20 所詮、嫁なんてのは飯炊きババアで、子供など、田吾作壱号、弐号みたいなもん
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場面は変わって――
新宿は、歌舞伎町。
飲みでいえば、二次会もしくは三次会のころの時間帯か、アーティストの、る・美祢八であるが、ポーカーをしたあと、バー・カウンターでキャストの女と飲んでいた。
テーブルで繰り広げられる、【確率仕掛けの悲喜こもごもに翻弄される様】を、高みの見物にしつつ、
「美祢八さん? 今回は、いつまで東京にいるんですか?」
と聞いてきたのは、某坂のアイドルグループや、もしくは高級クラブにでもいてそうな、顔立ちの整ったキャストの女。
「せ、やねぇ……? あと、二日、三日くらいかのう?」
美祢八は、カクテルを飲みながら答える。
冷えた器に盛られた、真ん丸いリンツのチョコをつまみにするという、可愛くも洒落乙なスタイルで。
「Gホテルに、泊まってるんですよね?」
「いいなぁ。私も、あそこ泊まってみたいなぁ」
と、隣にいた別のキャストの女たちも加わる。
「アフヌン、めっちゃ行ってみたいんですよね」
また、坂系の顔の女が、テンションをあげて言う。
「そうけ? あんなとこより、カプセルホテルのほうがいいやねか?」
「Gホテルを、“あんなとこ”呼ばわりとは、」
「いや、カプセルくらいのほうが、寝心地が、すっごいいいんよ。ちな? そこのカプセル取ってから、今夜、どうけ?」
「どうけ――? って、入れないでしょ。私たち、女子専用じゃないと」
「あっ? 美祢八さん、出禁」
などと、美祢八はつっこまれつつ、
「でも? そしたら、何で? Gホテルに泊まっているんですか?」
「あん? まあ、ちょっと以前に、Gホテルの現場で仕事してのう。そっから、たまに、招待されたりするんよ」
「ええ~、いいなぁ」
「どんな現場を、手掛けたんですか?」
「まあ、大したもんやないっちゃ」
美祢八は言いながら、スマホを開いて画像を見せる。
そこに映るは、昼にパク・ソユンとドン・ヨンファのふたりとバッタリ会った、【黄色の壁】の大広間。
「わぁ、すっごい」
「何か、すごい豪華そうな空間。この黄色い壁も、ステキですね」
「そうけ? いうて、たかが壁やぜ? こんなもん」
「こんなもん、て……」
「こんなもん呼ばわりで沢山よ、壁なんて。あくまで建築やぜ? 芸術品と違って、値がつくわけでもない。まあ、単価いくらとかは、あっけど」
美祢八は話しつつ、
「あ? シャンパン入れるわ?」
「シャンパン? ありがとうございまぁす!」
と、坂系の女にシャンパンを入れる。
「まあ、いうても、やっすいシャンパンやけどの。安いシャンパンを、数発ぶちこむ、物量作戦よ!」
「何ですか、それ」
と、女が『(笑)』のように笑う。
「だって? アンタ、考えられよ? 高級キャバなら、数十万超えるのをよ、こんな安く飲めるわけやぜ」
「考えられよ、って? 富山弁?」
「うん。アンタ、考えて“みなさいよ”的な」
そう話していると、シャンパンが来る。
開栓し、乾杯する。
シャンパンにリンツと、何かエレガントでスイーツそうな組み合わせとともに、
「とりま、東京にいる間な、女遊びに【疑似恋愛】と遊び倒すぞぉ~」
「疑似恋愛て……、美祢八さん? 既婚者じゃないですか?」
「あん、あんなん、飯炊きババアやっちゃ」
「飯炊きババアて……、それに、恋愛じゃなくて、【 疑似】恋愛なんですか?」
「いや、この、【疑似】恋愛感ってのがおもろいんやっちゃよ……! 『悪貨は良貨を駆逐する』って言葉、あるやねか? それと同じよ」
「いや、恋愛を駆逐しちゃだめでしょ」
と、カッコ笑い混じりに、女がつっこむも、
「もしくは、アレやっちゃ、パクリや二番煎じが、本家の作品を超える的な」
「はぁ、」
「それに、そもそもな……、結婚に、恋愛的な要素を求めるもんでもないのよ」
「え? だって、好きになって恋愛して、それで結婚するとかじゃないの? 普通は?」
「まあ、近現代はそうやけど、考えてみるこっちゃ。所詮は、共同体、社会を安定的に維持するためのシステムのひとつよ。だから、許嫁とか、昔は最初から結婚する相手が決まっとったり、経済的理由で結婚してたりするやねか? 所詮、嫁なんてのは飯炊きババアで、子供など、田吾作壱号、弐号みたいなもんよ」
「う、わぁ……」
「故にのう、恋愛は、愛人とか、別の女とするもんよ。【心が揺れ動く】のを愉しむ、もしくは心が揺れ動こうとするのを耐えるのを愉しむッ――! ポーカーといっしょやっちゃ」
と、美祢八は話つつ、リンツを口に放りこむ。
「まあ、そういうところも、あるかもしれないですけど」
「そもそも、この、【心が揺れ動く快感】というのはな、【ギャン中】と同じでな? ある種の、不健全な【依存症的な要素】があっての」
「あ? それは分かるかも」
と、女も一緒に、リンツを食いつつ、
「そういった、心を動かす駆け引きっちゅうのを、夫婦、家族という中でするものではない。だから、昔から、万葉集とか和歌とか歌ってた連中は、外でやっとったやん。いろんなとこで、確か、通い婚やったっけ――? そんなことしとったやん」
「はぁ、何か、ありましたね」
と、ここで、女がふたたび美祢八のグラスを満たす。
美祢八は、またスマホの画面を開いて、
「ところで、な? 今日、このオバちゃんと合ってな? 知っとるけ? このおばちゃん」
「ん――?」
と、DJ・SAWこと、パク・ソユンの画像を見せた。
モデルの、ファッションショーの衣装をばっちりキメてDJする姿。
それを見て、
「やばッ! すっごい可愛い、綺麗じゃないですか!」
と、キャストの女も、思わず言葉にした。
「なあ? バッチクソ、可愛いやろ? このオバちゃん」
「オバちゃん、て……。いくつ、なんですか?」
「あん? 34、くらいじゃないけ? このオバちゃん?」
「え? 34歳なんですか?」
女は、驚いてみせる。
世に美魔女との言葉はあるものの、画像のパク・ソユンは、確かに感心するほど美しかった。
まあ、このパク・ソユンは、まだアラフォーではないから、美魔女というのはどうか、定かでないが。
また、美祢八は、パク・ソユンのDJする動画を再生してみせる。
その中で、DJの最中――、【空中走りみたいなステップのダンス】をしてふざけるパク・ソユンを見て、
「プッ……! 何しとんよ、このオバハ、おばちゃん」
「いま、オバハンって、言いかけたでしょ?」
と、つっこまれた。




