35 『こいついつも疲れてんな』みたいな、こいついつも口から血ィはいてんな
すると、
「す、すんません!!」
と、ネズミの怪人のほうが、突然に謝ってきた。
「あん? どういうことよ?」
綾羅木定祐が、顔をしかめる。
「す、すんません、……う、嘘ついてました!」
「え? 嘘ついてたんですか!! 嘘ついてたんですかー!!」
「そ、その……、自分たち、天井裏から、盗撮モノを撮ろうとしていただけなんです……」
「え? 盗撮モノを撮ろうとしてたんですか? 盗撮モノなんか撮ろうとしてたんですか!! それは、どういう系統なんですか!!」
「おい、ウザいぞ、理可氏」
ーーー
※※『シン屋根裏の散歩者』より
(3)
そして、
――ボンッ――!!
と、乾いた音とともに、黄色の首輪爆弾が爆発する!!
その、黄色の爆炎と煙の間隙に、
「ぽよ……」
などと、パク・ソユンの断末魔なのか――? 声が、しながら……
「そ、ソユンッー!!!!!」
ドン・ヨンファが絶叫する。
そんな、「ぽよ」が、人生最後の断末魔なんて……!!
ドン・ヨンファは、悲痛に口を大きく開いたまま、次の瞬間には、
「お、おいッ!! 何をするだァァっー!!」
と、翁に向かって、まるで飛びかからん勢いのごとく叫んでいた。
「フン……」
翁は、鼻で答えつつ、
「だから、言っただろう……。自らの、深層と向き合う空間――」
「……」
「“それ”に、彼女は呑まれた……、つまりは、“敗北”したのだよ……」
「は、敗北だと……?」
と、「敗北」との言葉に、ドン・ヨンファの表情が怒りに染まる。
「ああ……」
翁が、能面のような表情と、冷笑を合わせたように歪みつつ、
「自身の、内面に負け、呑まれる――。それは、まるで……、自分の奥底にある、黄色の沼から出でた、ワニのごとく獣に呑み込まれるように、な……」
「ふ、ふざけるなッ――!! よ、よくもソユンをッ――!!」
ドン・ヨンファが、怒気をこめて異能力を――、魔界植物にも似た特殊植物を発動せんとするも、
「さあ――? 次は、君にも、課そう……」
と、翁が言うととも、
――ボワッ……
と、黄色のオーラを帯びた指先を、拳銃のようにこちらに向けていた
「ぐッ――!?」
ドン・ヨンファの表情が、「しまった――!?」と云わんばかりに、強張って歪む。
このまま、やられてしまう――
そう思われた、刹那、
「……ぽよ」
と、黄色の硝煙が晴れる間隙から、そう声がした。
「へ……?」
ドン・ヨンファが、キョトンとし、
「……」
翁が、ゆるりと振り向いた。
その、視線の先――
そこには、何とあろうことか……? 崩れかけのジョジョ立ちのごとく立つ、首から流血したパク・ソユンの姿があった。
「なっ……」
ドン・ヨンファが、心底驚いて、
「……!」
と、また翁も、その目を見開いていた。
そうしてると、
「あ、ああ……。痛かっ、たし、ぽよ……」
などと、目と口から、流血美しく滴れながら、パク・ソユンが言った。
喉の周囲だったりが損傷を受けていたり、爆弾の衝撃で身体が、軽い虚脱状態にあるのか? 少し声が出しにくく、呼吸がしにくそうにも見えながら。
「そ、ソユン……、い、いったいどうやって……?」
ドン・ヨンファが、まだ自分の目を疑う様子で、パク・ソユンに聞く。
「ぽよ……? あ、あ……、た、ぶん、呼吸法じゃない……? ぽよ? ぽよって、力を、抜いて、ぽよ……。これぞ、『ぽよの呼吸』――、ぽよ……」
「いやッ、呼吸法ってレベルじゃないって!」
しんどい様子ながら何とか答えるパク・ソユンに、ドン・ヨンファが思わずつっこんだ。
まるで、「物売るってレベルじゃねぇぞ!」の語感で。
ふたりが、そのようにしていると、
「ふぅ……、驚いたな……」
と、翁が感心した様子で言った。
「ギンピギンピやらフッ酸などを飲まされたり……、身体を変形する力で捩じられたり……、はたまた、首輪の爆弾を爆発されたり、と……。いったい……? 君は、どうやったら……、死ぬのかね……?」
「さ、あ……? 分か、んない、ぽよ……」
少し目が虚ろになりそうになりながらも、流血の美しく垂れるパク・ソユンが答える。
「……」
と、そんなパク・ソユンを、ドン・ヨンファはジッ……と見ながらも、翁と同じく思う。
確かに、いったい? どうやったら、死ぬんだろうか――?
長年、というほどでもないが、SPY探偵団をふくめて付き合いが長いながらも、皆目見当がつかない。
まあ、たぶん、“こいつ”ならワンチャン、ビルから落ちても死なないんじゃないか?
――と、そのように思いながら、
「そっ、ソユンッ……! ま、また、口から血がっ……」
「は? 何ぽよ? その、『こいついつも疲れてんな』みたいな、こいついつも口から血ィはいてんな、って? ぽよ」
「いやッ!? それは言ってないけど!! ぐふぅ――!? てか、何!? その、こいついつもつかれてんなって!!」
と、ドン・ヨンファはパク・ソユンの吐血を心配するも、何故かイラっとされて、絞め落とされかかる。




