第八話 崩れてゆく日常
新学期初日以降、私は折に触れてネヴィア様に治癒を施すようになった。けれど、それは根本的な解決にはならなかった。
ネヴィア様の不調は、病気というよりも体質的なものらしく、治癒魔法で一度は楽になっても、二日もたてばまた元の状態に戻ってしまう。魔力を通して感じるあの独特の重さは、まるで身体の芯に根を張る蓄積された疲労のようだった。
私としては、もっと頻繁に治癒して差し上げたいのだけれど、私の申し出にネヴィア様は静かに、けれどきっぱりと首を振った。
「あなたの稀有な力を、私が独占するわけにはいかないわ」
それがネヴィア様の変わらぬ姿勢だった。顔色がかなり悪い時だけは、ネヴィア様もさすがに折れてくれるので、その時にだけ治癒魔法を使っている。そんなネヴィア様の頑なな態度が少しもどかしく感じるけれど、見守るしかできなかった昔よりはずっといい、と自分に言い聞かせてネヴィア様に治癒を施す。
二年生になってからおよそ一カ月が過ぎた頃の放課後、学院の図書館に私とローランくんの姿があった。
ネヴィア様が第二王子――セドリック殿下に呼ばれたとのことで、私たち二人は予習をしながらこうしてネヴィア様の戻りを待っている。
二年生になってクラスが変わったけれど、私の学院生活で変わったのはそれだけじゃない。以前は徒歩で学院に通っていた私だけれど、今はネヴィア様の助言により、朝は乗合馬車を使って登校するようになった。ネヴィア様曰く、聖女に認定された今、一人で出歩くのは避けた方がいいみたい。
朝は、と限定しているのは、帰りはほぼ毎日ネヴィア様の馬車に同乗させてもらっているからである。そのため、今日も一緒に帰るべく、ローランくんと共にネヴィア様の帰りを待っているというわけだ。
窓から射し込む夕陽が、静かな図書館の中でゆっくりと影を伸ばしていく。放課後まで居残りで調べ物をするような勉強熱心な生徒は少ないのか、放課後の図書館は人の姿もまばらだった。
静かにページをめくる音が続く中、図書館の扉がそっと開き、ネヴィア様が入ってくる姿が見えた。私がネヴィア様に向かって軽く手を上げると、それに気付いたネヴィア様が私たちの方へと進路を変える。
「遅くなってごめんなさいね」
「勉強していたので大丈夫です。ローランくんに分からないところを教えてもらえましたし」
「そう」
ネヴィア様が私の隣に腰を下ろすと、それと入れ替わるように手早く荷物を片付けたローランくんが立ち上がる。
「馬車の用意をしてまいります」
そうネヴィア様に声を掛けると、そのままローランくんは図書館を後にし、室内は再び静寂に包まれた。隣に座るネヴィア様に視線を向けると、出かけた時よりも疲労の色が濃くなっているのが目についた。
(随分と疲れていらっしゃるけれど、セドリック殿下と何を話されたのだろう……)
私の心の声が顔に出ていたのか、ネヴィア様が私を見ながらくすりと微笑んだ。そして、ちらりと周囲を見回した後、声を潜めて、ぽつりと打ち明ける。
「セドリック殿下に、あなたのことを聞かれていたの」
「私のこと?」と思わず目を瞬かせ、私はネヴィア様を見つめる。
ネヴィア様の話によると、殿下とは私の後ろ盾について話をしていたみたい。ネヴィア様から、私の後ろ盾に王家が名乗りを上げる話が出ているのだと聞き、私は驚きで胸が跳ねた。
「本当……ですか?」
「ええ、本当よ」
「それなら、なぜ私ではなく、わざわざネヴィア様を呼び出して伝えたんですか?」
「それは、直接殿下があなたに話せば、あなたが断れなくなるからよ」
