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愉悦少女  作者: よるかみ
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 コトセとの授業を終えた帰り道。


 不意に視線を感じて、取り敢えず路地裏の人がいない所へと向かう。そして視線の方向に向かって「何か用か?」と問いかけた。


 すると瞬きをした瞬間。目の前にそいつは現れた。キツネの仮面をつけた男……長身で、髪は青みがかった黒だ。怪しさの塊みたいな見た目に警戒する。こういうお面つけてるやつは大体面倒なやつだと漫画や小説で学んだ。そして……全く魔力を感じなかった。つまり……魔力以外の方法で瞬間移動した事になる。


「どうもこんにちは。愉悦の継承者」


 愉悦の後継者。言われなくても分かる。こいつは俺がサラティラを殺し権能を受け継いだ事を知っているようだ。どこかであの時の戦いを見られていた?


 一応『偽り』を発動させつつ、攻撃する立ち回りを考えていると、彼は気の抜けた態度で警戒を解いた。訝しみながら俺はしらばっくれて問いかける。


「何の話?」


「ふふっ」


 男は笑うと。瞬きの間に姿を消した。そして……。


「ぐふっ!?」


 腹から飛び出る銀色を見た。巨大な杭のような棒が腹を貫き、自分の血がトクトクと流れている。口からも血が溢れて。命が流れて行く。


 このままでは死ぬ。だから『死を偽った』。


 そして男はさっき立っていた場所に戻っている。いつの間にか。服の乱れすらなく、血もついていない。


「ほら、無事だね」


「っち」


「では自己紹介を。私は『怠惰』の権能を持つ者、アルケイデスと申します」


 自身を『怠惰』と名乗った彼。怠惰ねぇ。どういう能力だ? さっきの攻撃は全く感知出来なかった。


 でも、まぁ、取り敢えず。挨拶されたら返すのが礼儀というもの。


「どうもアルケイデスさん。俺はリアだ」


「存じております。さて態々、私が『権能』を披露したのは、まぁ今代が使い熟せているかを測るのと、貴方に忠告しに来たからです。もう直ぐ『恐怖』がテロを起こします」


 今代が使い熟せているかどうか、か。権能の実験をしておいて良かったと思う。不意打ちに近い一撃だったが、こうして権能による回復ができたのだから。


 それはさておき、後半の言葉はどう受け取れば良いのだろう。


「『恐怖』? テロ? いきなり言われてもなぁ。仮にそれが本当だとして、なんで知っているんだ?」


「それが私の権能だからですよ」


 そう言われたら閉口せざるをえない。アルケイデスとやらの権能が、未来の観測を可能とするモノかもしれないからだ。この先にテロが起きる、そんな未来を知っているからこその警告だと受け取った。


「内容を教えて……はくれないよな?」


「愉悦を求める貴方なら、逆に言われない方が愉しいのでは?」


「……」


 俺の事をよく知っていらっしゃる。もしかしたらサラティラと仲の良かった人物なのかもしれない。まぁ、サラティラが愉悦の権能を話したとは思えないが。しかし彼は愉悦を持つ者は簡単に殺せない事を分かっていた。何度かサラティラにも攻撃したのかもしれない。


 あと、事前に準備しておけば『死を偽る』事に成功するのが判明してしまったな。益々、サラティラが死んだ理由がなくなる。


「で、話はお前の不確かな忠告だけか?」


「そうですよ。私は『怠惰』。観測するのが趣味なもので。しかし『恐怖』は面白さに欠ける。故に、少し卑怯かもしれませんが『愉悦』に伝える事にしたのです」


「『恐怖』は俺の土台を崩す者か?」


「瓦解するでしょうね」


「そうか、忠告ありがとうな」


 やけに素直に受け取った俺を見て、アルケイデスは少々毒気を抜かれたように肩をすくめた。


「では、いずれまた」


…………………


 翌日は土曜日なのもあり。アルケイデスの言葉が気になってしまい、勉学に身が入らない為にお休みにした。裏路地にあるこぢんまりとしたカフェでコーヒーを飲みながら物思いに耽る。


 俺の作った土台。


 まずクロムさんとコトセさんとの関係。騎士団との繋がり。少しだけ打ち解けたレイアとの関係。ダルクとライラとの関係。


 その土台を崩すテロ、か。土台は崩す為にあるが、今崩されるのは『面白くない』。


 しかし『恐怖』とやらが結局、どうテロを起こすのか分からない限りは……。やっぱり権能で締め上げて吐かせた方が良かったか?


