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【黄色の壁】  作者: 石田ヨネ
第二章 東京、Gホテルにて

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20/44

20 所詮、嫁なんてのは飯炊きババアで、子供など、田吾作壱号、弐号みたいなもん




          (4)




 場面は変わって――

 新宿は、歌舞伎町。

 飲みでいえば、二次会もしくは三次会のころの時間帯か、アーティストの、る・美祢八であるが、ポーカーをしたあと、バー・カウンターでキャストの女と飲んでいた。

 テーブルで繰り広げられる、【確率仕掛けの悲喜こもごもに翻弄されるさま】を、高みの見物にしつつ、

「美祢八さん? 今回は、いつまで東京にいるんですか?」

 と聞いてきたのは、某坂のアイドルグループや、もしくは高級クラブにでもいてそうな、顔立ちの整ったキャストの女。

「せ、やねぇ……? あと、二日、三日くらいかのう?」

 美祢八は、カクテルを飲みながら答える。

 冷えた器に盛られた、真ん丸いリンツのチョコをつまみにするという、可愛くも洒落乙なスタイルで。


「Gホテルに、泊まってるんですよね?」

「いいなぁ。私も、あそこ泊まってみたいなぁ」

 と、隣にいた別のキャストの女たちも加わる。

「アフヌン、めっちゃ行ってみたいんですよね」

 また、坂系の顔の女が、テンションをあげて言う。

「そうけ? あんなとこより、カプセルホテルのほうがいいやねか?」

「Gホテルを、“あんなとこ”呼ばわりとは、」

「いや、カプセルくらいのほうが、寝心地が、すっごいいいんよ。ちな? そこのカプセル取ってから、今夜、どうけ?」

「どうけ――? って、入れないでしょ。私たち、女子専用じゃないと」

「あっ? 美祢八さん、出禁」

 などと、美祢八はつっこまれつつ、

「でも? そしたら、何で? Gホテルに泊まっているんですか?」

「あん? まあ、ちょっと以前に、Gホテルの現場で仕事してのう。そっから、たまに、招待されたりするんよ」

「ええ~、いいなぁ」

「どんな現場を、手掛けたんですか?」

「まあ、大したもんやないっちゃ」

 美祢八は言いながら、スマホを開いて画像を見せる。

 そこに映るは、昼にパク・ソユンとドン・ヨンファのふたりとバッタリ会った、【黄色の壁】の大広間。

「わぁ、すっごい」

「何か、すごい豪華そうな空間。この黄色い壁も、ステキですね」

「そうけ? いうて、たかが壁やぜ? こんなもん」

「こんなもん、て……」

「こんなもん呼ばわりで沢山よ、壁なんて。あくまで建築やぜ? 芸術品と違って、値がつくわけでもない。まあ、単価いくらとかは、あっけど」

 美祢八は話しつつ、

「あ? シャンパン入れるわ?」

「シャンパン? ありがとうございまぁす!」

 と、坂系の女にシャンパンを入れる。

「まあ、いうても、やっすいシャンパンやけどの。安いシャンパンを、数発ぶちこむ、物量作戦よ!」

「何ですか、それ」

 と、女が『(笑)』のように笑う。

「だって? アンタ、考えられよ? 高級キャバなら、数十万超えるのをよ、こんな安く飲めるわけやぜ」

「考えられよ、って? 富山弁?」

「うん。アンタ、考えて“みなさいよ”的な」

 そう話していると、シャンパンが来る。


 開栓し、乾杯する。

 シャンパンにリンツと、何かエレガントでスイーツそうな組み合わせとともに、

「とりま、東京にいる間な、女遊びに【疑似恋愛】と遊び倒すぞぉ~」

「疑似恋愛て……、美祢八さん? 既婚者じゃないですか?」

「あん、あんなん、飯炊きババアやっちゃ」

「飯炊きババアて……、それに、恋愛じゃなくて、【 疑似】恋愛なんですか?」

「いや、この、【疑似】恋愛感ってのがおもろいんやっちゃよ……! 『悪貨は良貨を駆逐する』って言葉、あるやねか? それと同じよ」

「いや、恋愛を駆逐しちゃだめでしょ」

 と、カッコ笑い混じりに、女がつっこむも、

「もしくは、アレやっちゃ、パクリや二番煎じが、本家の作品を超える的な」

「はぁ、」

「それに、そもそもな……、結婚に、恋愛的な要素を求めるもんでもないのよ」

「え? だって、好きになって恋愛して、それで結婚するとかじゃないの? 普通は?」

「まあ、近現代はそうやけど、考えてみるこっちゃ。所詮は、共同体、社会を安定的に維持するためのシステムのひとつよ。だから、許嫁とか、昔は最初から結婚する相手が決まっとったり、経済的理由で結婚してたりするやねか? 所詮、嫁なんてのは飯炊きババアで、子供など、田吾作壱号、弐号みたいなもんよ」

「う、わぁ……」

ゆえにのう、恋愛は、愛人とか、別の女とするもんよ。【心が揺れ動く】のを愉しむ、もしくは心が揺れ動こうとするのを耐えるのを愉しむッ――! ポーカーといっしょやっちゃ」

 と、美祢八は話つつ、リンツを口に放りこむ。

「まあ、そういうところも、あるかもしれないですけど」

「そもそも、この、【心が揺れ動く快感】というのはな、【ギャン中】と同じでな? ある種の、不健全な【依存症的な要素】があっての」

「あ? それは分かるかも」

 と、女も一緒に、リンツを食いつつ、

「そういった、心を動かす駆け引きっちゅうのを、夫婦、家族という中でするものではない。だから、昔から、万葉集とか和歌とか歌ってた連中は、外でやっとったやん。いろんなとこで、確か、通い婚やったっけ――? そんなことしとったやん」

「はぁ、何か、ありましたね」

 と、ここで、女がふたたび美祢八のグラスを満たす。


 美祢八は、またスマホの画面を開いて、

「ところで、な? 今日、このオバちゃんと合ってな? 知っとるけ? このおばちゃん」

「ん――?」

 と、DJ・SAWこと、パク・ソユンの画像を見せた。

 モデルの、ファッションショーの衣装をばっちりキメてDJする姿。

 それを見て、

「やばッ! すっごい可愛い、綺麗じゃないですか!」

 と、キャストの女も、思わず言葉にした。

「なあ? バッチクソ、可愛いやろ? このオバちゃん」

「オバちゃん、て……。いくつ、なんですか?」

「あん? 34、くらいじゃないけ? このオバちゃん?」

「え? 34歳なんですか?」

 女は、驚いてみせる。

 世に美魔女との言葉はあるものの、画像のパク・ソユンは、確かに感心するほど美しかった。

 まあ、このパク・ソユンは、まだアラフォーではないから、美魔女というのはどうか、定かでないが。

 また、美祢八は、パク・ソユンのDJする動画を再生してみせる。

 その中で、DJの最中――、【空中走りみたいなステップのダンス】をしてふざけるパク・ソユンを見て、

「プッ……! 何しとんよ、このオバハ、おばちゃん」

「いま、オバハンって、言いかけたでしょ?」

 と、つっこまれた。

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