25 【やーるでーす】との、タラちゃんにも似た語感。
※※ 宣伝、『シン屋根裏の散歩者』より。
「私の夢ではないッ!」
「――!?」
一喝する綾羅木定祐に、上市理可は驚く。
「私だけの夢でなく、これは、全人類男性の夢だ……。この世は、実は仮想世界の写像だという説があるが、そのとおりだ……。私は、うたた寝をしていたのではない。その、2045年の来たるシンギュラリティに向け、仮想世界にアクセスする実験を行っていたのだ。その技術こそ用いれば、すべての女性とアクセスし、エッチをするVRの開発も可能になる。いわゆる、VR業務用セッ○ス産業の夢を、先ほど君は壊したのだ! カンチョーを、口に垂らしてな! ゆめゆめ忘れるな!」
「うわー、気持ちわるー! てか、シンギュラリティ、壊れちゃーう!」
「気をつけたほうが、いいかしら? ぽよ。もしかして、ブービートラップとか、出てきたりして、ぽよ」
と、その【ぽよーん症候群】の進行中のパク・ソユンであるが、ふと、【ブービートラップ】との単語を口にした。
まあ、いつも【グロ動画】を視聴しているせいか、ブービートラップに関しても、ひととおりの知識があるのだろう。
「おいおい、怖いこと、言わないでくれよ」
ドン・ヨンファが、軽くビビりながら言う。
片足が落ちるなり、鋭く並んだ竹によって貫かれる、オーソドックスな落とし穴――、あるいは、足が縄に引っかかると飛んでくる矢だったり、仕掛けなり、を想像しつつ。
そのようにしながらも、
「まあ、でも……、確かに、気をつけて進むべきといえば、気をつけて進むべきだろうね」
と、ドン・ヨンファは、そこは納得した。
いくら、【ぽよーん人間】のいうことでも、それが正しいのならば、耳を傾けるべきだろう。
【誰が言ったか】じゃなくて、いわゆる、【何を言ったか】が、重要というやつだ。
そうして、すこし気を張りながら進もうと思った。
その矢先、
「へ――?」
と、ドン・ヨンファは思わず、目を点にした。
そこには、
――ピョン、タッ!! ピョコ、タンッ!! ピョン、タンッ……!!
などと、パク・ソユンが飛び石の上を、足が着く前に次の足を出す――、いわゆる【空中ウォーキング】ともいえるステップで!! 軽快に飛び跳ねてふざけていたのだ!!
「うぐっ、……!?」
ドン・ヨンファは、
――ガ、クンっ――!!
と、半ば膝から崩れそうになりつつ、顔が歪めて引きつらせた。
まあ、『ブービートラップがあるかもだから、気をつけるぽよ』とか言ってた手前の、【これ】である。
いったい、【こいつの頭の中】は、どうなっているのか――?
一度、かち割って、中を確認して見てみたくなるものである。
「ちょっ、と……? ソユン?」
ドン・ヨンファが、顔のひきつるのが残りなかまらも、ゆるりと聞く。
「ん? 何、ぽよー?」
と、ステップをとめ、パク・ソユンが反応する。
「何ぽよー? じゃなくて……、もう、何やってんだよ? 変なステップして、ふざけて」
「は? ふざけてない、ぽよ」
「いや、ふざけてない、って言われてもね」
「いや、ふざけているようで、真剣にやっているかもしれないし、ぽよ、真剣にやっているようで、ふざけているかもしれないじゃない、ぽよ」
「……」
と、ドン・ヨンファは何度目かの、『もういいや……、こいつ』の目で絶句する。
そうして、さらに進んでいく。
すると、
「あっ――? これかぁ」
「ぽよ」
と、ふたりの目の前に、
――チーン……
として、確かに、【庵】とでもいうべき建築が現れた。
土壁の塗られ、軒の出た板屋根の、侘び寂のきいた少し古びた庵。
なお、小さい小屋ながらも、その屋根とのプロポーションは、あらゆる名建築にも通づるほどに、【黄金比的な美しさ】があった。
ふたりは、庵に近づく。
綺麗に、手入れされているのは分かる。
ただ、人の気配は、無い――
しかし、無人だが、【何者かの気配】があるような気がしてならない。
そして、戸は鍵などしておらず、開いているという。
そんな、雰囲気を感じながら、
「何か? 『どうぞ、お越しくださいませ』って、僕たちを招いている感があるね」
「ぽよ」
と、ふたりは、庵の戸へと足を進めていく。
「入っていって……、いいんだよね?」
ドン・ヨンファが、確認するように聞き、
「ぽよ」
「だから、どっちの【ぽよ】だよ……。まあ、大丈夫の【ぽよ】で、いいんだよな?」
「まあ、いいんじゃない? ぽよ? てか、私に聞いたところで、あんまし意味ないぽよ」
「まあ、そうだけどさ、」
と、【何か引っかかるようなもの】を感じながらも、
「じゃあ、とりあえず、入ってみるよ?」
「ぽよ」
と、意を決して、戸を開けてみる。
「お邪魔、しますよ」
ドン・ヨンファが、いちおう断りながら入り、
「すーる、ぽよー」
と、パク・ソユンが続く。
その【やーるでーす】との、タラちゃんにも似た語感。
「……」
ドン・ヨンファは、もはや、完全に虚無になって沈黙する以外なかった。




