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【黄色の壁】  作者: 石田ヨネ
第二章 東京、Gホテルにて

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17/44

17 固まらない、ぽよ

「ほら、話してたじゃないか? ふたりが日本へ発つ、先日の、屋台で」

「あん? ……ああ? 確かに、そんな話してたな」

 と、キム・テヤンも思い出した。

 カン・ロウンが、続けて、

「確か、Xパラダイスのホテルの部屋の壁が、その美祢八という男の作品じゃないか――? って話をしてただろ? イモガイの模様のような、磨き壁の」

「ったく、詳しくは覚えてなんかねぇな。あいつらの話なんか、覚える価値ねぇってんだよ」

 と、キム・テヤンが、しかめっ面のまま、

「――で? その、美祢八ってのに会ったからって、何だってんだよ?」

「そうだ、なぁ……? その、Xパラダイスに何らかの形で関わっていたと思われる、神出鬼没で謎の多い人物だからな……、そういう前情報もあって、何か、ソユンとヨンファのふたりに、【何か良からぬ謎のネタ】でも、提供してるんじゃないかって、思ってね。まあ、直感レベルの話だが」

「けっ、何が直感レベルだってんだ、しょうもねぇ」

「まあ、それは認めておくよ」

「あっ――? おいおい、俺の明太子のとこ取りやがってよぅ! ったく!」

 と、答えながら、明太多めのところをヘラで取ったカン・ロウンに、キム・テヤンが文句垂れる。


 そのように、もんじゃにビールが進みつつ、

「どちらにしろ、よぅ? 昼の【Gホテル】では、連中は、ただ単に、壁の鑑賞みたいなことをしているだけだったんじゃないか? まあ、近くで話を聞けてないから、何とも言えないけどな」

 キム・テヤンが言った。

 そのとおり、カン・ロウンとキム・テヤンのふたりは、Gホテルにいたパク・ソユンとドン・ヨンファを、半ば、スパイか探偵のように尾行していた。

 なお、もちろんのこと、彼らふたりは変装をしていた。

 カン・ロウンが、白髪のカツラと普通のメガネで、あるバスケットボール漫画に出てくる「諦めたら終わり」だとの名言を持つ監督の男の姿。

 そして、キム・テヤンが、「バスケがしたい」と打ち明ける前のセンター分けのロン毛のカツラを被った、やさぐれ風男という…… 

 それはさておき、

「しかし、テヤン? もっと近くで、聞けなかったか? それか、先回りして盗聴器を、版築壁にしかけたりとか? 元情報部の、経歴を活かしてな」

「元情報部たってな、そんな、何でもできるみたいに言ってくれるなよ」

「まあ、それはそうだな。とりあえず、私はもう少し、ソユンとヨンファたちと美祢八に関して、注意して見ておこうかと思うよ」

「フン、そいつは、ご苦労なこった」 



          ******



 場面は変わって、夜の渋谷。

 ハチ公前から、スクランブル交差点。

 観光客らがするように、写真や動画を撮りながら交差点を渡るなどというミーハーなことをしつつ、センター街へ。

 奇しくも、“こちら”も同じく、【もんじゃ】屋へと至る。

 ――ジュ、ワァァ……

 と、鉄板から、香ばしい音がする中、


「固まらない、ぽよ」


 と言ったのは、広がるもんじゃをヘラで触る、パク・ソユンだった。

「いや、固まったら、お好み焼きになっちゃうんだけどさ……」

「うん。冗談、ぽよ。さすがに、それくらい知ってるわ、ぽよ」

「……」

 と、ドン・ヨンファがつっこむも、今回の滞在中は絶対に【ぽよ】をつけるのをやめる気配のないパク・ソユンに、絶句気味に沈黙する。

「てか? 僕が焼く係、なのかい?」

「そうぽよ」 

「まあ、別にいいんだけどさ。ひとりで焼いてても、アレだし、ね」

 と、ふたりはそのように話しつつ、そろそろ、もんじゃが焼けてきた。

 そうして、

「うん。これくらいで、充分かな」

「ぽよ」

 と、確認しつつ、いざヘラを構えて食おうとしたところ、

「あっ――? ちょっと、そこ、僕が狙ってたところなのに……!」

 と、チーズなどの濃厚なスポットを先に奪ったパク・ソユンに、ドン・ヨンファが憤りの声をあげる。

「それくらい、いいじゃない、ぽよ。まだ、沢山あるし、ぽよ」

「沢山あるぽよ、ってね……」

 ドン・ヨンファはやれやれと言いたくなりながらも、諦めつつレモンサワーのジョッキを口に運んだ。

 飲みつつ、

「ところで、さ? その、美祢八から聞いた、【黄色の壁】のある場所に、行ってみるかい?」

 と、ドン・ヨンファが改めるかのように、パク・ソユンに聞いた。

「ぽよ」

 パク・ソユンが、答える。

「いや、【ぽよ】って……、どっちだよ……」

 と、ドン・ヨンファが呆れながらも、振り返ること、こうである――

 ――――

 ――

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