41 『どこでもドア』程度の穴
『ええ、そうなんですよ。それから、最近だと、水路を利用して、水の流れで、逆サイホンを利用してですかね? エスカレーターのように、石を持ちあげたんじゃないかって仮説も出てきてるんじゃないですか』
『うん』
『ただ、そんな水路をどうやって作るかってなると、また、現代でもほとんど難しい話なんですよね』
『だろうね』
と、何やら、ピラミッドの建設方法の仮説についての話題のようである。
『あとは、その……、オカルト界隈だと、石を、テレポーテーションのように転送させる、タキオンマシンだとか』
『ああ、ありますねぇー!』
と、やりますねぇ! のように相槌しつつ、
『ただ……、そもそも、ピラミッド自体が……、何かを転送させる目的で造られたタキオンマシンって説が、オカルト界隈にはなかったですか?』
『うん、あったよね。それと、ごっちゃになってそうだよね』
ーーー
※※『赤間・下関怪事変 怪石の呼び声』より
(2)
「よッ、よせぇぇぇー!!!!!」
と、空間がひび割れんほどの!! 叫び声を響かせたのは翁だった!!
その、冷酷な能面のようだった表情はどこへ行ったやら――・ もはや余裕などなく、酷く動揺したものへと変わっていた。
「や、やめろぉぉぉー!!!」
焦燥に歪む顔で“術”を発動し、パク・ソユンとドン・ヨンファのふたりに対して何とか攻撃しようとし、『紫の炎』を消そうとするも、悲しいかな――?
翁の攻撃はすでに、ふたりに対して、まったく“効かない”ものとなっていた。
そんなふうに、いっきに絶望的に劣勢な状態になる中、
「なっ、なんと……」
と、ドン・ヨンファも、翁と同じくパク・ソユンの発動した異能力に心底驚き、また、“戦慄に近いナニカ”すら感じているという。
黄色の、空間――、壁が燃えていく。
まるで、アニメーションのような、バブルガムのような炎。
しかし、その威力は容赦なく、『黄色の壁』の異空間を侵していく。
その様子を、
「……」
と、ドン・ヨンファは驚きに固まった顔で見つつ、思う。
いったい? どこに、こんな能力を宿していたのか……?
ぽよーん人間と化していたり、こんな状況にも拘らず、人にカンチョーをしてきたり、うんこを漏らしただの漏らしてないだの宣ったりと、なかなかに頭のイカレタことをするパク・ソユンだが、戦闘でダメージを負うごとに、その異能力はどんどん人間離れしていると云わざるを得ない。
そうしているうちに、
――ボゥ、ワッ……!!
と、『紫の炎』は、翁にも燃えうつる。
「――!?」
翁は「しまった――!?」と目を見開くも、時すでに遅し!!
「ぐッ!? がぁぁあああー!!!!!」
と、大絶叫をあげる!!
その、へばりつくような紫の炎から逃れようともがく翁の様子に、
「うっ……、」
と、ドン・ヨンファも思わず顔を歪める。
その傍らで、
「……」
と、まだ首輪爆弾のダメージから回復してないパク・ソユンは、脂汗に血を滴れながら、虚ろになりかける目で、ジッ……と見ていたが。
「こ、この炎で……、どうするんだい? ソユン?」
ドン・ヨンファが、恐る恐る聞いてみる。
その最中、“壁”を侵食せんとする炎だが、揺れて広がり、ふたりにも降りかかるものの、
「ん……? あれっ? 熱く、ない……?」
と、ドン・ヨンファは不思議な体験をした。
燃え移った炎に、翁が絶叫してもがいているいっぽう、ドン・ヨンファは焼ける熱さも、耐え難い苦痛も、まったく感じていなかったのだ。
当然、自身の身にまとう黄色スーツをふくめ、肉体も燃えるような様子は微塵もない。
「ぽよ。たぶん、さ? ぽよ」
「う、ん……?」
「この空間を、燃やし尽くすだけだから……、アンタに燃え移ることは無い、ぽよ」
「あ、ああ……」
と、まだ戦慄が混じりながらも、ドン・ヨンファが相槌しつつ、
「それで、以って……、この黄色の壁の、異空間から脱出できるってわけかい?」
「……」
と、パク・ソユンは、何か考えるように少し沈黙して、
「さ、あ? ぽよ」
「さあ――? って、」
と、間を置いて出てきた言葉に、ドン・ヨンファは「おいおい」との顔で反応すると、
「だって、私も、分からないけど発動できちゃった異能力だし、ぽよ……。ま、とりま、最悪、アンタだけは助かるようにしたげるから、ぽよ」
「いや、僕だけは、って……、そ、ソユンは?」
「さあ? ぽ、よ? たぶん、アレじゃない、ぽよ? 命と引き換えに的な、異能力的な、ぽよ」
「いや、何でそんな、」
あまりに唐突に、さらっと言ってみせるパク・ソユンに、ドン・ヨンファは言葉を詰まらせる。
いや、いくら虚無的で、動じない性格とはいえども、ちょっとそれは、自分の命や生に対して執着が無さすぎるのでは、と。
その間も、
「ぐッ、ぐぁぁあああ!!!!!」
と、翁は紫の炎に侵され、呻くように叫い続けていた。
「う、うッ……、」
ドン・ヨンファが、悲痛そうに顔を歪める。
その様を見るに、先ほどの、相方のパク・ソユンを爆殺しようとしていた時に生じた憎悪などもはや無く、ただ憐れで、見るのも心苦しかった。
次には、
「そ、ソユンッ、」
「ぽよ?」
「と、とめて、とめてッ!! 何とか止めてくれよ!!」
と、ドン・ヨンファはパク・ソユンに懇願していた。
翁に対する憐れみもそうであるが、パク・ソユンが云うように、もし自身の命を賭けるような異能力であったなら――、何としても止めてほしかった。
だがしかし、その思いも虚しく、
「いや、私でも、止められないぽよ」
「そ、そんなッ――!」
と、パク・ソユンの返答に、ドン・ヨンファは悲痛な声をあげる。
そうして、このままパク・ソユンと翁のふたりが、紫の炎に呑まれようとした。
まさに、その時、
「もう、その辺でいいっちゃ?」
「――!?」
と、突然どこかからした声に、ドン・ヨンファが驚き、
「ぽよ?」
と、パク・ソユンが虚ろな目で、首を傾げた。
その、ふたりが見た先――
――ギュ、イーン……
と、まるでCGアートのようにして、黄色の異空間に『どこでもドア』程度の穴が、ぼっかり――と開く。
それとともに、
「よっ、こら」
と、黒のコートを羽織った中年のオッサンこと、る・美祢八が異空間の穴から現れた。




