第5話
午後の文書整理室。窓からの冬陽が、机に並んだ書類を照らしていた。
内戦終結から三年、王宮の警護体制はまだ完全ではない。
その日も外から騒がしい足音が近づき、次の瞬間、廊下から甲高い叫びが響いた。
「止まれ!」
扉が乱暴に開かれ、見知らぬ男が踏み込んでくる。
腰には短剣。服装からして、どこかの従者崩れのようだ。
「こちらへ!」
すぐ背後から伸びた手が、ノーラの手首をつかむ。
驚く間もなく引かれ、奥の小部屋へ。扉が閉まる音がして、静寂が戻った。
「……女官長殿、失礼しました」
書類束を片腕に抱えたルディが、落ち着いた声で言う。
「ここは内側から鍵がかかります。警護が来るまで、作業を続けましょう」
「作業……?」
「どうせ待つなら、時間を無駄にしないほうがいいでしょう」
すでに机に紙を広げ、筆を走らせている。
仕方なくノーラも向かいに座り、持っていた文書を確認する。
……速い。
指示も的確で、複雑な案件をいとも簡単にまとめていく。
気が付けば、自分も作業に没頭していた。
扉がノックされ、近衛の声がしたのは三十分後。
外へ出る前、ルディがごく自然に言う。
「……女官長殿が隣にいると、仕事が捗りますね」
ノーラは返事をせず、机の上の整然と並んだ書類を一瞥した。
(……デキる人、なのね)