ、働く事は彼女が望んでいるのだから良いんじゃねぇの? 両親を失って直ぐに働ける精神力は確かに凄いと思うがな。しかし……負い目に関してはお前が割り切るしかないって慰めしか言えねぇ」
「分かってます……」
元気溌剌、悩みなんて元気で吹き飛ばす。そんなクロムが悩むのだから相当、助けられたのが心にキている。ただ、この仕事をしている以上は誰かが傷つくのは珍しくない。
「一旦は、リアって娘が元気を取り戻したのならそれで良いんじゃねぇか?」
「それだけじゃないんです」
「ん?」
「いつも帰ってくるとですよ? 美味しそうなご飯の香りと笑顔で出迎えてくるリア。たぶん俺は想像しているよりも受け入れてしまってます。ぶっちゃけめちゃくちゃ癒される」
「はははっ!! 予想できた事だがお前に子供が出来たらゾッコンになるとは思ってたよ」
恥ずかしそうに頬を掻くクロムに、アグレアは肩をバンバンと叩いて笑う。
「俺も会うのが楽しみになってきたな。聞くにかなり腕の良い魔法使いなんだろ? 弟子として雇っちゃおうかなー?」
「うぐっ、それをリアが望むなら」
「顔が険しいぞ」
その時、昼休みの終わりを告げるチャイムが響いた。
……………
買い出しの為に財布を持って外出する。連合国の中央都市は、俺の住んでいた辺境と比べるとめちゃくちゃ広い。そりゃ連合国本部や行政機関や騎士団、魔法師団の最高司令室があり、教育機関や仕事関連、商業施設などアレやコレやが集中していけば、自ずと広くなるというもの。
そういや、クロムさんは俺を高等教育機関に入れようとしたっけな。一応、俺の年齢は15歳という事になっている。けれどコトセさんと約束したし、未来の事は楽観視している節がある。
俺の事はさておき。街の話に戻るが、最初は地理を覚えるのが大変だった。流石に『偽り』で瞬間移動とかは出来ない……出来ないよね? なので歩きで移動するしかない。まぁ魔法で身体を強化すれば屋根伝いでも移動できるので、いざとなれば最終手段として使っている。
そんな俺でも、1日で大型の商業施設までの道のりは覚えた。そうしなければクロムさんの朝食や夕飯が作れないしね。あの人、毎回めちゃくちゃ美味しそうに食べてくれるから作り甲斐があるぜ。もう欠点ないんじゃねぇのあの人。
あ、料理に関しては母さんから教わったので一通りできる。流石にプロには負けるが、そこそこ美味しい物は作れていると自負している。
「るんるんるーん、この世は愚かな人ばかりー、滅べー滅べよー」
「おうリアちゃん。相変わらず物騒な歌、歌ってんね」
「こんにちはおじさん!!」
大型商業施設の傘下として展開されている露天には、珍しい品などが充実しており、何かと重宝している。それに、店員と雑談を交えながら買い物をする……というのもポイントが高い。料理のレシピやこういった料理を作りたいと提案すれば、色々とピックアップしてくれるからだ。
あと、こうして俺の事を覚えてもらって親しくなれば後々、愉悦や曇らせに使える。
「いつものスパイスセットかい?」
「んー、暫くカレーはいいかな。でもちょっと珍しい料理に挑戦したい」
「なるほどな。ならチキン系はどうだ? 珍しい香辛料を入荷していてな。胡椒系で香りが強い奴なんだが、お安くしとくぜ?」
「むむっ、そう言われると弱い。香りかぁ、唐揚げ……タンドリーチキンとかいいかも。おじさん、少し多めでお願い!! あとオススメもいくつか」
「あいよー!!」
会計を済ませ、わざと左手で受け取ろうとして落としそうになる。
「おっと……ごめんなさい、つい」
「……左手の麻痺はまだ取れないのかい?」
「はい……治る事を祈るばかりです」
「俺も祈ってるよ、頑張れリアちゃん」
ほんの少し曇る店員の顔に儚く笑う。




