遂には敗残者――The loser in the end
「子どもじみた遊びは
いい加減に辞めなさい」
母の口癖が突き刺さる
意思を奪う悪魔の槍が
僕の心に子宮が住みついて
毒蛇がとぐろを巻くように
コブラはチャンスを窺う
――いつか見ていろ!
「ねえ、ハンコ貸して」
「お前バイク買うつもりだろ」
「俺がバイトした金じゃん」
「駄目だよ、ダメなものは駄目」
「免許取るぐらいいいだろ」
「事故したらね、大変だから」
歯がゆさから紫の舌が
母の首に触れはしたが
毒牙は見事に阻まれた
――いつか、いつか見ていろ!
「美術の専門学校に行きたい」
「そんなもんで飯が食えるか」
母さえ敵わない皇帝、それが父
――いつか、いつか、いつか見ていろ!
胸に育った毒蛇は変異した
憤怒の尾は砂を噛み鳴らし脅す
奇異な能力を手中にし
コブラワインダーに進化した
母と父に見せつけるため
鱗は逆だち目は焰を燃やす
牙は緑の毒を垂らし怪しく光る
「こんな家、出てってやる!」
拒否を敏感に感知する誘導弾が
火炎を噴いて発射された
ロックオンは完璧だった
狙いを外すわけがない
母さんあなたが
敗者なのさ
父さんあなたも
また敗者だ
旧弊なプロペラで
音速の怪鳥に
勝てるとでも
蛇じゃなくたって
自由を求める
僕がノロマな亀でも
母さん父さん
あなたたちが敗者だ
僕の女神は母さん
もはやあなたではない
意思こそ自由こそ女神
愛の手錠も足枷も
僕には古びて錆びた屑
夢の翼が羽ばたくのを
誰が止められようか
数十年たったある日
絵描きになった僕に
母はぽつりとつぶやいた
「あの時、やりたいこと
やらせてあげれば良かった
結局、絵を描いてる」
その母は、いまは病に冒されて
「昔のことはいいよ、いまは
元気になることを考えて」
痩せ衰えた首筋に悲しみが
母がどうなろうと
妄言を零そうと
僕は愛の奴隷だった
あの窮屈な手枷と足枷を
喜んで受け入れた
意思と自由を友として
遂には僕が敗者となった
勝負は時の運というけれど
運ではない、愛なのだ
愛の重さが勝負を決する
病んで気弱に見えた
鶸のような母も
きっと心で叫んでいたろう
――いつか見ていろ!
病魔よ、お前が敗者なのさ!
飛べない鳥を侮るな!
極北のペンギンを見ろ!
誰が勝って誰が負けて
なにが勝ってなにが負けてと
人は拘り血道を駆けても
遂には誰もが知るだろう
愛の敗者こそ勝者だと
Queen - The Loser In The End
https://www.youtube.com/watch?v=-IzXzHtvgE8




