5 「お酒は絶対やめた」と言いながら浴びるようにワインを
「しかし、危なそうなことばかりしてるね。気を付けてくれよ、ソユン」
動画を見ながら、カン・ロウンが心配する。
「まあ、気を付けなよってたって、さ? 今年だけでも、けっこう散々な目には遇ってるから、今さらなんだけど……」
「ああ、そう言えば、そうだったね」
と、振り返ること――
このパク・ソユンおよびSPY探偵団だが、今年の一年でも、いくつか事件を調査してきた。
その中で、異能力というか、異常者を相手にすることも少なくない。
中でも、パク・ソユンが小さくないダメージを負ってきた事件が二つほどある。
『茶館事件』と、『Ⅹパラダイス』なる島での事件。
前者は、さしづめ毒劇物の“茶会”といったところか?
狂人的な財閥令嬢の主催者が“招待”と称して、実体は拉致によって強引に客人を“招き”、茶会といって劇物や、ギンピギンピなど激痛をもたらす植物を用いた“茶”を振る舞うという狂気を行っていたのだ。
その調査の際に、パク・ソユンは友人を人質を取られ、犯人の令嬢に捕らえられてしまうことになる。
手首をチェーンソーで切り落とされたり、ギンピギンピやら硫酸を飲まされるやら散々な目に遭うのだが、協力関係にあった“妖狐”なる存在の力を借り、最終的には令嬢にリベンジする形で、事件の解決までに至ったという。
そして、直近では、Ⅹパラダイスなる島でのこと――
謎の島への招待状が届くという、小説や漫画みたいなことがあったのだが、パク・ソユンはドン・ヨンファを強引に誘い、やめておけばいいものの、のこのこと島へと行く。
どこか分からない島――
まあ恐らく、韓国からそれほど離れていない島なのだろうが、そこにあったのは、巨大な“ヒトガタ”の――、それも、膝をついたセクシーポーズをとる女体のヒトガタという、およそ趣味の良くない巨大建築。
一見すると、カジノ付き高級ホテルのような内部なのだが、案の定、そこで奇妙なことが起こる。
パーティを終え、「お酒は絶対やめた」と言いながら浴びるようにワインを飲んだ後のこと。
夜中に目が醒めると、なんと、部屋の中にクリーチャーがいたのだ!
それも、人間を、まるでゴム手袋をひっくり返したような、血と臓腑の滴る、筒型のグロテスクなクリーチャーが!
そうして、パク・ソユンとドン・ヨンファのコンビは逃走しながらも、この異常事象の首謀者たちとの戦闘の末、何とか倒し、島を脱出したという。
その際も、“人体をひっくり返さんとする念能力のような力”を受け、肋骨がひび割れたり、腕が割れてクパァッ――とイキそうになったりと、小さくないダメージを負ったのだった。
「――ほんと、振り返るだけで、ろくなことが起きてないわね」
パク・ソユンが言って、空になったグラスをスッ、コーン……! と置いて、また自分で注ぐ。
キム・テヤンが息のあったように、海鮮系のツマミと海苔を置いてやりつつ。
「まったく、確かに運がないよな、ソユンは」
とは、カン・ロウン。
「まあ、運がなさすぎでしょ、さすがに」
「けっ、またどうせ、変なことが起きちまうだろうぜ。いいじゃねぇか? お前と、“あいつ”にはお似合いじゃねぇか」
「は? 私まで、いっしょにしないでよ」
と、“あいつ”との人物を出しながらも、キム・テヤンが茶化してくる。
すると、
「ちっ……、噂をしたら、そのアイツが来ちまったじゃねぇかよ」
と、噂をすれば何とかと、件の人間が現れる。
――ドゥ、ルゥン……!
と、エンジンの音がして、近くの駐車場へと、ぬるりとブガッティが停まる。
そんな、わざわざ近くの駐車場へ止めてまでして、車からは高級そうな黄色スーツにキノコ頭の男が。こんな屋台にやってきた。
これで、SPY探偵団の四人がそろう。
この、クレヨンしんちゃんの組長――、もとい園長先生のような黄色スーツを着たキノコ男こそは、メンバーのドン・ヨンファだった。
貴族、中規模財閥の一族で、趣味程度に実業家やビジネスを嗜むという、グループ随一の有閑な男でもある。
「けっ……! まったく、来ちまったのかよ」
「来たのかよって、ひどいこと言うなぁ、テヤン」
「うん。来なくていいから、帰りなさいよ? アンタ? いや、帰りたいよね?」
「何だい? その、言い直しての「帰りたいよね?」って疑問形、」
と、舌打ちしてくるキム・テヤンと、冷たくあしらうパク・ソユンというやりとりをしながらも、
――コン……!
と、キム・テヤンは酒を、ビールを出してやり、ドン・ヨンファも飲みに加わる。
「ったくよ、わざわざ、そこに車を停めやがって」
「いや、駐車場だからいいじゃないか? 後日、取りに行くし」
「何? わざわざ、ブガッティを見せつけて、イヤミなわけ? 酒でもかけてあげよっか? “アレ”に?」
「ちょっ……! やめろよ、そいつは。さすがの僕でも、怒っちゃうよ? ソユン」
アレ呼ばわりして、軽犯罪レベル程度には物騒なことを言うパク・ソユンに、ドン・ヨンファが憤り、
「――で? 後日って、いつアレは取りにくんだよ? どうせ、一週間くらい忘れてんだろ、お前はよ」
「その……、まあ、また暇があったらさ」
「けっ、高級車なんかいくらでもあるから、いつでもいいってことかよ。盗まれちまえばいいのによ」
「ね? やっぱイヤミでしょ? やっぱ、お酒かけてくるから、ビール、2、3本ほどちょうだいよ? テヤン」
「だから、やめてくれって。てか、酷いな、君たち」