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授業が終わると、また3人でのお茶会が始まった。その折に、ダルク先輩がこんな提案をしてくる。
「そう言えば。そろそろパーティーの時期だけど、リアっち招待しない?」
「……2日の付き合いとはいえ、確かにリアの事は気に入っているが。だからこそあんなドロドロしたところに連れて行くのは辞めた方がいいのではないか?」
突然のパーティーとやらへのお誘いに、小市民を自負している俺は首を傾げた。
「名家とかのパーティーです?」
「そそ、権力者のパーティー。やってる事は互いの牽制や権力の誇示でほんとしょーもないが、飯は美味いぜ?」
「あれ、でもダルク先輩ってファミリーネームはありませんよね?」
「ふっふっふ……俺はこれでも裏では有名でね。こそこそするなと釘を刺すために呼ばれるのさ」
「この国の裏ですか」
ライラはダルクの肩を小突いた。
「おい、あまりこっちに引き摺り込まない方がいい」
「でも空間転移ができる魔法使いだぜ? 暗殺とかにもってこいな魔法だ。いずれ目をつけられる」
「あの魔法、燃費悪いんで1日一回が限界なんですけど。でも暗殺といえば実は『透明』にもなれます」
「益々、狙われる要素が増えたな」
「透明化は難しい魔法の一つだが、教室で言わなかったのは自己防衛として正解だな」
「暗殺の代名詞だからな。それにクロム団長は、まぁ貶す訳じゃないが国に属した組織の1人だ。だからいざって時にリアっちを守るなら、第二の後ろ盾がいるって事だよ」
「その、言わんとする事は理解したのですが。まだ出会って2日ですよ? 俺にそこまでする程の価値は無いと思うのですが?」
「あー」
ダルクが後頭部をガシガシと掻き、照れ臭そうにする。可愛らしい、青春をしている少年の顔つきだ。
「一目惚れ、と言ったら引かれるかな?」
おちゃらけて、なのに時々に大人びた雰囲気を醸し出すダルク。けれど俺と年齢は変わらない。
「一目惚れとは、照れくさいですね」
「……否定されない? リアっち、もしかしてワンチャンある?」
「さぁ? 今後の貴方次第です」
期待させて、どうするかも自分では分からない。まるで悪女のような思考だ。だけれど、これも愉悦だ。悪くない気分。
元々男だからこそ、思わせぶりな台詞とかは無数に思いつく。その先で本当にお付き合いするかはその時の俺が決めてくれ。
「先輩の言わんとする事は分かりました。それで、パーティーの件ですが。美味しいご飯が食べられるなら行きたいですね」
「よっし。あ、一応は古めかしい社交界の類でもあってな。ダンスの披露もあるから一緒に踊ろうな!!」
「まって、聞いてないソレ。俺、踊れませんよ?」
「まだまだ1ヶ月以上も先なんだ。魔法の訓練の傍で練習すりゃ充分だろ」
ライラ先輩に視線を向けると、軽く肩をすくめられた。ここまでダルク先輩を期待させてしまった以上はどうにも出来ないと顔に書いてある。
「お手柔らかにお願いします。しかし俺は1人のメイド。なにかと忙しいので会える日は限られるかもしれないです」
「なら連絡交換しようぜ」
「スマホ持ってないです」
ダルクは期待の籠った目でライラを見る。彼は親友からくる目線でのお願いに、鞄を開けるとひとつスマートフォンを取り出す。
「これ、俺が要らない機能付けまくったスマホなんだけど。改造機で良いって言うなら使うか?」
「貰えるものは貰う主義ですが。通信費とかは」
「おっと、お忘れかな? 私はライラ・デルヴラインドだぜ?」
「……通信社の大手でもありましたね。ではお言葉に甘えさせてもらいます」
…………………
ティータイムもほどほどに。というか本当に2日でよくここまで仲良くなったなと思いながら帰宅する。部屋の軽い掃除。クロムさんの部屋のゴミ箱チェック。晩飯の準備と一通り終わらせて。
さて、じゃあ『愉悦の権能』の拡大解釈を始めますかとノートと鉛筆を用意する。
まず『偽る』についてだが、これは言わば『究極の嘘』だ。簡単に例えるなら、傷を負いました→偽り嘘にする。傷を無かった事にする。つまり『正常値への回帰』。
なら、拡大解釈をしてみると?
