第4話
冬の終わりを告げる祝典の日。
宮廷の大広間には、諸侯や高官たちが集まり、赤と白の花飾りが春を待つ空気を彩っていた。
女官長としてのノーラは、招待客の応対や式次第の確認で休む間もない。
「女官長殿、こちらの席次表、少しよろしいですか」
振り向けば、文書を手にしたルディが立っていた。
式典当日、同じ職務区域にいるのは珍しい。
「その件は書記官へ」
「書記官殿に案内されてきたのです。これは、あなたと確認せよと」
わざとらしく肩をすくめる。
差し出された紙を受け取れば、席順の一角に赤線が引かれている。
「この配置では、隣席同士が不仲です。挨拶の場で揉めかねません」
指摘は的確で、しかも迅速。
ノーラは黙って席次を修正し、文書を返す。
「……ご指摘、助かります」
「お礼に、一曲いただけますか?」
「……何の話です?」
「舞踏会ですよ。祝典の後半にはあるでしょう」
軽口に、ノーラはほんの一瞬だけ眉をひそめた。
「残念ながら、業務中ですので」
そう言って歩き出した背に、柔らかな声が追いかけてくる。
「では、業務が終わったら」
振り返らず、歩を速めた。
(……本当に、しつこい)