第2話
王宮の回廊は、冬の陽を受けて白く光っていた。
昼下がり、人通りの少ない廊下を抜けようとしたノーラは、遠くから人影を見つける。
若い侍女が、両手で小さな菓子箱を抱え、目の前の男に差し出していた。
「……よろしければ、お受け取りください」
頬を染める侍女の声は、回廊の静けさの中でよく響く。
相手はまたしてもルドルフ――ルディだった。
彼は箱を受け取らず、わずかに首を傾げて笑った。
「甘いものは好きですが、贈り物となると別の話です。お気持ちだけ、いただきます」
柔らかな声で断りながらも、視線は相手の顔をしっかり捉えている。
侍女は恥ずかしそうに一礼し、足早に去っていった。
その場に足を踏み入れたノーラに、ルディが軽く会釈する。
「女官長殿、奇遇ですね」
「……業務中にお会いするのは、珍しくもありません」
目を合わせず、歩を進める。
すれ違いざま、ほんの一瞬だけ彼の笑みが深まった気がした。
(……また? ……偶然、よね)
心の中でそう呟きながらも、ノーラはわずかに歩調を速めた。
翌日の朝礼、配布された書類の端に「回廊補修計画」の署名欄があり、その担当者名に彼の名があるのを見て、ノーラは小さくため息をついた。