私は心の中ではてなを浮かべながらネヴィア様の説明を聞く。どうやら、王家からの正式な申し出ともなれば、形式的には下命に近いものになるらしい。たとえ私が望んでいなくても、拒むことは難しくなる。だから、まずは私と仲の良いネヴィア様を通じて、私の意思を確認したというわけだ。
ネヴィア様は視線を軽く下げたまま淡々と説明してくれるけれど、その瞳には確かな憂いが宿っていた。
「もちろん、あなたが王家の後ろ盾を望むなら止めはしない。でも、私はあまりおすすめしないわ……」
どうしてですか――そう問いかけるよりも早く、ネヴィア様は静かに説明を続ける。
神殿の後ろ盾であれば、平民のまま高位の聖職につける。貴族の後ろ盾なら、養子縁組を行い、貴族籍を得て支援を受けられる。では、王家の後ろ盾が意味するのは――
「婚約。それが、王家の後ろ盾を得る最も穏当な形よ」
婚約を結び、王家が後ろ盾になることが表明されたのち、相応の貴族家に養子に入り、成婚する。
貴族の家を後ろ盾にする場合、政略結婚の可能性は高いが、初めの交渉次第では多少なりとも本人の意思は尊重されるだろう。
けれど、王家が相手となれば、話は別だ。後ろ盾を得ることは、婚約することと同義である。
「……殿下との婚約を目指す貴族令嬢はたくさんいるわ。親や本人の意向、権力に強い関心があるなら別だけど、あなたはそうではないでしょう?」
瞳の奥を覗くように、ネヴィア様はじっと私を見つめる。
「それに、あなたが王家に近づけば、必ず跡目争いに巻き込まれることになる。今は第一王子が王太子だけれど、もしセドリック殿下の婚約者が“聖女”ということになれば、情勢が変わるわ」
声を潜めながらも、その言葉には冷静な確信があった。
「セドリック殿下の性格、そして周囲の派閥の動き。神殿の勢力も加わることになるし……、正直に言って、一波乱起きる可能性はとても高くなるでしょう」
ネヴィア様はひと息つき、「あなたはそれでも婚約する?」と言わんばかりに私を真っすぐ見つめた。その視線の奥にあるのは、静かな警告。
ただし、それは単なる忠告ではなく、私を守ろうとする意志も伺い見えた。
「無理、無理です……!」
手をぱたぱたと振りながら、私は何度も首を横に振る。殿下の婚約者なんて、ただでさえ荷が重いのに、権力争いに巻き込まれるなんてまっぴらごめんだ。
ネヴィア様はふふっと息を漏らして笑うと、「分かったわ。では、次に殿下から呼ばれたときに、私から伝えておくわね」とだけ告げた。
驚愕の話が終わった安堵とざわめきとで、私は深く息を吐く。そして、思わずぽつりとつぶやいた。
「……ネヴィア様の家が、私の後ろ盾になってくれたら、いいのにな」
言ってから、自分でも子どもじみた願いだと気づいた。けれど、ネヴィア様は私を叱ることなく、困ったように笑った。
「できることなら、私もそうしてあげたいわ。でも、私の家は代々中立を守る家なの。時には王家に輿入れすることも、逆に降嫁を迎えることもある家だから、誰か一人に肩入れはできないの」
ネヴィア様が静かに謝るのを聞いて、私もすぐに首を振った。困らせたことが申し訳なくて、私からも小さく謝罪する。
「それにしても、リズの後ろ盾の話は頭が痛いわね」
ネヴィア様のため息混じりの呟きに、私は少しだけ笑いそうになった。その言葉には、現実の重さが表れていた。
今現在、神殿とセヴラン家以外にも、いくつかの貴族家から後ろ盾の申し出はある。けれど、貴族の目から見た判断として、ネヴィア様は「どの家も決め手に欠けている……」と頭を悩ませていた。
もし、私が未来で恋をして、その人と結ばれたいと願うのなら、神殿を後ろ盾にするのが最も穏当な道だ。恋した相手が平民でも貴族でも、いくらでもやりようがある。
