42 『ぽよ』の呼吸
(3)
「あ、れ……? 美祢、八?」
と、状況の理解が追い付かず、目を点にするドン・ヨンファと、
「ぽ、よ?」
と、まだ虚ろな目のパク・ソユンは順に、“入ってきた”美祢八の姿を見て思わず声にした。
その美祢八に続いて、
「ソユン! ヨンファ!」
と、ふたりの名を呼びながら、カン・ロウンが駆けつけるように現れた。
「ろ、ロウン!」
思わず叫ぶドン・ヨンファと、
「は? 何で、アンタたちがいんの……? ぽよ」
と、思わぬ出来事に、パク・ソユンがいつもの怪訝な顔で、『ぽよ』をつけ忘れそうになりながら聞いてくるも、
「というか、ソユン!? ど、どうしたんだい!?」
「おうよ、どうしたんけ? その、首と、口から出とる血ぃは?」
「は? 何ぽよ? アンタたちも、「こいついつも口から血ィ吐いてんな」って、「こいついつも疲れてんな」みたいに言うわけ? ぽよ?」
「い、いや、別にそれは言ってないが……、って、ぽよ――!?」
と、パク・ソユンの首元の出血と吐血を気にしながらも、カン・ロウンは『ぽよ』の語尾に驚かされる。
また、パク・ソユンは続けて説明する。
「はぁ、……まあ、その、何っていうぽよ? この、黄色の壁の化身とかいうのに、たぶん、異能力でなのかな、ぽよ? 首に爆弾をつけられて、さ? ぽよ」
「首に、爆弾――!? だと!?」
「ぽよ」
「……」
と、カン・ロウンは、まだ『ぽよ』の相槌に困惑しながらも、
「そ、それを、爆発させられたわけか……?」
「ぽよ」
「……」
と、困惑の沈黙を挟みつつ、今度は美祢八が、
「ほう、そんで、首ちょんぱして死なんかったんけ? どんな身体しとるんけ? 『ぽよ』のおば――、姉ちゃん」
「今、おばちゃんって言いかけたでしょ? ぽよ? 殺すぽよ?」
と、パク・ソユンはジトッ……とした目で、美祢八のほうを睨みつつ、
「まあ、ヨンファにも説明したけどさ? ぽよ。たぶん、『ぽよ』の呼吸ぽよ。『ぽよ』って力を抜くことで、爆発のダメージを分散した的な、ぽよ」
「いや、呼吸ってレベルじゃねぇぞ、そいつぁ」
「だよね」
と、つっこむ美祢八に、ドン・ヨンファが同意する。
そう話している間には、
――シュ、ワ、ワァ……
と、空間に穴が開いた影響からなのか――? 紫の、バブルガムの炎が引いていき、泡のように消えてしまった。
それと同時、
――ドサァッ……
と、糸が切れたように、翁が“地”に伏した。
「う、ごぉぉ……」
呻き声があがる。
その翁の姿を見るに、呑まれてしまう寸でのところで炎が消えたためか、まあ、助かっているのは見てとれる。
「ほぉ? お前さんが、ここの主――、いや、黄色の壁、そのものやろ? なかなか、ええ壁やねか」
美祢八が、翁に話しかける。
「……」
と、翁は、ゆっくりと美祢八と目を合わせて、
「貴方、は――?」
「ああ? 俺け? いちおう、お前さんを“作った者”と同じく、まあいちおう、壁に携わる仕事をしている者やっちゃ」
「そ、うか……。褒めてくれてことに、感謝、する」
「おうよ。まっ、何が、ええ壁か、知らなんだけど」
「「「……」」」
カン・ロウンとドン・ヨンファと、翁の三者の沈黙が重なる。
いや、知らんなら言うなよ、と――
本題を進めて、
「そんでの? お前さん、いや、何て呼べばいいかね?」
と、美祢八が聞く。
「ふ、ぅ……、まあ、さしずめ、翁とでも呼ぶがいい」
「うん。分かった」
と、頷く美祢八に、
「「……」」
と、ドン・ヨンファとカン・ロウンがシュールな顔で沈黙しつつ、
((何だよ、その、軽い、小学生並みの返事は……))
と、心中、つっこみたくなる。
その美祢八は、続けて問う。
「それで、壁の翁よ? 噂には聞いてきたが、お前さんは、“ここ”を訪れた者たちを、黄色の異空間へと連れ去ってきた――」
「……」
と、翁はジッと、静かに美祢八のほうを見つつ、
「そして、この、ぽよのおばちゃんたちにしたように、連れ去った者たちに、“何か彼らの内面というか深層意識を自答させるようなテスト”を課してきた――」
「は? アンタ、ほんと首ちょんぱしたげよっか? 殺すぽよ」
と、傍らで、おばちゃん呼ばわりにパク・ソユンが反応する中で、
「――“それ”で、間違いないけ?」
と、美祢八は、確定するように聞いた。
「ああ……」
翁は、静かに認めた。




