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【黄色の壁】  作者: 石田ヨネ
第二章 東京、Gホテルにて

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19 モナリザのように虚空を見るオッサンの目

「……」

 沈黙する美祢八。

 その、モナリザのように虚空を見るオッサンの目は、どこか意味深のように見える。

 まあ、何も考えてない可能性も、大だが……

 また、

「……」

 と、パク・ソユンも、「ぽよ」とは言わず、ジトッ……とした目で、ただ無言だった。

 よみがえる、【トランス島】――、【Xパラダイス】での記憶。

 それが、忌々しいものだったかどうかは別として、簡単には言葉にできないものである。

 そんな、沈黙を破って、

「ああ……。確かに、その現場なら、行っとったわ」

 と、美祢八が答えた。

「やっぱり……、あの壁は、美祢八の作品だったんだ」

「んあ? あの壁って、どれけ? 一部屋じゃなく、何部屋か、手がけたからのう」

「ああ……、その? 何だったかな?」

「アレ、ぽよ。何か、イモガイみたいな模様の、壁ぽよ」

「イモガイ……? ああ、あの毒のすっげぇ貝け?」

「うん。これ、ぽよ」

 と、パク・ソユンは美祢八に、スマホの画面を見せる。

【グスタフ・クリムト】の作品に出てきそうな、少しいびつな、大小の三角形がフラクタル的に並ぶ模様。

 それを見て、

「まあ、“こいつ”を参考にしたんは間違いないっちゃ」

「何故ぽよ?」

 と、ここでまた、ジトッとした目でパク・ソユンの【何故ぽよ?】が出る。

「まあ、せやねぇ……? クライアントの財団さんがね、生体工学、生命工学を扱っとっからのう、【生命体】、【構造化】っちゅうのを、いちおうテーマに盛り込んだんやっちゃ。そんで、何か資料を探しとったときに、たまたま、の? この、フラクタル幾何構造の、イモガイの模様を見てのう』

「それで、あの壁を作ったんだ。けっこう大変だったんじゃないかい? それも、大理石風にするなんて」

「おうよ。えらい、ダヤかったっちゃ」

 美祢八が、富山弁の【ダヤい】を交えて答えた。


 その美祢八が、続けて、

「ほんで? アンタが、話題に出すっちゅうことは……、この変態島で、何かトラブったんけ?」

「おいおい、トラブったてか、死にかけたんだぜ……!! なあ? ソユン?」

 トラブったとの軽い言葉に、ドン・ヨンファが思い出して反応し、

「ぽよ」

 と、相方として一緒に島にいたパク・ソユンが、また【ぽよ】などという、軽すぎる返事みたいなナニカをした。

 すると、

「死にかけたトラブルって、何け? 何か、変形した“異形のもの”に、襲われたとかけ?」


「――!」


「……」


 と、島での出来事を的確に言い当てた美祢八に、ドン・ヨンファは驚愕し、パク・ソユンは沈黙する。

 そんな、何か、違和感のようなものを感じながら、

「な、あ……? 美祢八?」

「……ん? 何け?」

「もしかして、美祢八が、【Xパラダイス】の財団に関わっている――、なんてことは、無いのかい?」

 と、ドン・ヨンファは恐る恐ると、聞いてみた。

「……」

 美祢八は、再び沈黙する。

 そんな、間を置いて、

「そうや、ねい……? 俺は、壁を作っただけ――、と言うこともできる」

「……」

「……」

 その言葉に、ドン・ヨンファとパク・ソユンのふたりは、すこし目を、瞳を見開く。

「それに……、もし、関わっている――」 

 と、美祢八が、


「……!」

「……」


 と、半ば、戦慄にちかいものを感じるドン・ヨンファと、ジトッ……とした虚無の目で見るパク・ソユンに、

「――と、答えたら……、どうするんけ?」

 と、何か、意味深なところがありそうな様子で、間を空けて聞いてみた。

「ま、まあ……、そ、そいつは……」

 ドン・ヨンファが、言葉を詰まらせていると、

「まあ、冗談のようなもんやと思ってくれよ」

「いや、冗談って、」

「俺が、そのX財団に関わっているにしろ、いないにしろ……、こんな、ギャンブル狂いの神さん連中が作った世界の、【イルミナティ】だの、【自由な石工らさん】だの、【狂人】が、弄ぶ世界だ――」

「……」

「……」

 と、ドン・ヨンファとパク・ソユンのふたりが沈黙して耳を傾ける中、

「その中で……、せめて、少しでも、世界の【謎】を解くように、面白く生きるように……、【何か】を、追及すべきじゃなかろうか?」

「……」

「……」

 と、まだ続くふたりの沈黙に、

「――てなわけで、とりあえずの、その【黄色の壁】でも調べにいったらどうけ?」

 と、美祢八は、そう結論付けるように言った。

「……って、そうまとめてくるのかい?」

 おいおいと、ドン・ヨンファはつっこみたくなるも、

「まあ、いいじゃない、ぽよ。どっちにしろ、このまま帰るのは退屈だし、調べに行くぽよ」

「退屈だし、ってねぇ……」

 と、相方のパク・ソユンのほうは、前向きだった――

 ――――

 ――


 ――と、ここまでが、話の経緯である。

 もんじゃも、ビールもいい感じに進む中、

「黄色の壁、かぁ……」

 ドン・ヨンファが、呟いてみた。

「狂ってしまう壁……、あるいは、異次元に連れていかれてしまう壁……。本当なんだろうな? そんな、胡散くさそうな話」

「ぽよ」

 と、もんじゃをヘラで口にしながら、パク・ソユンが反応する。

「まあ、もし本当なら……、私は調べてみたいわね、ぽよ」

「そう、なのかい?」

「ぽよ」

「『うん』、で、いいのかい? その返事は?」

 と、相変わらずの「ぽよ」の受け答えに、ドン・ヨンファは「どっちだよ?」とつっこみたくなりながら再び確認してみるも、

「ぽよ」

「……」

 と、やはり「ぽよ」しか返してこないパク・ソユンに、絶句気味に沈黙した。

 ――ジュ……

 と、鉄板の音が静かに聞こえながら、

「まあ、それにさ? ぽよ? 最近は特に、これといった目ぼしい調査なんて、してないからさ、ぽよ」

「それは、言われてみたら、そうだね」

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