けれど、私は神殿を選ぶつもりはない。もちろん、セヴラン家ももっての外だ。
となると、政略結婚を必要としない、ある程度の権力を持った家を選ぶのが理想なのだけれど、ネヴィア様から見て、期待に沿う家は今のところ出ていないみたい。
ネヴィア様もそれらの事情を分かっているから、頭が痛いと言っているのだろう。しかもその上、王家からも申し入れがあったとなればね……。
ちなみに、私の父親が元貴族であることや神殿に関わるあれこれについては、既にネヴィア様とグレアム様には話している。その話をしていなければ、やはり神殿の後ろ盾を勧められただろうし、今こうして率直に話し合えてはいなかったと思う。
それに、最近になって、私が貴族の血を引いているという噂が立ちはじめたので、変に噂で聞くよりも、私の口からちゃんと説明できていてよかった。
(恋か……)
ふと、その言葉を思い浮かべたとき、胸の奥がざわりと震えた。
ネヴィア様にとってのグレアム様のように、素敵な人が私にも現れるのだろうか。想像しただけなのに、どうしてか、胸が痛む。
私は小さく息を吐きながら思わずぽつりとつぶやいた。
「私にも、ネヴィア様にとってのグレアム様のような、素敵な恋人ができるのかな……」
ネヴィア様は私の表情に気づいた様子もなく、困惑した声で口を開いた。
「前にも言ったように、私とグレアムは政略婚約よ。伯爵家の家督を継ぐ私の配偶者として、七歳のときにグレアムとの婚約が決まったの」
(――でも、お二人はとても仲が良い。それでも恋ではないの?)
そう心の中で思っていると、ネヴィア様は淡々とした様子で続けた。
「お互いに尊重しているし、信頼もしている。仲は良い方だと思うけれど、……恋ではないわ。それはグレアムも同じよ。小さいころからの付き合いだから、どちらかといえば、お互いに兄妹みたいな感覚の方が強いと思うわ」
私はその言葉に戸惑いを覚えた。
ネヴィア様がそう思っていたとしても、グレアム様は違うかもしれない。普段の二人の様子を知っているからこそ、その疑問が湧いてきた。
ネヴィア様が、あまりに当然のように「恋ではない」と言い切ることが、なぜだか、胸に引っかかった。
(――蔑ろにしているみたい)
ふと、そんな考えが頭に浮かんだ。グレアム様の気持ちを、置き去りにしているみたいだと……。
でも、それを自分が気にするのは、どう考えてもおかしい。どうしてそんなふうに感じるのか、自分でもよく分からないけれど、ただ、胸の奥がずきんと痛んだ。
「ネヴィア様は贅沢ですよ……。グレアム様はあんなに素敵な人なんですから……もっと、大事にしてあげなきゃだめです」
ぽつりとこぼした瞬間、自分の口から飛び出た言葉に、私は頭が真っ白になる。なんて失礼なことを言ってしまったんだろうと、慌てて頭を下げた。
「ご、ごめんなさいっ……!」
私は顔色を青くしながら、ネヴィア様に何度も謝罪を繰り返す。怒らせてしまったのではと、慌てる私に対して、ネヴィア様は「大丈夫よ」と言って謝罪を受け入れてくれた。けれど、その表情はどこか固く、物思いに沈んでいるようにも見えた。
その後、ローランくんが戻ってきたことにより、その話はそこで終わった。帰りの馬車の中、ネヴィア様は窓の外をじっと眺めたまま、話を振ってもどこか上の空の様子だった。
その横顔を見つめながら、私は未だ胸に残る痛みの意味を知ることができずにいた。
翌朝、ネヴィア様は学院を欠席された。
ネヴィア様は、どんなに体調が悪くても、無理をして登校してくる方だったのを私は知っている。だからこそ、休みを知ってから授業中もずっと落ち着かなくて、休み時間に入って早々、ローランくんを尋ねた。
