32 普通でない異常な者の言う【歓迎】や【招待】などの言葉を、性善説のごとく、言葉どおりに受け取ることはできないのは当然
「は? 何故ぽよ?」
「だ、から……、何故ぽよ、じゃなくて……]
と、逆ギレほどではないものの、何故かイラっとして返してくるパク・ソユンに、ドン・ヨンファは呆れつつ、力が抜けてしまう。
すると、
「……」
と、ジッ……と、こちらを見る翁に、
「ッ――!?」
と、ドン・ヨンファは、ハッ――!? となって慌てる。
「し、失礼……」
恐る恐る、詫びて、
「フゥ……」
と、翁はすこしばかり、ため息のようにしながら、
「話を続けると、だ……。別に、【制裁”】という、わけではない……」
と、その言葉に、
「え……?」
「ぽよ」
と、ドン・ヨンファとパク・ソユンが反応する。
また続けて、翁が話す。
「君たちに、特に、敵意などいうものは感じてはいないよ……。むしろ、少々……、歓迎に近いものを、感じているというべきか……」
「へっ……?」
ドン・ヨンファが、ポカンとする。
そこへ、
「ぽよ」
と、パク・ソユンが、またしても【ぽよ】を挟んでくるも、
「――だと、すると?」
と、ドン・ヨンファはそれをスルーし、疑念とともに翁に聞き返す。
歓迎に近い意志、もしくは意志のようなナニカ――
しかし、そう宣うわりには、唐突かつ半ば強引な形で、自分たちはワケも分からずに【この黄色の壁】の異空間連れてこられたわけである。
また、それに以前の事件でも、【招待状】などと言いながらも、相方のパク・ソユンが悍ましくも悪趣味な【茶会】に、強引に招かれた――、すなわち、拉致されたことも記憶に新しい。
なので、普通でない異常な者の言う【歓迎】や【招待】などの言葉を、性善説のごとく、言葉どおりに受け取ることはできないのは当然である。
「――だとすると、とは?」
翁も、聞き返してくると、
「いや、ふつーに考えてわかるじゃん? ぽよ? いきなり、変な空間に連れてこられて、歓迎って言われてもさ? ぽよ? 【SAW】じゃあるまいし、ぽよ」
「(ちょっ!! ソユン!!)」
と、答えるパク・ソユンに、ドン・ヨンファは、『あまり刺激するな』と小声で注意しながら、
「ま、まあ、確かに……、この、ソユンの言うように、いきなり変――、いや、このような空間に連れてこられ、僕たちも正直、戸惑っているのもある。なので、その……、貴方の、【黄色の壁】の空間に連れてくる目的や、意図するところは何なのか――? よければ、教えてほしいのです」
と、『変な空間』と言ってしまちそうになりかけたのを訂正しつつ、やや交渉気味の態度で、丁寧に尋ねた。
その横から、
「そう、ぽよ。もうちょい、具体的に教えるぽよー」
「……」
と、パク・ソユンが言ってきたが、もはやつっこむ気力を無くしつつ。
話を戻して、
「具体的に、だと――?」
と、また翁が聞き返して、
「え、ええ……。まあ、よければ」
「ぽよ」
と、説明を促してくるふたりに、
「ふぅ……、まあ、単純に……、君たちがいうように、目的や意図というのを答えてもいいが……、まずは、考えてもみるがいい」
「うん。やだぽよ」
「もう!! やめて、ソユン!! そこで、いちいち余計なこというの、ホントやめてくれって!!」
「何故ぽよ?」
「いや、だから、何故ぽよじゃなく、って!! 話が、進まなくなるだろ!!」
と、ドン・ヨンファとパク・ソユンが、半ばヒートアップしそうになっていると、
「……」
と、またふたたび、ジッ……とこちらを見る翁の視線に気がついて、
「うっ……!!」
「ぽよ」
と、パク・ソユンとドン・ヨンファのふたりは、否――、少なくとも、たぶんドン・ヨンファだけが、ビクッ――! と反応する。
「す、すまない」
ドン・ヨンファは詫びつつ、
「続きを、話してもいいか?」
「あ、ああ……」
と、翁はその言葉どおり、話の続きをする。
「まず、壁とは、“絶対的”なもの――」
「絶対的なもの、だって?」
「いや、壁は壁でしょ、ぽよ」
「いや! もうッ、いいから! ほんッと、ソユンはしばらく喋るのやめて!」
と、傍らからうるさいパク・ソユンに、ドン・ヨンファもさすがに苛立つ。
また、話を戻して、
「その、壁という絶対的なものに囲まれた、茶室や庵という空間――」
「……」
「ぽよ」
「“それ”は、古来より、茶道が築いてきたように……、自己の、深層的な内面と向き合う空間――。すなわち、没入することで、自身を写像させる空間とでもいうべきか……」
「何ぽよ? 写像って? ぽよ」
「もう! ほんとに、いい加減にしてくれって! ソユン! ふざけすぎだって!」
「は? ふざけてないぽよ。だから、言ってるじゃん? ぽよ。ふざけているようで、ふざけてないかもしれないし、ぽよ……、ふざけてないようで、ふざけているかもしれないって、ぽよ」
「もう、その『ふざけているようでふざけてない』理論はいいから……」
ドン・ヨンファはやれやれと言いつつ、やはり、「もう、だめだこいつ」と内心、呆れざるを得なかった。