先の授業でやったような時間の回帰は出来るのか? の問題だが俺は出来ると考えている。全てを『嘘』に出来るのならば『起きた事』も嘘にできる。『歴史を偽る』のだ。つまり自動的に『ここまでを嘘にしたい』場所まで巻き戻せる可能性がある。これが時間旅行、タイムリープになるのではないかと考える。
ふたつ目
偽ると言う事は死をも偽ることができる。その場合において、肉体は死ぬかもしれないが『魂の死』は偽れるのではないかという考えだ。一種の幽体離脱状態ともいえよう。これを常時発動していれば、死んだ後の世界を観測してからタイムリープできる。
実際、危篤状態になった時に幽霊状態にはなれた実績がある。
ならば魂だけの状態で権能を発動できれば。
自分の死と周囲の状況という愉悦を味わい満足してから、権能を発動できる。
ただ、不安なのが『肉体の死』を得てから『偽る』は使えるのかということ。だって、この理論が成立するなら。
サラティラが死ぬ、理由がない。
「実験といきますかね」
包丁をくるりと手で弄ぶ。
ふたつ目の幽体離脱から始めよう。事前に『死の偽り』を発動させた。
……
…………
無理だ。怖すぎる。無敵な力に見えて、所詮使うのは小市民で一般市民の俺なのだ。きっと大丈夫、そんな言葉で自決できる程のキモはない。
というわけで権能は発動させつつ保留。
次にタイムリープ。時計の針を確認し、先の理論で発動させた。少し長い瞬きをする。開けた世界は何も変わらず。ただしひとつだけ違った。
「時計の針は……戻らないか」
タイムリープは失敗。愉悦の権能の範囲内には入らないらしい。
………………
夕食が終わりデザートタイムに入った頃合いを見て、俺は今日の出来事をクロムさんに話した。
「そんな訳で1ヶ月後にパーティーとやらへの参加をさせていただけませんか? ちょうど節目なので、このパーティーが終わればコトセさんとの約束通りに医学系の学校を編入受験しようと考えています」
これはずっと考えていた事だ。コトセさんに学びに行くと言ってから連絡など一切していない。もう忘れられているかもしれないが、これは俺自身が学びたい事なのだからコトセさんが居まいが関係なく行くつもりである。
ある程度、人体への理解が深まれば……攻撃から自分の治療、他人の治療まで活用できる。特に他人への治療は罪悪感という愉悦の温床だ。間に合ったけど傷が残った事での恨み。家族を死なせてしまった役立たずの医者もどき。憎悪というものは煽りに最適なのだ。
ただし。
これは愉悦を継承しても変わらず。勿論だが治療行為は全力でやるつもりだ。それでも無理だった場合は仕方なく愉悦するだけの事。人の命を弄んでいい時は、そいつが死んでいい奴な時だけである。俺の両親の仇とかね。
そんなリアの提案に少し考える仕草をするクロムさん。
「クロム様、やはりダメでしょうか?」
「ダメという訳では無いが……ダルクとライラ。あの2人からの誘いね」
「お2人だと何か不味い事でも?」
「あぁ。2人は良い意味でも、悪い意味でも有名なんだ」
「良い意味は理解できるのですが……悪い意味もあるのですか?」
「ダルクは素性がほぼ不明なのに、使える魔法があり得ないほど多い。彼は幼少期に旅をしたからだとしているが、明らかに異様なんだ。魔法使いというのは人と兵器の隣り合わせ。いつ牙を向くか分からない存在を拘束しておきたい国は、彼に色々と支援している……という訳だ」
「確かに。空間転移を息ひとつ乱さずに披露してくれました」
「なら、もうひとつ。遙か北に天辺が抉れた山があるだろ?」
「ありますが……まさか?」
「あれは秘匿されてはいるが、ダルクが国の上層部に喧嘩を売る時に消し飛ばしたんだ」
「それはまた……」
マジか。あの人そんなに凄い人だったんだ。学ぶ事が多いどころか、百科事典を積み上げるような膨大さがある。
「その俺、ダルクさんに告白されたのですが」
「……確実に噂だけでも上層に伝わってるだろうなぁ。カフェテラスとか人がいるところで言ったろ?」
「はい」
見せつけたという訳か。同時に牽制の意味もあり、と。ダルクの危険性と面白さはよーく分かった。
「あの、ではライラさんが危険というのは?」
「彼は稀代の天才だ。ダルクが魔法でやべー奴なら、ライラは科学と化学でやべー奴なんだ。語彙力が弱くて済まないが、俺も詳しくは知らない。ただ、今は新しい金属を開発しているって噂がある」
確かに。全身機械スーツ、所謂パワードスーツを作ろうとしているのだ。それに腕だけとは言え、完成に近いパーツも見せてもらっている。もしかすると、あのスマートフォンもとんでもない代物の可能性もある。にしても新しい金属か。めちゃくちゃワクワクするな!!
あと電源オフにしてたけど、俺の実験を盗聴れていないだろうか。やはり、お金が貯まったら市販のモノを買おうと決意する。
そして話を聞いてから、益々分からなくなった。
「なるほど……そんな方達が、なぜ俺なんかをパーティーに……?」
「何か思惑があるのか。ただリアが可愛いからだけだと嬉しいな」
「あら、可愛いなんて。クロム様は嬉しい事を仰ってくれますね。今日も寝た頃を見計らって添い寝させていただきます。最近は冷え込みも酷くなってきていますし」
「やめてくれ……」
本気でやめて欲しそうで笑みが深くなる。この人のゴミ箱にカピカピのティッシュとかなかったので、本当に性欲に関しては鋼のような耐久性を持っていらっしゃる。
クロムさんみたいな人になら、一度性的に襲われてみたいのだが。彼が手を出すことは今後もなさそうだ。