 そう思いはするものの。それはそれで『面白くない』。愉悦は未知にあるからこそ面白いのだ。先の分かる土台で楽しめる訳がない。


「どうしたもんかねぇ」


 テロ通知をされたところでな、が本音だ。クロムさんなら信じてくれる可能性はあるが、誰かに言っても頭の方を心配されるだろう。かと言って今から動く……なにを? 権能がどうこう以前に誰がテロを起こすかも分からない。不明な相手に何をどうすればいいんだ?


 『恐怖』。それの本質は、人の恐れ。本能に刻まれた畏怖。


 テロを起こすなら、恐らく大勢の人に当て嵌まる『恐れ』があるはずだ。つまり、大勢の人が死ぬ。


 ……止める方向で動くけど、結局のところ『恐怖』の権能が分からない限りはなぁ。



 そんな事を考えている時だった。



 恐れはすぐそばに居たようで。


 カフェの中にまで轟くような爆音が響いた。


 警戒よりも先に足が動く。何が起きたのか確認する為、急いで外に出て、大通りまで走って行く。すると、大通りでも一際大きなビルから炎と煙が立ち上り、ぐらりと中間辺りで傾き始めていた。

 このまま傾けば、ビルはちょうど大通りに倒れ込む。そうなれば逃げ惑い、しかし人の多さで動き難い人々は巻き込まれて死ぬだろう。


「《愉悦》」


 ビルが倒壊するという真実。それを『倒壊は免れた』と書き換える。ビルは傾いただけで立ち止まる。


 すると今度は、数えるのが面倒な程に武装した人間が現れる。彼らは刃物で人を斬り、銃火器で人を撃ち始めた。俺は見える範囲で『攻撃は外れた』と書き換えていく。


 そして1人を捕まえると壁に押しつけた。


「お前らはなんだ?」


 問いかけるも、目が既にイッていて、口からは戯言のように「生贄を」としか言わない。仕方がないのでそいつの精神を『偽り』気を正常に戻す。


「もう一度聞くぞ、お前らはなんだ?」


「し、知らない。何で俺はこんな……人を殺したのか!? 俺が……あぁ」


「何も知らないのか?」


「し、知らない!! 本当だ、本当に何も知らないんだ!!」


「っち」


 思わず舌打ちをする。なるほど、『恐怖』の権能のひとつか。人を操る能力が備わっているのだろう。


 しかし、やはりテロを起こす動機が分からない。そう考えていた時だ。権能から外れて死んでしまった人々の中から『白い靄』が出て行くのが見えた。


「なんだあれ」


 靄は中央に聳え立つ国の中枢機関である建物へと飛んでいく。あれが動機か? 人を殺してあの霞を集める事が?


 兎も角、ヒントは出た。急いで霞を追う。


 しかし、大通りは人でごった返していて。そこに撃ち込まれる銃弾の雨を権能で『逸らす』為に立ち止まる。これ以上、簡単に人が死んでもらっては困る。


 それに、そんな中でも愉悦は俺に囁く。出来るだけ助けろ、それが後々に美味しいと。近くにある鉄製の看板を手に取り、テロリストどもの頭をしばき倒しながら進む。


「あ、ありがとう助かった」


「あぁ、無事で何よりだよ」


 助かった人々から礼を貰いながら進む。そこで、血を流して倒れている人々を沢山見る。いちいち全てを治す事は『しない』が、子供が居る親をターゲットに絞り、近づいていく。子供は泣いているだけだ。まぁ、目の前で親が血塗れになれば泣くしかない。


「ちょいと見せろ」


 まだ心臓は鼓動している。これなら、応急処置に見せかけて《愉悦》で治せる。今回ばかりは、コトセさんから治癒魔法を習っていて良かった。服を適当に破り、患部を止血していく。


 その間にもテロリストは銃をぶっ放すので、1人ずつ虱潰しに叩きのめす。こいつらは『操られている』。言葉では止まらないだろう。


 と、ここでようやく騎士団が登場した。彼らはバトルスーツに身を包み、テロリストを銃撃していく。


「そこの民間人!! 君も早く逃げるんだ!!」


「そうさせてもらいます」


 そうして、ざっと50人は助けた。これだけ助ければ充分だ。あとは騎士団に任せよう。


「行くか」


 霞の元へ駆け出した。途中で武器として鉄パイプを拾っておく。

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