第一話 また ここから
第一章 始まりを繰り返す者
教室の窓際、左端の最後列。春の陽光が差し込む席で、俺はふと目を覚ました。
風がカーテンをふわりと持ち上げ、その向こうで桜の枝が揺れていた。
温かな風だった。けれど、どこか違和感がある。
肌を撫でる感触が“風の記憶”とズレていた。
たとえば、同じ夢を何度も見たときのような──既視感と薄気味悪さが、皮膚の下を這う。
「……永。おい、神永。お前また寝てただろ」
前の席から声がした。
懐かしいはずの声なのに、どこか遠い。
声の主の顔が霞んで見える。いや、視えているのに“脳が名前を思い出せない”。
喉の奥に引っかかる。思い出せそうで、思い出せない。
でも身体は、名前を呼ばれたとき、自然に反応していた。
俺は……神永 哉。
それだけは、なぜか“絶対”だった。
教室内は静かだった。
ざわつくこともなく、妙に整然としている。
黒板には『新学期ガイダンス』と書かれたまま、チョークの粉が舞っていた。
窓際にかけられたカーテンが揺れるたびに、花台の鉢がカタリと音を立てる。
壁際に並ぶ掃除用具の柄が、風に合わせて小さく振動していた。
何もかもが、完璧なバランスで配置されていた。
──いや、完璧すぎる。
そう気づいたとき、背中を汗が伝った。
指先に視線を落とす。
かさついた指。爪の先が白くなっている。
指の皮膚に、無意識のうちにできた小さな固まり。
癖なのか、戦いの痕なのか、思い出せない。
左肩を軽く回してみる。
その動きは、驚くほど“自然だった”。
回転、脱力、捻転──。
肩甲骨が音を立てて鳴る。筋肉が連動して、正確にしなる。
この動きは、訓練を重ねた者のものだ。
だが、誰が? いつ? どこで?
「マジでどうした? 今日のお前、雰囲気違うぞ」
軽く笑うような声に振り返る。
八城 総士──そうだ。友人……だと思う。
でも“思う”という不確かさが、自分の口の中で重く沈んだ。
「なんかこう……前よりも“削れた”感じっていうか」
「削れた?」
「うん。前はもうちょい……素だった。今のお前、妙に整いすぎてて逆に怖い」
整いすぎているのは──俺なのか? この空間なのか?
口の中が、急に乾く。
唇の裏を舌でなぞると、細かいザラつきがあった。
(砂?……いや、違う)
でも確かに、口の中に“自然じゃない質感”があった。
咳払いをする。
喉の奥でジャリ、と何かが擦れるような感覚。
ほんのわずかな痛み。それが現実感を引き戻してくれた。
教室の空気が、妙に冷たい。
春なのに、指先がじんわりと冷えていた。
(この教室……何度目だ?)
桜の枝が風で揺れる。
けれど、どこかで“この景色”をすでに見ている気がした。
(俺は何回……この春を迎えた?)
(この椅子に座り、名前を呼ばれ、風を受けた?)
喉元に引っかかっていたものが、ゆっくりと膨らみ始める。
その“感覚”は、まるで喉の奥で生きている何かだった。
そしてそれは──確実に“違和感”と呼べるものだった。
放課後。
なぜか、俺の足は旧校舎の方へ向かっていた。
誰かに呼ばれたわけじゃない。
なにか“用事”があったわけでもない。
ただ──“そこに何かがある”と身体が知っていた。
そうとしか言いようがない引力だった。
廊下は薄暗く、窓から差し込む夕陽が床に長く伸びている。
突き当たりに、人影があった。
制服姿。おそらく生徒。
だが、その“立ち姿”には“人間らしさ”が一切なかった。
まばたきすらしていない。
呼吸の気配もない。
首が、わずかに傾いていて、顔の半分が影になっていた。
だが、その口元だけは、はっきりと見えた。
笑っていた。
貼りつけたような、左右非対称の笑み。
「記録が……干渉されている」
脳に、直接響く声だった。
男か女かもわからない。機械にも似た、歪んだ音。
「お前は……また、ここからか」
その瞬間、視界が歪んだ。
頭蓋の内側に圧がかかり、視神経を通じて映像が逆流する。
──赤い空。
──崩れた瓦礫。
──耳を劈く銃声。
──焼け焦げた皮膚の匂い。
──誰かの悲鳴。誰かを撃った音。俺が──?
「──っ!」
そいつが動いた。
関節が逆に折れ曲がる。常識外れの挙動。
重心が一度浮き、そしてこちらへ迫ってくる。
反応よりも早く、身体が勝手に動いた。
隅に立てかけられていたモップを掴み、逆手に持ち替える。
脚を踏み出し、地面を押し出すように間合いを詰める。
肩を沈め、腰をひねり──攻撃の動作。
殺すための一撃。
身体が、誰かを仕留めるための動きを、覚えていた。
その時、背後から声がした。
「……今はまだ、殺すな」
その声は、冷たくもあたたかかった。
低く、静かに。けれど俺の背骨を貫くように響いた。
「お前は、守る側だ。忘れるな」
次の瞬間、人影は霧のように崩れて消えた。
煙のように溶けて、何もなかった空間だけが残った。
翌朝。
日常は、何もなかったかのように始まっていた。
だが、俺の机の上のノートに一行だけ──
『またここからか』
そう書かれていた。
自分の字だった。
震えた筆圧。走り書きのような力強さ。
記憶にない。けれど、確かに“俺”の痕跡。
教室の外では、また桜が揺れていた。
昨日と同じ。
だが、もう完全に同じとは思えなかった。
知らなければよかった──とは、思わない。
けれど、知ってしまった。
“これはきっと、最初じゃない”。
初めまして、 秀と申します。
この度初の物語を投稿させて頂きました。
読者の皆様方に是非、読んで頂きたいのと
問題点があれば率直に行って頂ければ幸いです!!
よろしくお願いします。
※本作はAIツール(ChatGPT)を使用しつつも、構想・監修・文章チェックはすべて作者本人が行っております。






