17 固まらない、ぽよ
「ほら、話してたじゃないか? ふたりが日本へ発つ、先日の、屋台で」
「あん? ……ああ? 確かに、そんな話してたな」
と、キム・テヤンも思い出した。
カン・ロウンが、続けて、
「確か、Xパラダイスのホテルの部屋の壁が、その美祢八という男の作品じゃないか――? って話をしてただろ? イモガイの模様のような、磨き壁の」
「ったく、詳しくは覚えてなんかねぇな。あいつらの話なんか、覚える価値ねぇってんだよ」
と、キム・テヤンが、しかめっ面のまま、
「――で? その、美祢八ってのに会ったからって、何だってんだよ?」
「そうだ、なぁ……? その、Xパラダイスに何らかの形で関わっていたと思われる、神出鬼没で謎の多い人物だからな……、そういう前情報もあって、何か、ソユンとヨンファのふたりに、【何か良からぬ謎のネタ】でも、提供してるんじゃないかって、思ってね。まあ、直感レベルの話だが」
「けっ、何が直感レベルだってんだ、しょうもねぇ」
「まあ、それは認めておくよ」
「あっ――? おいおい、俺の明太子のとこ取りやがってよぅ! ったく!」
と、答えながら、明太多めのところをヘラで取ったカン・ロウンに、キム・テヤンが文句垂れる。
そのように、もんじゃにビールが進みつつ、
「どちらにしろ、よぅ? 昼の【Gホテル】では、連中は、ただ単に、壁の鑑賞みたいなことをしているだけだったんじゃないか? まあ、近くで話を聞けてないから、何とも言えないけどな」
キム・テヤンが言った。
そのとおり、カン・ロウンとキム・テヤンのふたりは、Gホテルにいたパク・ソユンとドン・ヨンファを、半ば、スパイか探偵のように尾行していた。
なお、もちろんのこと、彼らふたりは変装をしていた。
カン・ロウンが、白髪のカツラと普通のメガネで、あるバスケットボール漫画に出てくる「諦めたら終わり」だとの名言を持つ監督の男の姿。
そして、キム・テヤンが、「バスケがしたい」と打ち明ける前のセンター分けのロン毛のカツラを被った、やさぐれ風男という……
それはさておき、
「しかし、テヤン? もっと近くで、聞けなかったか? それか、先回りして盗聴器を、版築壁にしかけたりとか? 元情報部の、経歴を活かしてな」
「元情報部たってな、そんな、何でもできるみたいに言ってくれるなよ」
「まあ、それはそうだな。とりあえず、私はもう少し、ソユンとヨンファたちと美祢八に関して、注意して見ておこうかと思うよ」
「フン、そいつは、ご苦労なこった」
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場面は変わって、夜の渋谷。
ハチ公前から、スクランブル交差点。
観光客らがするように、写真や動画を撮りながら交差点を渡るなどというミーハーなことをしつつ、センター街へ。
奇しくも、“こちら”も同じく、【もんじゃ】屋へと至る。
――ジュ、ワァァ……
と、鉄板から、香ばしい音がする中、
「固まらない、ぽよ」
と言ったのは、広がるもんじゃをヘラで触る、パク・ソユンだった。
「いや、固まったら、お好み焼きになっちゃうんだけどさ……」
「うん。冗談、ぽよ。さすがに、それくらい知ってるわ、ぽよ」
「……」
と、ドン・ヨンファがつっこむも、今回の滞在中は絶対に【ぽよ】をつけるのをやめる気配のないパク・ソユンに、絶句気味に沈黙する。
「てか? 僕が焼く係、なのかい?」
「そうぽよ」
「まあ、別にいいんだけどさ。ひとりで焼いてても、アレだし、ね」
と、ふたりはそのように話しつつ、そろそろ、もんじゃが焼けてきた。
そうして、
「うん。これくらいで、充分かな」
「ぽよ」
と、確認しつつ、いざヘラを構えて食おうとしたところ、
「あっ――? ちょっと、そこ、僕が狙ってたところなのに……!」
と、チーズなどの濃厚なスポットを先に奪ったパク・ソユンに、ドン・ヨンファが憤りの声をあげる。
「それくらい、いいじゃない、ぽよ。まだ、沢山あるし、ぽよ」
「沢山あるぽよ、ってね……」
ドン・ヨンファはやれやれと言いたくなりながらも、諦めつつレモンサワーのジョッキを口に運んだ。
飲みつつ、
「ところで、さ? その、美祢八から聞いた、【黄色の壁】のある場所に、行ってみるかい?」
と、ドン・ヨンファが改めるかのように、パク・ソユンに聞いた。
「ぽよ」
パク・ソユンが、答える。
「いや、【ぽよ】って……、どっちだよ……」
と、ドン・ヨンファが呆れながらも、振り返ること、こうである――
――――
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