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黄色の壁  作者: 石田ヨネ
第一章 ある噂
4/44

4 何? その? こち亀の、全部同じシリーズみたいな?


          (2)



 場面は変わって、

 ――シュ、タッ……!

 と、断崖絶壁から飛び立ち、太陽のもと、かき氷のような爽やかな雲の浮いたスカイブルーの空と、コバルトブルーの海という1080°の“青”のパノラマ。

 重力を感じつつ、美しい降下線を描きつつ、

 ――ザッパァ、ァーン……

 と海面へ、碧の中へと飛び込む、アクロバットな高所からのダイビング。

 またさらには、同じような爽快な空のもと、人ひとり分あるかないかの狭く急峻な尾根道を、マウンテンバイクで高速で駆けおりる。

 その途中、

 ――グ、ウォォンッ――!!

 と、大きく弧を描いて回転しつつ、華麗に着地してバイクアクロバットをかます。

 またある時は、一歩間違えれば15から20メートルほど下の地面へと落下しかねないパルクーリング。

 そして最後は、高速で回る機械の椅子に座り、戦闘機の対G訓練のマックスレベルと――

“それら”を為すのは、皆、ひとりの美しくもモデルのような女――

 いや、実際にモデルの女。

 たぶん、彼女の活動の、プロモーション的な動画なのだろう。

 清楚で淑女的な、ヘソ出しのファッションスタイル。

 少しうねった、長い黒髪には、でかでかとしたパール付きのカチューシャが目につく。

 そして、その顔はというと、白い肌に、すこし中華メイクの要素のはいった、キリッとした目に真っ赤な唇といった、まさに美人の“それ”――

 モデル兼DJとして活動する女の、パク・ソユンだった。

 なお、DJとしての活動や、動画ミックスを撮影するときは、これでもかといわんばかりに動いたり踊ったりして、その表情もキュートでファニーかつ、時に誘惑的に変化させたりと、躍動的な魅力があるのだが、今回は、

「――おい」

「う、ん……?」

 と、呼びかけた中年の男の声に、パク・ソユンが反応すると、


「全部、同じ表情じゃねぇか」


 と、中年の男は、そう返してきた。

 そう――

 場面は、爽やかなスカイブルーの海辺の絶壁とは、うって変わって、

 ――ジュ、ワァァ……

 と、すこしの煙とともに、食欲を誘う匂いと酒の匂いの漂う、韓国はソウルの屋台。

 パク・ソユンはSPY探偵団のメンバーの、目の前でチジミを焼く姿が板についた中年オヤジのキム・テヤンと、リーダー格の丸サングラスのすこし小太りした男、カン・ロウンたちとともに酒を飲んでいた。

 なお、このSPY探偵団とは、簡単にいえば異能力を持った彼らメンバーによる、兼業探偵サークルというか同好会のようなもの。

 要するに、暇人たちの集まりだ。

 話の流れに戻って、

「何? その? こち亀の、全部同じシリーズみたいな?」

 と、「全部同じじゃねぇか」とつっこんだキム・テヤンに、パク・ソユンが言う。

 なお、今のパク・ソユンの表情こそ、

「……」

 と、ジトッ……とした感じの目であり、まあ、こちらが本来のパク・ソユンの表情だった。

 そして、キム・テヤンに見せたアクティビティ動画の中の、高所ダイビングやマウンテンバイクのアクロバットジャンプ中の表情をとらえたカメラに映ったものも、今まさに目の前で酒を飲んでいるパク・ソユンの表情とくらべてもほとんど変化のないという。

 常人なら、恐怖に絶叫したり、あるいは極限状態のパフォーマンスに慣れている者でも、強張るか、むしろ覚醒したようなハイな表情になったりすものだが。

 そのパク・ソユンは、酒のはいったコップを手にして、

「いや、違うわよ――。よく見てよ、こっちは唇が少し開いているし、こっちは、目が見開いているし……、この時は、若干二日酔いが残ってて、瞼が、若干重かったし」

「……」

 キム・テヤンが、顔をしかめつつ、

「てか、二日酔いしてんのにそんなことすんなよ、バカじゃねぇのかよ?」

「は? 誰がバカよ? テヤン」

 と、パク・ソユンが、キムテヤンにムッとなる。

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