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【黄色の壁】  作者: 石田ヨネ
第三章 調査、深淵の庵

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25/44

25 【やーるでーす】との、タラちゃんにも似た語感。

※※ 宣伝、『シン屋根裏の散歩者』より。



「私の夢ではないッ!」

「――!?」

 一喝する綾羅木定祐に、上市理可は驚く。

「私だけの夢でなく、これは、全人類男性の夢だ……。この世は、実は仮想世界の写像だという説があるが、そのとおりだ……。私は、うたた寝をしていたのではない。その、2045年の来たるシンギュラリティに向け、仮想世界にアクセスする実験を行っていたのだ。その技術こそ用いれば、すべての女性とアクセスし、エッチをするVRの開発も可能になる。いわゆる、VR業務用セッ○ス産業の夢を、先ほど君は壊したのだ! カンチョーを、口に垂らしてな! ゆめゆめ忘れるな!」

「うわー、気持ちわるー! てか、シンギュラリティ、壊れちゃーう!」





「気をつけたほうが、いいかしら? ぽよ。もしかして、ブービートラップとか、出てきたりして、ぽよ」

 と、その【ぽよーん症候群】の進行中のパク・ソユンであるが、ふと、【ブービートラップ】との単語を口にした。

 まあ、いつも【グロ動画】を視聴しているせいか、ブービートラップに関しても、ひととおりの知識があるのだろう。

「おいおい、怖いこと、言わないでくれよ」

 ドン・ヨンファが、軽くビビりながら言う。

 片足が落ちるなり、鋭く並んだ竹によって貫かれる、オーソドックスな落とし穴――、あるいは、足が縄に引っかかると飛んでくる矢だったり、仕掛けなり、を想像しつつ。


 そのようにしながらも、

「まあ、でも……、確かに、気をつけて進むべきといえば、気をつけて進むべきだろうね」

 と、ドン・ヨンファは、そこは納得した。

 いくら、【ぽよーん人間】のいうことでも、それが正しいのならば、耳を傾けるべきだろう。

【誰が言ったか】じゃなくて、いわゆる、【何を言ったか】が、重要というやつだ。

 そうして、すこし気を張りながら進もうと思った。

 その矢先、



「へ――?」



 と、ドン・ヨンファは思わず、目を点にした。

 そこには、


 ――ピョン、タッ!! ピョコ、タンッ!! ピョン、タンッ……!!


 などと、パク・ソユンが飛び石の上を、足が着く前に次の足を出す――、いわゆる【空中ウォーキング】ともいえるステップで!! 軽快に飛び跳ねてふざけていたのだ!!

「うぐっ、……!?」

 ドン・ヨンファは、

 ――ガ、クンっ――!!

 と、半ば膝から崩れそうになりつつ、顔が歪めて引きつらせた。

 まあ、『ブービートラップがあるかもだから、気をつけるぽよ』とか言ってた手前の、【これ】である。

 いったい、【こいつの頭の中】は、どうなっているのか――? 

 一度、かち割って、中を確認して見てみたくなるものである。

「ちょっ、と……? ソユン?」

 ドン・ヨンファが、顔のひきつるのが残りなかまらも、ゆるりと聞く。

「ん? 何、ぽよー?」

 と、ステップをとめ、パク・ソユンが反応する。

「何ぽよー? じゃなくて……、もう、何やってんだよ? 変なステップして、ふざけて」

「は? ふざけてない、ぽよ」

「いや、ふざけてない、って言われてもね」

「いや、ふざけているようで、真剣にやっているかもしれないし、ぽよ、真剣にやっているようで、ふざけているかもしれないじゃない、ぽよ」

「……」

 と、ドン・ヨンファは何度目かの、『もういいや……、こいつ』の目で絶句する。



 そうして、さらに進んでいく。

 すると、

「あっ――? これかぁ」

「ぽよ」

 と、ふたりの目の前に、


 ――チーン……


 として、確かに、【庵】とでもいうべき建築が現れた。

 土壁の塗られ、軒の出た板屋根の、侘び寂のきいた少し古びた庵。

 なお、小さい小屋ながらも、その屋根とのプロポーションは、あらゆる名建築にも通づるほどに、【黄金比的な美しさ】があった。

 ふたりは、庵に近づく。

 綺麗に、手入れされているのは分かる。

 ただ、人の気配は、無い――

 しかし、無人だが、【何者かの気配】があるような気がしてならない。

 そして、戸は鍵などしておらず、開いているという。

 そんな、雰囲気を感じながら、

「何か? 『どうぞ、お越しくださいませ』って、僕たちを招いている感があるね」

「ぽよ」

 と、ふたりは、庵の戸へと足を進めていく。

「入っていって……、いいんだよね?」

 ドン・ヨンファが、確認するように聞き、

「ぽよ」

「だから、どっちの【ぽよ】だよ……。まあ、大丈夫の【ぽよ】で、いいんだよな?」

「まあ、いいんじゃない? ぽよ? てか、私に聞いたところで、あんまし意味ないぽよ」

「まあ、そうだけどさ、」

 と、【何か引っかかるようなもの】を感じながらも、

「じゃあ、とりあえず、入ってみるよ?」

「ぽよ」

 と、意を決して、戸を開けてみる。

「お邪魔、しますよ」

 ドン・ヨンファが、いちおう断りながら入り、

「すーる、ぽよー」

 と、パク・ソユンが続く。 

 その【やーるでーす】との、タラちゃんにも似た語感。

「……」

 ドン・ヨンファは、もはや、完全に虚無になって沈黙する以外なかった。

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