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黄色の壁  作者: 石田ヨネ
第一章 ある噂
7/44

7 努力とか友情とかキレイごとで少年をジャンプさせる漫画雑誌の、意外とトラウマ的でロリコン漫画の


          (3)



「――壁、か……」


 と呟いたのは、和服姿の、る・美祢八だった。

 同じく、夜のこと。

 少し近くからは、静かな波の音が、ほんの微かに聞こえてくる。

 場面は変わって――

 富山県は日本海側の、滑川にて。

 ここは古くからの宿場町で、うだつのある古い町家の建物が多く残る。

 なお、ホタルイカでも有名という。

 そんな宿場町の、旧酒造跡の、大きな屋敷の一角の和室。

 美祢八は囲炉裏端で、片膝を立てながら酒を――、富山の地酒の『立山』を飲んで佇んでいた。

 ――パチ、パチ

 と、静寂に、炭の少し爆ぜる音。

 干したホタルイカのツマミ。

「……」

 美祢八はグイッ――と立山を呑みつつ、昼の、金沢でのことを振り返る。

 その内容は、こうだった――


          ***


「――黄色の壁、だと……?」

 と、美祢八が疑問形で反応したのは、奇しくも自身が携わったのと同じく、“黄色の壁”だった。

「ええ。都内にあるといいます、何ていいましょうかねぇ――? 何のひねりもない言葉ですけど、“謎の茶室”についての、噂ですねぇ」

 Mr.オリベスクが、そう答えた。

「謎の茶室……、ですか?」

 と、FM商会の、リボンの女が。

「何け? 謎の茶室って、何のひねりもないっちゅんがぜ。胡っ散くさい」

「だから、何のひねりもないって、断りましたやないですかぁ。……まあ、都市伝説みたいなものだとは思うんですけどねぇ、謎の、黄色い壁の茶室が、どうやら都内にあるみたいでしてね」

「はぁ、」

「それも、ちょうど、美祢八はんの泊まるGホテルの近くにですわ」

「ん? そうなん?」

「そうですぅ」

 と、「ふーん、あっそ」程度の反応の美祢八に、オリベスクが答える。

 その美祢八は続けて、

「――で? どんな噂け?」

「まあ、その噂によりますとね、茶室に入った人は、何やら狂ってしまって、壁の向こうの世界に行ってしまうとかいう話ですわ。まあ、噂なので、真偽は知りませんけど」

「壁の向こうの世界に行ってしまう――、ですか?」

 と、FM商会の女が、少し怪訝な顔して、

「まあ、それが、神隠し的な意味なのか? それとも、精神がおかしくなって元に戻らないいう意味なのか――? そこまでは、聞いてませんけどねぇ」

 Mr.は答えつつ、

「ただ、ですねぇ? 黄色い壁で、狂ってしまういうのは、少し面白くありませんかぁ? かの、黄色を好んで使用していたゴッホも、随分に病んでたらしいやありまへんか? 耳を切り落としたりね――。まあ、黄色を好んで使っていたっていうのは、“黄視症”ていう病気にかかっていたいう説や、てんかんの薬の副作用の説もあるみたいですけど」

「その……? ちょっと、“アレ”なんですけど……『紫鏡』っていう都市伝説とか、ありませんでした?」

 と、少し話を変えて、商会の女が聞いた。

「ほぉ? そんなもの、ありましたかなぁ……?」

 と、Mr.が思い出そうとしていると、

「ああ? 何か、見たことある気がするわ。努力とか友情とかキレイごとで少年をジャンプさせる漫画雑誌の、意外とトラウマ的でロリコン漫画の……? あの、シゴック先生とか、なんとかというヤツけ? 『ぬーぼー』とか、ふわっとした絵アマックス系の、駄菓子の名前みたいなヤツ? てか、その、ボジョレーじゃないほうの『ぬーぼー』? 地味に美味かったよな?」

「ロリコン漫画て……」

「シゴック先生は、教育番組のでしょ……、ヒゲの立派な」

 などと、美祢八につっこむ声がいくつか。

「『ぬーぼー』……? そんなお菓子、ありましたかねぇ?」

 と、商会の女が首を傾げ、

「まあ、ありましたねぇ。黄色い大きなゆるキャラの」

「うん。俺ら、ちょうど世代やからね」

 と、オリベスクと美祢八が、そこは一致する。

 そのように話しながら、本題に戻って、

「まあ、話を戻してやっちゃ、『紫鏡っ』てのは、アレやろ? 何か、鏡に紫の絵の具を塗ったら、こびりついて取れんくなっちまって、何か冥界系の呪い的なナニカに、アッチの世界に連れていかれちゃうー的な」

「え、ええ……。確か、そんな感じだったような」

「うん。そんな幹事」

 と、商会の女に、美祢八が幹事のイントネーションで相槌した。

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