妖精「樵」の巧技――The fairy Feller's master-stroke
アイルランドの妖精すら
逢ってみたいと噂しあう
伝説の精がいるという
その名は通称、妖精「樵」
性別はまるで不明瞭
男の姿といわれるが
嘘か真か知る者はない
性別なんてないんだとも
正統な名は、スピラド 「トガイレ」
巨大な金の斧を持ち
硬鈦の凶刃を振り下ろす
だが、刃先の行方は誰も知らない
いつどこで巧技を浴びて
一刀両断されるのか
まるで見当すらつかない
角笛の音に似た
戦慄の風が知らせるとか
まず、切っ先が叩き割るのは
胡桃とも榛の実とも
それが何をさすのか
誰ひとり、語ることはなかった
斧が打ち下ろされるのは
午前0時、新月の夜
月光のない無明の闇で
星雲が煌々と輝くころ
そのとき人は時計の秒針が
チクタク…チクタク…と鳴る音を
聞くと伝えられるが
それは模糊とした伝承
漆黒に雨が葉をうつ音とも
風が頬を刺すチクチクだとも
瞬目するピクピクの空耳とも
心拍が全身に鳴り響く轟とも
伝わるが真相は闇のなか
もし空恐ろしい秒読みに
耳朶を嬲られたなら
胡桃を揺さぶる電撃に痺れ
榛の実を裂く衝撃を受け
夢か現か彷徨って
世界を超越したあと
チクタク…チクタク…
創造の守護神の降臨に恵まれるか
チクチク…チクチク…
烏をつれた死神の判決を受けるか
ピクピク…ピクピク…
空想と狂気の神が導く恍惚に酔うか
ドクドク…ドクドク…
神懸った戯作三昧の極意に陥るか
そう吟遊詩人は歌い残した
聞こえし名は、妖精「樵」…
眠れぬ夜
午前0時…
秒針の声
樵の足音…
笛に似た
戦慄の風!
Queen - The Fairy Fellers Master-Stroke
https://www.youtube.com/watch?v=IGNILpVcgz4