33 灰色の混じった、まるで、【カオスに揺れる炎のような黄色】
(2)
【黄色の壁】の、異空間――
少しビビりながらも、緊張感のあるドン・ヨンファと、異次元レベルに緊張感の無いパク・ソユンのふたりであるが、『ああでもないこうでもない』とやりとりしつつ、【翁】と対峙していた。
パク・ソユンを喋らせても、ふざけて余計な事しか言わないので、
「その……、内面と向き合うってのは、日本で言うところの、【禅】――的なもの、なのかい?」
と、翁に聞いた。
「……」
翁は、ジッ……と、ドン・ヨンファのほうを見ながら、ゆるりと、
「まあ……、あながち、間違ってもないが……、内面――、それも、表層の内面でなく、【深層】の内面のこと、だ……」
「あの、深層心理とか、深層意識とかいう……?」
「【深層意識】――、それは、自分にも、誰にも分からないもの……」
「自分にも、分からない……? その……、『これが自分の深層心理だ』と思っているものが、実は、ただの思い込みだったり……、あるいは、よくある、【深層心理実験などの結果で見るようなもの】とは、また違うものだと……?」
「ああ……。自分で、【深層心理と思っているもの】は、だいたいが、ただの思い込みだ……。表層心理に近い、具体的な欲望だったり、願望を……、それらしく、言葉にしてみせているに過ぎない……」
翁は、いったん、そこまで話して、
――スッ……
と、【壁】を――、この、【黄色の空間】を指さした。
「ん……?」
「ぽよ」
と、ドン・ヨンファとパク・ソユンのふたりが、【その先】に、注目する。
「この、【黄色】は……、まるで、【ゴッホの黄色】のようではないか?」
翁が、ふたりに問いかけるように言うと、
「――!?」
思わず反応するドン・ヨンファと、
「ぽよ」
と、たぶん、その半分も反応してないパク・ソユンが、相づちする。
「君たちは、ここへ来る前に……、見てきたのだろ? 同じく、【黄色の壁】を――」
「あっ、ああ……」
ドン・ヨンファが、すこし動揺しながら答える。
何故――? “それ”を、知っているのか?
まあ、【内面の投影、写像】の空間とのたまうからには、そのように、【記憶】なども見通せるということだろうか?
それはさておき、ふたたび翁が続ける。
「ファン、ゴッホ――」
と、出された画家の名に、
「う、ん……?」
「ぽよ」
と、ふたりは反応する。
翁は、続けて、
「彼の、不安な、複雑な内面の投影――。それが、彼が、多用した【黄色】にも表れているのだろう……」
「……」
「ぽよ」
「灰色の混じった、まるで、【カオスに揺れる炎のような黄色】――」
「……」
ドン・ヨンファは、静かに沈黙して聞きながらも、ここで、
「それで……? この【黄色の壁】の、空間も……、ゴッホの黄色と同じようなナニカを、内包していているって、ことかい……?」
「ぽよ」
と、聞いた。
「ああ……」
翁は、うなづく。
そこへ、
「――で、さ? ぽよ? そんなの、どうだっていいんだけどさ、ぽよ? どうやったら、ここから出れるぽよ?」
「(そ、ソユンっ……!?)」
とここで、話の流れなどおかまいなしに、容赦なく話をぶった切るパク・ソユンに、ドン・ヨンファが慌てる。
「いや、【自分に向き合う】とか、いうけどさ? ぽよ? むしろ、“アレ”じゃない、ぽよ? 自分に向き合いすぎて可笑しくなっちゃった系じゃない、ぽよ?」
「ちょっ!? そ、ソユンは、いったん黙っ、――!?」
と、ドン・ヨンファはパク・ソユンを制止しようとした時、ハッ――と気がついた。
「……」
と、無言で、ジッ……と、こちらを見る翁の目。
【能面のような男の目】と、【聖女のようだった女の目】が、ともに、恐ろしい“それ”へと変わりながら、
――じぃっ……
と、こちらを凝視していた。
そして、薄いながらも【黄色いオーラ】が、翁から沸き立つのも見える。
「ふぅ……、理解しようとしないなら、仕方ないな……」
「――!?」
「ぽよ」
やや怒気のこもったように言う翁に、ドン・ヨンファが、ビクッ――!? となる。
まあ、パク・ソユンのほうは、言わずもがであるが。
また、翁は続けて、
「それなら……、具体的に、この空間の力を――、【黄色の壁】の力を、実際に君たちに、見てもらおうか?」
「え――?」
「ぽよ?」
――スッ――、パッ……
と、ふたりの眼前、翁は【合掌する】や否や、その両手を大きく開く。
まるで、何かの儀式のような動作――
すると、
――ギュ、イーン……!!
「なッ――!?」
「ぽよ?」
と、ドン・ヨンファが驚く中、なんとあろうことか――!! パク・ソユンの首に、冷たくも機械的な、【首輪のようなもの】が具現化される!!
“それ”を見るなり、
「そっ、ソユン? それって……、ま、まさかッ――!?」
「うん? これが、どうしたぽよ?」
と、ドン・ヨンファはすぐに、“それが何であるか”を察する。
「ああ……。その、【まさか】だ……。世にも悍ましき、【首輪爆弾】だ――」
と、能面のような翁の表情が、どこか不敵な笑みのようなもの帯びる。




