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【黄色の壁】  作者: 石田ヨネ
第二章 東京、Gホテルにて

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21 ビール、ビール、冷えてるぽよ?

 スマホを置きつつ、

「さって……? 明日は、どうなるかのう?」

 と、美祢八はグラスを手に、呟いた。

「ん? 明日は、何かするんですか?」

 女が聞く。

「ああ、俺じゃないんだけど、ちょっと、興味のある【噂】があってのう……。【そいつ】を、ある人間に調べてもらうように、仕向けてのう」

「仕向けて、って……。それで? どんな噂なんですか?」

「あん? まあ、ちょっと建築の、【壁の関係】――、なんやけどね」

「壁の関係、ですか?」

「おうよ。何か、茶室っちゅうか、いおりかな? アンタ、茶道とかしたことあるけ?」

「私じゃなくて、大学の友達が、やってるんですけど……。何か、細かい作法とか、いろいろ難しそう。美祢八さんは、やってるんですか? 茶道?」

「いや、やらなんだ。ただ、仕事上、誘われることがけっこう多くてのう。茶室を手掛けたりすることもあっから、業界の人間からもそうやし、職人の中にもふだん、茶室や数寄屋をやっとるのもおるし」

「へぇ……。それで、その茶室、庵ですか――? どんな【噂】が、あるんですか?」

「あん、そやねぇ……? 何っちゅうか、【呪術系】というか、【スタンド系的なアレ】なんやけどね、」

「えぇ? 何ですかぁ、それぇ?」

「スタンド系って……」

「いや、【アレ】よ? 何か、足を踏み入れた人間が狂って、あっちの世界に行ってしまうとか……、もしくは、【超時空間的な力】で、異世界に幽閉されて帰ってこれなくなるとか」

「うわ……、オカルト、ですか?」

「うん。そうなるやろ、ね」

 と、美祢八は答える。

 また、坂系の女が尋ねる。

「てか、そんな噂を、ご友人――? 知り合いに調べさせるの? もし、美祢八さんが言うように、【オカルトなこと】が、本当に起こる茶室だったらどうするの?」

「おうよ。別に、“あいつら”なら、沢山よ」

ひどっ」

 と、何が沢山なのか、そう答える美祢八に、女は続けて、

「でも? その噂って、本当なんですか? 限りなく胡散くさく聞こえるんですけど」

「まあ、胡散くさいよりの胡散くさいだわ。ただの……、茶室や、庵ってのは、禅の思想の影響もあるんやけど……、己の、内面と向き合う的なところがあっての」

「何か、友達も、そんなこと言ってました」

「おうよ。自己の、内面と対峙し続けるということは、【ゲシュタルト崩壊】ってあるやん?」

「ああ、SNSとかで、たまに『ゲシュタルト崩壊がー』、とか見ますね」

「まあ、アレと同じ感じでの? 内面の、深層世界に入り続けると、ときに狂ってしまう可能性があるんよ。内面の深くにある、自分でも認識できない深層にある自我に、呑み込まれるようにしてな――」

「……」

 と、女はいったん、沈黙しつつ、

「――でも? 美祢八さん? もし、その庵に、そんな力があるとすると……、それは、どういう理由で? マンガとかに出てくるような、持ち主がヤバい能力者だったり、持ち主の怨念、とか?」

「それか、もしくは建物の、【壁自体】が、意志を持つようになった――」

 と、女の言葉を受けて、返しの言葉にように美祢八が言った。

「壁の中に、意志が――、ある?」

「うん。意志っちゅうか、アレよ、SF系に出てくるような、情報思念体的なナニカ」

「はぁ……、すると? どうして? その壁は、そうなっちゃたんですかね?」

「さあ、ねい? アレじゃない? 自身の内面に向き合う系のヤツを見過ぎて、可笑しくなっちゃったんじゃね?」

「自身の内面に向き合う系、て……」



          ******



 いっぽう、場面は変わりて。

 ちょうど、終電が過ぎるころ、パク・ソユンとドン・ヨンファのふたりは、Gホテルの部屋に戻っていた。

 香る湯けむりとともに、ふたりは風呂から出てくるなり、

「ビール、ビール、ぽよ」

 と、ガウンを羽織ったパク・ソユンが、先に冷蔵庫の前に行ったドン・ヨンファに言った。

 ビールをくれ、との意味なのだろう。

「え? ビール?」

「ぽよ。ビール、ビール、冷えてるぽよ?」

「何だよ、冷えてるかって? 冷えてないビールなんて、渡すはずないだろ」

 と、言いながら、ドン・ヨンファはビール瓶を取り出す。

「てか? どんだけ飲むの? 酒を?」

「だから、お酒は絶対やめたって言ってるぽよ。これは、麦のスポドリ、ぽよ」

「……」

 と、ドン・ヨンファは沈黙しつつ、「もうダメだ、こいつ」と、つっこむのを諦めた。

 ビールの栓を開けて渡す。

「ほら。ただ、明日行くならさ? 少しセーブしときなよ」

「ぽよ」

 と、パク・ソユンは受け取るや、麦のスポドリこと、エビスビールを飲む。

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