ローランくんの説明によると「今日は少しだけ休息を取られただけだから、大丈夫」とのことだった。ローランくんは普段通りだったので、ほっとした一方、どこか違和感のようなものが胸に残った……。
結局、ネヴィア様と再び顔を合わせたのは、それから三日後のことだった。
久しぶりに登校してきたネヴィア様の姿に、安堵が胸を満たす。けれど、次の瞬間、それが脆く崩れ去った。
ネヴィア様の穏やかなまなざしが、私を素通りしていく。話しかければ、ちゃんと返事はある。けれど、そこにはネヴィア様の心がこもっていないのは明白だった。
目が合わない形だけのやり取りに、胸の奥がひんやりと冷えていくのを感じた。昨日まで当たり前にあった優しさが、まるで夢だったかのように、胸の奥に不安が静かに膨らんでいった。
その後、私はネヴィア様と二人きりで話すことはなかった。なぜかクラスの女子生徒たちが、常に私たちの側にいて、会話は自然と集団の中で交わされるものばかりになった。
昼休みには、ようやくゆっくり話せるかもと期待したけれど、ネヴィア様は「図書館に寄ってから行くわ」と言い残し、食堂に姿を現したのはもうすぐ昼休みが終わる頃だった。
食堂でなら普段のように話せるかもって、期待してしまった自分が情けなくて、胸がきゅっと苦しくなる。
(これは、多分……。いや、もしかしなくても、私のせいだよね)
私の頭に浮かぶのは、ネヴィア様が休む前日の、私の失礼な言葉。
もう一度、ちゃんと謝りたいと思っていても、その機会すら与えてもらえない。教室で声をかけても、他の生徒も交じっての会話になってしまうし、休み時間も放課後もネヴィア様は誰かといて、どうしても二人きりになれなかった。
新学期になってから毎日のように一緒に帰っていたのに、用事があるからと一緒に帰るのも断られてしまった。仕方なく、私はひとり乗合馬車で帰路についた。
乗合馬車の揺れに身を任せながら、ネヴィア様との帰宅風景を思い出し、胸の奥がじんわりと痛んだ。
翌日の昼も同じで、終了時間ぎりぎりになってネヴィア様は食堂に姿を見せた。
ネヴィア様の変化は、私に対するものだけじゃなかった。グレアム様に対しても、どこか距離を置いているように見えた。目を合わせず、会話も控えめにしている様子を見て、私はなんだか泣きたくなった。
この前から、私は一体どうしてしまったんだろう……。そして、どうしてこんなにも拗れてしまったんだろう。
どうすることもできないまま、ただ時間だけが過ぎていった。
そしてその次の日の昼休み、ネヴィア様はとうとう食堂にすら現れなかった。
突然学院を休み、登校するようになった途端のネヴィア様のおかしな振る舞い。さすがのグレアム様も、ネヴィア様の行動を訝しがるようになった。
これ以上は黙っていられないと判断した私は、観念してネヴィア様に失礼な発言をしてしまったことを、グレアム様に説明した。
もちろん、発言の内容については具体的なことは避け、内容をぼかして伝えた。
もしかしたら、ネヴィア様に対する非礼を注意されるんじゃないかと思っていたけれど、グレアム様は責めることなく、むしろ私を慰めてくれた。
「ネヴィアにはきっと何か事情があるんだろう。それに、リズのせいとも限らないから、あまり気に病まないように」
グレアム様の言葉に嬉しくなる一方、ネヴィア様への変わらぬ信頼に、なぜか胸がざわめく。慰められたのに、その優しさが少しだけ苦く感じた。
複雑に混ざり合う感情に戸惑う中、私は自分の中にある後ろめたさを感じずにはいられなかった。
ネヴィア様との関係がギクシャクし始めて、五日がたった。相変わらず、私はネヴィア様とまともに会話できないままだった。
