38 何ぽよ? 私が、ウンコを漏らしたのか、漏らしてないのか……? 気になるの? ぽよ?
「ん? 何? 便意、催してきたの?」
「いやいや! 何こんな状況で便意の確認なんかしてんの!? 頼むからもうちょっと緊張感持ってくれって!!」
ドン・ヨンファは思わず叫ぶ。
頭をかち割って、中身を見てやろうかーー、と?
こんな状況で便意を聞いてくる人間など、このパク・ソユン以外、この世にいないだろう。
某隕石のハリウッド映画で、超巨大津波から山岳へ逃げるような状況や、あるいはタイタニックがこれから沈まんとする場面ですら、この人間は便意を確認をしてくるにちがいない。
ーーー
※※『トランス島奇譚』より
茶の湯の本質は禅の何にあるのかといえば、それは「平等性智」ということであります。
ここにいう平等ということは、すべての人が同じ財産を持ち、同じ地位に立ち、同じ生活をするということではなしに、人は百人百様の生活をして、しかも、何の不足も苦情もなしに満足に働くことのできる境地を身につけるということであります。これを「六道四生遊戯三昧」といいます。地獄も極楽も、人間道も畜生道も自由自在に行き来のできる人ということであります。
――中略――
さて、御茶では和・敬・清・寂ということを申します。和と敬と清とは、それぞれの文字の意に向かって追求すれば、一応理解することができます。寂については、自己と真理が一体となったときの「しずけさ」であります。
**『お茶のおけいこ1 はじめて学ぶ客のマナー』(堀内宗心)より
(1)
「ぐッ、ぐぉぉ……!」
と、崩れ落ちようとする翁――
だが、その“肉体と思しき”はパク・ソユンが後ろから拘束するかのように抱えられており、崩れたくても崩れることが出来ない。
そして、そのパク・ソユンだが、
「ぽよ~……」
などと、ぽけーっ……とした、虚無の目をしていた。
ただ、首輪の爆弾を爆発させられたのは事実で、脂汗と、首と口から血が滴ったままであるが……
そうしているうちに、手の、腕の力が抜けてしまい、
――ド、サッ……
と、事前に、翁が床に崩れ落ちる形になる。
「うぐぅぅ……」
と、蠢くように床に転がる翁。
なお、パク・ソユンのほうは、
――ふ、らッ……
と、その意識が“飛び”そうになりながらも、
「……」
と、何とか耐えて、立ち尽くす。
「そ、ソユン、」
ドン・ヨンファが、駆け寄るように傍へと寄るも、
「何ぽよ? 私が、ウンコを漏らしたのか、漏らしてないのか……? 気になるの? ぽよ? いいぽよ。確認してみるぽよ」
「いや、だから、確認しないって……! それに、それは気にしてないって……。いや、まあ、気にしたほうが、いいんだろうけど……」
と、どうしたものか? まだアウトよりなウンコネタを言ってくるパク・ソユンに、若干の混乱と困惑をする。
そうしながらも、パク・ソユンは眼前の、“身体”を起こそうとする黄色の壁の化身というかインターフェースこと、翁のほうを向いて、
「てか? ぽよ? アンタ、“壁”じゃなかったの? ぽよ? そんな、痛がって、ぽよ」
と、単純な疑問を投げかけた。
その翁は、確かに、
「ぐ、ぬぅぅ……」
と、立ち上がるも、先ほどは能面のように余裕ぶっていた表情を歪ませ、ダメージを負っているようにも見える。
それは、この翁が云うところの、“壁”なる絶対的な存在が“揺らいで”いることになろうか?
すなわち、自己の内面を、深層意識を揺らがせようとの術の勝負を仕掛けた翁が――、『黄色の壁』が、パク・ソユンとドン・ヨンファのふたりに敗北したということに。
「で? これで、私たちを出させてくれるわけ、ぽよ? この、黄色の空間から、ぽよ」
パク・ソユンが、翁に尋ねる。
だが、
「……」
翁は、まだ能面のような表情で……、しかしながら、何か耐えて睨むように、ジッ……と、こちらを見ていた。




