3 『人はいつ、けつあなが確定するのか?』、『けつあなが安易に確定してしまう風潮とファシズムへの警鐘』というテーマで、2時間ほど議論
「まあ、顔料だったり、ベースとなる素材を考えたり……、本来、出てほしくないヒビっちゅうのを、敢えて出すように計算して施工・製作するのは、けっこう、ダヤいんやけどねい……。まだ、平らに“押さえる”ほうがラクよ。サンプルも、それなりの数、作ったわねい」
美祢八が言いながら、確かに、そのサンプルと思しきものをみせる。
その数は、二十点近く。
ベースとなる土を変えたり、下地によって、どうヒビが出るか――、はたまた、混和する樹脂系の材料を変えたりと、材料と手法の組み合わせを変えて試行錯誤し、同じようなヒビのはいった黄色の壁のサンプルであっても、その表情の違いは多岐にわたる。
「基本的に、砂や、スサなどの骨材が少ないと、ヒビが入りやるくなるんやけど……、あとは、下地を敢えて凹凸のある下地にして、場所場所によってヒビの表情に変化を持たせたり、とかねい」
補足的に話す美祢八に、
「それで? 美祢八さん? これは、どこで、着想を得たんですか? やっぱり、左官の壁の?」
と、スーツ姿の女が質問すると、
「まあ、そ、やねぇ……? やっぱり、土壁の、田舎や町の古い家にあるような、荒壁――、その、何だったっけ? “ノスタルジックなナニカ”を、現代的な感覚と融合させたい的な――」
「は、ぇぇ……」
と、さすがに、そこは左官を冠したアーティストなだけあるな……、と感心しかけた時、
「――ってのは、まあ、嘘なんやけどね」
「「「「嘘なんすか――!?」」」」
とここで、梯子を外すような美祢八の言葉に、幾人かが驚愕の声を重ねた。
「いや、まあ……、半分はホントで半分はウソ的な、アレよ? 何け? “これ”と似たようなヤツを、昔、“とある場所”で見てねい」
「ようは、パクリというヤツですかぁ?」
「やかましいわ」
茶化してくるMr.オリベスクに、美祢八がつっこみながらも、
「へえ? その、とある場所というのは、どちらでしょうか? 興味がありますわ」
と、FM商会の女が聞くと、
「うん。ラブホのエントランスで」
「「「「――って!? ラブホかーい……!!」」」」
と、美祢八の答えに、また一同がつっこんだ。
「けっこう、エレガントなラブホやったわ。そこで、デリヘルを呼んでからよ? Sの、女王の姉ちゃんと、『人はいつ、けつあなが確定するのか?』、『けつあなが安易に確定してしまう風潮とファシズムへの警鐘』というテーマで、2時間ほど議論を交わしたという思い出があってねい」
「ああ……、120分コースね」
「いや、どんな思いでよ……」
などと、軽く引いたツッコミが続きながらも、
「それで? 話は変わりますけど、来週は、東京ですねぇ、美祢八はん」
「うん! 久しぶりの東京だぁ! おじさん、テンションが上がるなぁ、ん~。コンカフェで、美人の子と疑似恋愛を楽しむぞぉ〜ん!」
と、Mr.の言葉に、美祢八がテンションを変える。
「いや、久しぶりって……、二週間前に行ったばかりじゃないですか? てか? 貴方、奥さんいるじゃないですかぁ」
「いや、アイツのほうが、俺より自由に出歩いとるから、実質、俺が奥さんやっちゃ」
と、この美祢八、いちおう既婚者である。
またFM商会の女が、
「そのぉ……? 東京では、Gホテルに招待されているんですよね?」
と、とあるホテルの名を出して聞く。
【Gホテル】――
東京は、目黒のほうにある、有名な高級ホテルである。
女の質問に、美祢八が、
「おうよ。まあ、あんなホテルより、カプセルのほうが寝心地がいいんやけど」
「あんなホテル呼ばわり、とは……」
「まあ、でも、カプセルが寝心地いいのは、本当よ。かえって、一番よく寝れるんよ。狭小空間の、哲学ってやっちゃ。利休だって、そうやねか」
「そこで、利休……」
「ちなみに、あいつよう? 二畳ほどの茶室を造ったらしいけどよう? さすがに狭すぎだろがてめぇ――!! って、秀吉、だったけ――? に、ブチギレられたらしいけど」
「いや、ブチギレはしてないでしょ……。まあ、さすがに、二畳は狭すぎでしょうけどねぇ」
などと、話しつつ、
「それで? その、Gホテルにも、美祢八はんが関わったものがありましたよねぇ?」
と、オリベスクが、美祢八の作品について話をふった。
その、Gホテルで、美祢八の関わった作品だったり部屋の画像を、タブレットなどで見てみる。
それは、まさに【黄の茶席】というべきか――
板張りの広間の真ん中に、ちょんと用意された、二畳少しほどの茶室。
なお、板張りの広間のほうの壁であるが、土を型枠に叩きつめた、いわゆる版築壁をモチーフとした、層状になった灰色の壁。
コンクリートの施工不良のようになった――、砂利の剥きだしたジャンカのようになった部分には、真鍮色や黄鉄鉱のような色した、パテのような材料が用いられ、まるで金継ぎのように穴が埋められており、それが、ちょっとした趣があった。
そして、真ん中にある、二畳ほどの小上がりになった空間のこと――
そこの壁だけは、広間の壁とは打って違い、まっ黄色の壁に仕上げられていた。
ペンキのような真っ黄色ながらも、茶室の壁のような質感でいて……、なおかつ、少しのヒビが入りつつ、埋め込んだ藁スサが、流れるような印象を与える。
まるで、全てが溶け、融和するような黄色――
そんな、画像を見ながらも、
「――ところで? 美祢八はん? たまたま、ですかねぇ……? 奇しくも、同じ【黄色の壁】について、“こんな噂”がありましてねぇ」
Mr.オリベスクが、ふと、あることを話しだした。
「うん……? こ……」
美祢八が眉を、ピクリ……と、動かす。
「「「「いや、最後の『こ』って……、何?」」」」
と、一同に、つっこまれながら。