些細なことで、物事が大きく変わってしまうことは身をもって理解していたけれど、ネヴィア様の心が私から大きく離れてしまったなんて、信じられないし、信じたくなかった。
ちゃんと話して誤解を解けば、仲直りできると思っていたのに、もう五日もまともに話せていない。
ずっとこのままだったらどうしようと、不安で胸がいっぱいになる。
この日の放課後、人目の少ない廊下の陰にネヴィア様がひとり佇んでいるのを見つけ、私は思い切ってネヴィア様に声をかけた。
「あの、明日は孤児院へお手伝いに行く日なんですが、ネヴィア様もいらっしゃいますか……? もし叶うなら、ネヴィア様にもう一度ちゃんと謝りたくて……」
ネヴィア様はゆっくりと目を伏せたまま、小さく首を横に振った。
「……あの時も言ったけれど、私は気にしていないわ。だから、あなたが謝る必要はないの。それと……ごめんなさい。明日は予定があるから、行けそうにないわ」
申し訳なさそうな声音。けれど、それでも、やっぱり目は合わせてもらえなかった。私は何も言えず、ただ「そうですか」とだけ答えて、静かに頭を下げる。
(明日は、一人か……)
ぽつんと取り残されたような心細さが、胸の奥で静かに広がっていった。
翌日、私は一人で孤児院へ向かっていた。孤児院があるのは、王都の外れ、街のざわめきが薄らいだ場所。人通りは少ないけれど、警邏隊が定期的に巡回しているから、危険な区域というわけではない。それでも私は、歩調を早めて孤児院へ急いだ。
昨日、来られないってネヴィア様は仰っていたけれど、もしかしたら、気が変わって顔だけでも出してくれるかもしれない。そんな淡い期待を胸に、私は風に揺れるスカートの裾を押さえながら歩く。
来週こそは、ちゃんとお話しする時間を作りたいな……。思考がネヴィア様でいっぱいになっていたその時、不意に背後から声が掛かった。
「……お嬢ちゃん、落としたよ」
はっとして私の足が止まる。何かを落とした覚えはないけれど、考え事をしていたせいで、自分以外の足音に注意を払っていなかった。
振り返ると、想像していたよりもすぐ近くに男が立っていた。なぜか分からないけれど、漂う空気に違和感を覚えて、背中に小さな寒気が走る。
ぼさぼさの髪に無精ひげ。口元には作り物めいた笑みが浮かぶ。その男性が、何かを差し出すように手を上げた。
――キラッ
男性が手にしているものがナイフだと認識した瞬間、背筋が凍りつく。喉から悲鳴がこぼれ、反射的に身体をひるがえした。スカートの裾が風をはらみ、足音が石畳に弾けた。
(……逃げなきゃ!)
布が裂かれる音がして、スカートが引きつる。服の一部が切られたのだと理解するのは、すこし後になってからだった。
恐怖に足がもつれ、私は石畳に前のめりで倒れ込んだ。膝を打ったけれど、痛みを感じる余裕すらない。
後ろを振り返ると、男はナイフを持ったままじりじりと距離を詰めてくる。口元の笑みは消え、その目だけがこちらを見つめていた。
(――もう駄目)
頭の中が真っ白になった、その瞬間――ピィーと甲高い音が鳴り響いた。空気を裂くような音に、男がびくりと肩を跳ねさせる。そして、舌打ちのような息を吐いて、踵を返した。
数人の警邏隊員が、路地の向こうから走って来るのが視界に入る。先頭の二名が叫びながら男を追い、もう一人が私の方へと駆け寄ってきた。
「大丈夫か!」
その声が耳に届いた瞬間、目もくらむような安堵感が全身に広がる。
(助かったんだ……)
吐き出す息は震え、胸は早鐘のように打ち続ける。涙が頬を伝っていることに気づいたのは、ずっと後のことだった。
リズ視点の話は、ここまでです。