28 特殊柔術のような形で拘束し、立ったままの状態で行うという、【高度なスタイルのカンチョー】
(3)
――ファ、ァァン……
として、まるで夢から目覚める時のように、場面は変わる。
いや、むしろ、【時空】すらも、変わっているかもしれない。
すなわち――
【黄色の壁】に溶けていったパク・ソユンとドン・ヨンファのふたりだが、現れてみたのは、【異空間】とでもいえる場だった。
柱もなく、すべてが、【黄色の壁】に囲われた空間――
また、その壁はというと、合わせ鏡のように無限に続く。
幾何的にも、錯視効果や【だまし絵】のごとく、【異常な次元】。
「な、何だこれは……」
ドン・ヨンファが、心底驚いて言った。
その傍らから、
「ん? これが、どうしたの、ぽよ?」
と、パク・ソユンが相変わらずの、すこし眠そうな顔で反応する。
「いや、ねぇ……、どうしたぽよって……、これが、どうもしてないように見えるかい?」
と、まあ普通は、このドン・ヨンファのような反応をするものだろう。
だが、以前の【Xパラダイス】の時でも、部屋に突然クリーチャーが現れた時でさえ、「ん? これがどうかしたの?」などとの反応をするくらいだから、今回も、そのような反応をしても仕方はなかった。
まあ、良くいえば動じない、悪くいえば吞気すぎるというところだろうか。
そうしていると、
「アッー――!?」
と、突発的に、ふたたび、ドン・ヨンファが嬌声まじりの奇声をあげた。
尻の、【尻の穴】に走る感触に崩れかけてしまいそうになりつつ、
「ぐぅぅ……!!」
と、【痛気持ち良さの狭間】に耐え、なんとか振り向いてみる。
見ると、そこには――、今回で二回目のカンチョーをする、パク・ソユンの姿があった。
それも、こんどは、いつの間に背後をとったのか――?
特殊柔術のような形で拘束し、立ったままの状態で行うという、【高度なスタイルのカンチョー】である。
「も、もうっ!! まッ、た、何をするだッー!! ソユンッ!!」
憤るドン・ヨンファに、
「ん? これでも、“元”に戻らないぽよ」
などど、パク・ソユンは言う。
「元に戻らないって、ねぇ……。何だい? 僕が、幻覚や何かを見てるから、【現実世界に引き戻す的なカンチョー】をしたわけかい?」
「そうぽよ」
「そうぽよって、ねぇ……。いや、君も、たぶん同じ、“これ”を見ているんだろう? この、無限回郎みたいな、【黄色の壁】を――。そしたら、僕だけ戻そうとしても、あんま、意味ないんじゃないかい? まあ、どっちかが、幻覚を見てない前提じゃないと成立しない魔法的なものなのか、別に両者が幻覚を見てても成立する魔法的なものかは、知らないけど」
「あっ? そっかぁ……、ぽよ」
「あ、そっかぁ、じゃないよ。もう」
ドン・ヨンファは、やれやれと呆れる。
そうしながらも、この、【壁に溶けていったら異空間にいる】という状況は、考えるべきものであることには変わりなく、
「しかし、う~ん……? これは、どうしたことか?」
「どうなんだろね? ぽよ」
「どうなんだろね、じゃなくて……、ソユンも、ちゃんと考えてくれって」
と、ドン・ヨンファはつっこんで、真面目に考える気の無いパク・ソユンを促しつつ、
「【何らかの異能力】によって、【幻覚】を見せられているというパターン……、まあ、それは、さっきのカンチョーで”否定された“”――、ことになるのか?」
「だから、意味あったじゃん、ぽよ。私が、アンタに【カンチョーをした意味】は、ぽよ」
「何だよ、その、【カンチョーをした意味】って……。まるで、【生きる意味】的な。それに? 異能力を解除できる力があるのかよ? 君のカンチョーには」
「ぽよ」
「……」
と、例の【ぽよ】で返すパク・ソユンに、しけた顔でチーンと沈黙した。
沈黙を挟んで、再び、
「まあ、幻覚の可能性は、たぶん低いとして置いておき、」
「ぽよ」
と、相づちするパク・ソユンに、
「その、もうひとつの、仮説かな――? 本当に、【壁の力】によって、異空間に誘われた、のか――」
と、ドン・ヨンファは言った。
「……」
パク・ソユンが、今度は“ぽよ”らずに、沈黙する。
昨夜に話したことが、ふと、フラッシュバックする。
【壁】が、【情報思念体のようなナニカ】である説。
以って、【壁】が、異常な事象の【犯人】であるという説を――
そうして、
「……」
「……」
と、パク・ソユンとドン・ヨンファにふたりは、ともに沈黙した。
その時だった。
「――ようこそ、お越しくださいました」
との、背後からした声に、
「え、っ……?」
ドン・ヨンファと、
「ぽ、よ?」
と、パク・ソユンが、ゆるり……と振り向いた。
そこには、
――ス、タッ……
と、茶室の亭主とでもいうべきか――? 和装をした、【謎の者】の姿があった。




