26 小説【檸檬】のように、何かエネルギッシュに爆発するようなところを秘めた明るい黄色
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パク・ソユンとドン・ヨンファのふたりは、【庵】の中へと入った。
和の、柱の表わされた、【真壁】。
柱や壁、その柱と壁の取り合いの【チリ】――、それらのプロポーションは、一般的な住宅と比べると、“気持ち”小さい感じがするのが分かる。
先述したように、茶室、数寄屋といった建築は一般住宅より細い木材を用い、壁も薄くなっているからである。
そんな、庵という狭小空間――
その中で、【壁という絶対的な存在】に狭くも囲まれることにより、【自らの存在】、【自我】というものが、より強く意識されることだろう。
ゆえに、古くから、【無心になって自身の内面と向き合うという禅的な要素】を以って、茶道と、それを取り巻く茶室や数寄屋といった建築、文化が発展していった。
ただし、今回の庵はというと、そのようなものとは異質だった。
「はぇ、ぇ……」
ドン・ヨンファが思わず、えも言えぬ声を漏らし、
「ぽよ」
と、パク・ソユンが、【ぽよ】で続いた。
そんな、ふたりの見る【壁】――
先日のGホテルで観た、“る・美祢八”のプロデュースしたのと同じく、まっ【黄色の壁】。
ただ、黄色といっても、色々ある。
中国の、皇帝が身にまとう衣装のような、高貴の象徴のごとき黄色。
また、小説【檸檬】のように、何かエネルギッシュに爆発するようなところを秘めた明るい黄色。
どちらといえば、そういった陽的な気を持った色であるが、この黄色の壁はそうではなかった。
まるで、【ゴッホの、揺らめく炎のような黄色】。
明るい色ながらも、グレーという、あらゆる色が混じって作られる複雑な色の混ざった、【形容しがたい不安感にも似た陰鬱さを内包した黄色】であった。
「まるで、【ゴッホの黄色】……、みたいだね」
ドン・ヨンファも、やはりゴッホを思い浮かべて言った。
そのいっぽう、
「ぽよ」
と、【ぽよーん症候群】進行中の相方のパク・ソユンが、何も考えて無さそうな、気の抜けた相づちだけすると思いきや、
「ねえ、ぽよ?」
「ん? 何だい?」
「これは、【Gホテル】の【黄色の壁】とは、また違うわよね、ぽよ?」
と、興味を持ったのか関心があるのかは定かでないが、壁の違いに気がついた。
そうである――
こちらの【黄色の壁】は、Gホテルの【それ】とは異なっていた。
セメント系のグレーっぽさを【底】に感じる、恐らくは、セメントと黄色系の顔料を用いたと思しき壁。
それも、均一に仕上げられたものではなく、色のムラや、鏝の押さえムラの多く残る壁という。
「ああ。あちらの、Gホテルのほうは、顔料を用いているものの……、【土壁】だね。スサのバランスだったり、でこぼこ、それから引き摺り具合の強弱など、バラツキはあるものの……、何ていうのかな? 座敷の、【聚楽壁】のように、なるべくムラなく仕上げられてたよね」
「ぽよ」
「だけど、こっちの壁は たぶん、【セメント系】かな……?」
「ぽいわね、ぽよ」
と、パク・ソユンも相槌する。
さすがに、興味はなくとも、それくらいの壁の違いは分かる。
「けど……、これは、モルタルなのかな? いや、たぶん、セメント系の薄塗り材料かな?」
ドン・ヨンファが、さらに壁に近づいて観察してみる。
「モルタルだとすると、ポルトランドセメントに砂を混ぜ、1から1.5センチくらいの厚さで塗っているからね……」
「ぽよ」
「ただ、この庵も、他の多くの茶室や数寄屋と同じく、柱が細い。“チリ”から逆算して考えるに、どうやら荒壁下地に、薄塗りの材料を二回塗りで塗って仕上げているのかな」
「ぽよ。それで、こんな【ムラムラ】なのは、何故ぽよ? 下地が、デコボコだったとか、職人の腕とか……? それとも、敢えて、色ムラや鏝の押さえ【ムラ】が出るように塗った――、ぽよ?」
「そうだ、ねぇ……? たぶんに、荒壁下地は、編まれた竹小舞に土を塗るから、どうしてもデコボコになるからね。それに合わせて、ムラが出るように薄塗りをすると、確かに【こんな壁】になる――。だけど、かえって、この【黄色のムラ】が何とも言えない、引き込まれるような味があるともいえるな……」
と、ドン・ヨンファは答える。
モルタルや、セメント系の薄塗りの仕上げという、世では、決して高級ではない壁の仕上げというか、むしろ仕上げの下地。
それも、左官の定義的なものからすれば、できるだけムラなく塗られる“べき”もの――
しかし、そのセメント系の薄塗りが、黄色の顔料を混ぜられながら、この茶室にも似た庵の、壁の仕上げに用いられているわけである。
そして、この【揺らめくようなムラ】こそが、まるで【ゴッホ作品の黄色】に似たような、何ともいえない感じを出しているという……




