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黄色の壁  作者: 石田ヨネ
第一章 ある噂
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6 「アウチ」という、あまり日常的には生で聞くことのないワード

 そのように、ドン・ヨンファの車のことはそこそこに。

 四人で、酒が進んでいると、

「はぁ……、それにしても最近、何か、調査するのに面白いことないかしら?」

 ふと、パク・ソユンが、思い起こしたように言った。

「そうだ、なぁ……? 確かに、そろそろ、何か調査をしたいところだね」

 カン・ロウンも、相槌して同調し、

「テヤン、何か、ないの?」

 と、パク・ソユン。

 このキム・テヤンであるが、いまはこうしてチジミ屋の屋台をしているものの、それは表向きの顔――

 元情報部の諜報員であり、その時代の人脈や勘を活かし、いろいろネタを探っているものの、

「ああ”? 俺も、何もねぇよ。“お前ら”と違って、俺は常識人だからな」

「何よ、つまんないわね」

「つまんねぇって、お前は、何かあんのかよ? ソユン?」

「ないわよ。てか、明日から東京行くし、」

 と、パク・ソユンが、海苔を咥えながら答えると、

「あん? 東京だと?」

「え? 東京――?」

 と、キム・テヤンとドン・ヨンファの声のタイミングが重なった。

「うん。DJのイベントと、撮影と、ポーカーと、諸々よ――。Gホテルに招待されてるし」

「あ”ん? Gホテル?」

 と、キム・テヤンがしかめっ面気味に、怪訝な顔をする。

「何のホテルだそりゃ?」と云わんかのごとく、自分の記憶にあったかどうか確認していると、

「え? Gホテルだって?」

 と、ドン・ヨンファのほうが、先にピンと来た。

 また、

「……ああ? あのGホテルか」

 と、カン・ロウンも、記憶にあったのを思い出した。

「何だってんだ? ロウンも知ってんのかよ?」

「まあ、東京の――、都内じゃ有名な、歴史のあるホテルみたいだ」

 と、スマホで検索したみせる。

 それは、都内の喧噪にありながら、日本の贅をつくしたような煌びやかで豪華絢爛な、すべてが芸術的な空間というべきか。

 ゆるいアーチのある、いぶし銀の大きな瓦屋根と白壁。

 石垣と緑と、ソリッドな滝の流水の美、と―― 

「フン、ハイソなホテルだぜ。わざわざ、そんなところに招待されやがって。まったく、いい身分だぜ。DJ様は、よ」

「いいじゃん。こう見えて、カワイイ系かつキレイ系の、実力派DJで通ってんだからさ? てか、半分は仕事だって」

「けっ、自分で言いやがって、何がカワイイ系だってん、アラサーのオバハンがよ」

「は? テヤン、貴方も、しばらくわよ?」

 パク・ソユンがキレかけている横、ドン・ヨンファが、

「しかも、グロ動画視聴っていう、変な趣味を持ってるからね、フグッ――!?」

「は? 誰が、変な趣味って?」

 などと余計なことを言ったせいか、後ろから羽交い絞めにされる。

 このパク・ソユンだが、その見た目にも関わらず、グロ動画視聴などという悪趣味を持っていた。

 猟奇的な動画や、不謹慎だが労災モノの解説動画などを、表情を変えずに淡々と観るという。

 なお、『ソウ』という芸名で活動しているが、由来は映画の『SAW』に由来する。

「ちょッ――!? やめッ! やめて! あぶ、あぶらないでくれって! ソユン!」

「最近は、さ? 燃やす系の動画が、マイブームなんだけどさ? どう? どう?」

 と言いつつ、パク・ソユンは火炎放射器らしきのもを、その身体をサイボーグぼようぶ変化させながらドン・ヨンファのほうへと向ける。

 火炎放射器だったり、火あぶり、火災系の動画を見ているらしい。

 まあ、よろしくはない趣味だろう。

「どう、って!? 何がどうなの!?」

「は? 何? じゃあ、違う系統のほうがいいわけ?」

