16 何でい? 固まらねぇじゃねえか
(3)
夕暮れののち――
夜の街の盛り上がりはじめる時間帯のこと、同じく都内の、飲み屋街にて、
――ジュ、ワァァ……
と、鉄板が香ばしい音を立てながら、もんじゃが焼ける。
テーブルには、ビールと、その他つまみと並びながら、
「何でい? 固まらねぇじゃねえか」
と、言ってみせたのは、しかめっ面のキム・テヤンであった。
その対面には、
「まあ、【もんじゃ】は、固まらないからな。固まったら、チヂミや、お好み焼きになっちゃうからな」
と、黒の丸サングラスのカン・ロウンが、土手を崩した後のもんじゃを、ヘラでさばいていた。
「けっ、こんな、ソースの入ったチジミなんかあるかよ。まあ、知ってっけどよ……、まさか、本当に、こんな固まらないとはな」
と、キム・テヤンが舌打ちしつつ、
「で? いつ食えんだよ? こいつは?」
「まあ、もう少し待てよ」
と、カン・ロウンが、もんじゃの焼け加減を確認して答える。
その間、ビールに枝豆に手をつけつつ、キム・テヤンが
「やれやれ、よぅ……、まったく、何で、俺まで来なきゃなんねぇんだよ」
「まあ、いいじゃないか。久しぶりの日本じゃないか」
「けっ、別に、そいつは、いいんだけどよ……、何で? よりにもよって、お前となんだよ」
と、話しながら振り返ること――
――――
――
――パク・ソユンとドン・ヨンファのふたりが、日本へ行く前日のこと。
屋台から、彼らふたりが帰っていったのを見て、
「けっ、何が、高級ホテルだってんだよ。あいつらなんかにゃ、もったいねぇだろ」
と、キム・テヤンが、舌打ちして言った。
そこへ、
「なあ? テヤン?」
「ん……? 何だ?」
「私たちも、あのふたりの後を追って、東京へ行かないか? もちろん、ふたりには内緒にして」
と、カン・ロウンが提案してきた。
「ああ”? 何、だって?」
キム・テヤンがしかめっ面で、ポカンとして聞き返す。
「俺たちも、東京へ、行くだと……? やつらの後を追ってか?」
「ああ。そのとおりだ」
「いや、何だって? また?」
と、カン・ロウンに、思いついた理由を聞くと、
「うむ。まあ、“何も起きない”とは思うけどね、あのふたりのことが、少し心配に、気になってね」
「ああ”? 何だ? 連中の、見守りたいみたいなことをすんのかよ? 俺たちゃよぉ?」
「まあ、見守りというのもアレだが、“先回のこと”も、あるからな」
「“先回のこと”って、何だったか? 例の、【変態島】みたいなとこか?」
「まあ、変態島って言い方はアレだが……、その、【Xパラダイス】とかいってた島のことだ」
と、先ほど話した、Xパラダイスでの件について触れた。
「何だ? すると、あいつらが、その変態島のときみてえなトラブルに合わないか、心配してるってわけか?」
「まあ、杞憂かもしれないが、そういうことだ――」
「けっ、」
と、お決まりのように舌打ちするキム・テヤンに、
「同時にな、万が一、また、あのふたりがトラブルに合うとしたら――」
「……」
「どうやって、対処をするのか――? 興味も、ある」
と、意味深そうな間を置いて、カン・ロウンが言った。
「けっ、何だって、あいつらのために? 俺は、やだぜ」
「まあ、いいじゃないか。ここ最近、我々ふたりとも、調査というほどの調査をしてないからな」
「フン、」
「それに、気が乗らないなら、テヤンは気にせずに、ひとり、遊びに行ってくれたっていいから」
「おいおい、オッサンひとりで、東京で何しろってんだよ? まったく」
と、キム・テヤンは、「勘弁してくれよ」との身振りで言った――
――――
――
――ここで場面は、現在進行中の、東京のもんじゃ居酒屋へと戻る。
――ジュゥゥ……
と、香ばしく焦げたる匂いも、混じるとともに、
「お? 焼けたな」
と、鍋奉行かBBQの火の番のごとく、鉄板を見守っていたカン・ロウンが告げた。
「ああ”? これで焼けただと?」
「ああ、そうだ。――で、こうやって、食べるみたいだな」
と、例の小さいヘラで、目の前でカン・ロウンが実演してみせる。
「何だよ? こんな、チマチマ食うわけか?」
「何だよ、って? もんじゃ、食べたことないのかい? 情報部時代、とかに?」
「情報部時代に、たってな」
「日本に滞在してのミッションとかも、あっただろう?」
「けっ、何で、日本に行ったら、もんじゃってのが定番なんだよ? わざわざ、行かねえよ」
などと、話しつつ、
「まあ、もんじゃのことは置いてだな……、ソユンとヨンファのふたりに関して、何か、気になることはありそうか?」
「ああ”? どうでもいいじゃねぇか、あいつらのこった」
と、興味なさそうに、もんじゃにビールを進めるキム・テヤンに、
「何か、その、美祢八という人物と会ってたじゃないか」
「ああ”? 美祢八、だと?」
と、カン・ロウンが、先日の屋台で話題にあがった人物――、る・美祢八に関して触れた。