 藻掻くドン・ヨンファに訊問する。

 次の瞬間、


「あっ、アウチッ――!?」


 と、突然に、ドン・ヨンファから甲高い声があがる。

「アウチ」という、あまり日常的には生で聞くことのないワード――

 そこには、ドン・ヨンファに膝カックンして体勢を崩させつつ、その尻に片方の手でカンチョーをキメるというトップクラスのアサシンのようなパク・ソユンの姿があった。

「ああ、ったく……! うるせぇってんだよ、お前ら。つまみ出すぞ」

「は? 何で私まで? ヨンファだけにしてよ」

「い、いや……! と、突然にカンチョーをされた僕は、被害者だよ?」

 鬱陶しがるキム・テヤンと、やりとりしつつ、

「――てかさ? ヨンファ? アンタ、明日から暇でしょ?」

 と、パク・ソユンが明後日の方向並みに話題を変える。

「いや、暇でしょって……。こう見えても、いちおう実業家だよ? 僕は? ていうか、何だよ? その、明日から――って?」

「いや、いいから、アンタも来なさいよ、東京。てか、確定ね、東京。けつあなが確定するのと、どっちがいい?」

「何だよ、けつあなって? さっき確定してしまったじゃないか」

 ドン・ヨンファはやれやれとつっこみながら、

「まあ、Gホテルなら、ビジネスの機会もあるかもしれないし……、美祢八の作品も、観ておきたいからな……」

「は? 美祢八の、作品――?」

 と、ここでパク・ソユンと、

「あん? 誰だよ? その、美祢八ってのは?」

 と、キム・テヤンが『美祢八』との名に反応した。

「ああ、『る・美祢八』っていう、日本人のアーティストさ。左官をベースにした作品を造ったり、プロデュース活動している」

「何だい? また、ビジネスでの知り合いとかか?」

 と、カン・ロウンが聞く。

「うん。僕の事業の、美術関係で数回会ったことがある程度だけどね」

 ドン・ヨンファが答えながら、パク・ソユンのほうを見て、

「ああ、そう言えば……? 確か、Ⅹパラダイスにも、“それらしきもの”が、なかったかい? 僕らの泊まった、部屋に、」

「ん……?」

 と、パク・ソユンが空を仰ぎつつ、

「ああ……? 何か、あったわね。あの、三角がいっぱいの、イモガイの貝殻の模様みたいなヤツ」

 と、思い出した。

「ああ”? 三角がいっぱい? イモガイだと? あの猛毒の貝か?」

 キム・テヤンが聞く。

「うん。こんなヤツ、だって」

 パク・ソユンが、ピッ、ピッ、ピ――と、スマホをタッチして、検索してみせる。

 いくつか出てきたのは、その、イモガイの貝殻の画像。

 確かに、大きさの不揃いな多数のいびつな三角形が、まるでうろこ状に、かつフラクタル幾何学のパターンのように並んでいた。

「ああ……、そうだ。確かに、こんな壁だったよ」

 ドン・ヨンファも思い出す。

「それは、どんな壁だったんだ?」

 尋ねるカン・ロウンに、

「うん。恐らく、石灰を用いた左官仕上げの磨き壁だよ。一つ一つの模様を、鏝で磨きをかけてね、まるで高級大理石のような質感があったよ」

「うむ。それは、なかなかの手間がかかっているな」

「ただ、よぅ? そいつを、美祢八ってヤツが作ったってのは、確定じゃねぇんだろ?」

 と、キム・テヤンも再び話しに交わって、

「まあ、かもしれない程度の話だよ」

「すると……? もし、その美祢八という人間が Ⅹパラダイスに来て壁を作ったとなると……、彼は、どうしてそんな、Ⅹパラダイスに来てたんだろうな?」

「うん。それは確かに」

 と、ここでパク・ソユンが相槌する。

「うーん……、まあ、けっこう謎の多い人物なんだよね。美祢八は――」

 ドン・ヨンファが言った。

 そうしながら、見る先ほどのGホテルの画像――

 黄色い壁の、茶室の写真。

 そこに、何か、引き寄せられるものを感じつつ、パク・ソユンとドン・ヨンファは東京へと赴くことに。

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